原神世界に転生した一般人の話 作:紡がれ過ぎて雁字搦めになった運命
異世界、って言う言葉に憧れを抱いていたのは、正直に言うと中学生の頃までの話だった。
高校生にもなると現代文明の利器の利便性に気が付き、異世界は未知のウィルスがだとか未熟な文明がだとか言い出して、見事に中二病から高2病に進化してしまっていた小賢しい俺だったが、その意見は高2病を抜け出し、多少なりとも垢抜けていった大学生、現実を知って落ち着いた社会人となった今でも覆ることは無かった。
特に、文明の利器が存在しないなんてのはもはや考えられないし、ゲームやアニメ等と言ったオタク文化が無い世界というのも俺には想像できなかった。
ま、異世界という存在は架空のモノであることは百も承知だ。ただ、『もし異世界に行けるとしたらどうする?』という、オタクの多い酒の席で定番の質問が飛んで来たら、俺はそう答えるだろう、という話だ。
…それだけの、話のはずだった。
「…これからどうしよう…」
俺は今、ベッドに腰掛けて絶望の淵に頭を抱えうずくまっていた。
視界に見えるのは、中学生くらいの細い腕と細い足。そして日本じゃあまり見ない洋風のパジャマ。
洋風の意匠が凝らされたベッドや棚などの家具が配置された寝室だったが、小さな鏡がベッド隣のサイドテーブルの上にあった。それを見てみると、そこには猫みたいな釣り目をした、色白の肌の黒髪赤目の少年がいるではないか。
ここで思い出してほしいのは俺は既に社会人であり、大人の男だということだ。身長は大体170cmあったし、腕も足も中肉中背と言った感じでもっと太く、男らしいモノだった筈だ。
それがどういう訳か俺はショタと化していた。中学生くらいのショタ。それが今の俺らしい。
ちなみに、記憶はおぼろげながらある。その記憶によると、今の俺の名前は忍野シャルル。モンド人と稲妻人とのハーフなのだという。
モンド、それに稲妻。聞き慣れた言葉だ。察しの良い俺はすぐに気が付いた。あれ?ここって原神の世界なのでは?と。
原神。それは元素と呼ばれるエネルギーで満ちた世界を冒険する、アニメ調のオープンワールドRPG。その癖基本プレイは無料という素晴らしいゲームだった。奥深い設定とキャラデザインの良さに惹かれて、俺もずっとプレイしてた。だからこそ分かる。ここは確かに原神の世界なのだということが。
「…マジかよ…」
つまり、あれほど望んでいなかった異世界転生の憂き目に遭ったということ。それはつまり、俺はもう二度と日本に帰れないということだ。家族にも、続きが気になっていたアニメや漫画のアレコレも、何もかもがもう二度と会うことはない。つまりは最悪ということだ。
不幸中の幸いなのは、今の俺は忍野シャルルを押しのけて…つまり自我を塗りつぶす形で存在する訳ではなく、忍野シャルル自体が俺という自我の延長線上の存在だったということだ。
つまり今の俺は、ただ忘れていた記憶を思い出しただけ。忍野シャルルを殺してこの世に誕生した、等という、異世界転生モノにありがちな鬱展開は存在しない。それだけは本当に良かったと思う。
さて、では今考えるべきはなんだろう。
疑問はいくつも浮かび上がる。俺はいつの間に死んでしまったのか。一体どうしてゲームの世界に転生してきてしまったのか。そしてこれからどうすればいいのか…等々。
前二つはもう考えたって仕方のない事だと理性で割り切るしかない。ただ、これからどうすればいいのかについては…考える必要があるっていうのに、検討すらつかない。
「…ふー…一回落ち着け、俺」
俺は自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。
まずは今の状況の確認だ。
まず、俺が今ここにいるのは原神の世界だ。七神が統治する七つの国が存在し、それぞれの国が現実での国をモチーフにしている。例えばモンドだと中世ヨーロッパの世界観だし、稲妻だと江戸時代の日本みたいな雰囲気だ。他にも中国をモチーフとした璃月などもある。現時点では確か、この三つしか実装されていない。
で、ここで俺の親についてのおさらいだが、父親がモンド人、母親が稲妻人だったらしい。両方ともどこかで死んでしまったようだ。そもそも母親は失踪して顔すら覚えていない、父親は宝盗団で迷惑ばかりかけられた、とあまりいい思い出は無かったので、そこに関してはもう思う所は無い。
だがそれにしても凄い組み合わせだ。稲妻とモンドはマップで言うと正反対に位置しており、その間には広大な海、そして璃月が広がっている。移動するには船を使うしかない。しかもこの世界、妙に拡張されているようで、例えばモンドから風立ちの地…つまり、ゲームで言えば移動に数分もかからないような近場でも、この世界では1、2時間はかかる。
しかも稲妻は今は鎖国状態で、人の出入りも滅多にない。つまり父親と母親が出会う確率はかなり低い訳だ。考えてみたら、俺、実は結構レアな存在なのかもしれない。
…まあ、そこは今はどうでもいいか。閑話休題。
今、俺が住んでるのはモンドの城下町の端にある小さな家だ。平屋でボロボロ、築何十年は経っているであろう劣化具合。雨漏りも普通にする。
そこに住みながら、俺はキャッツテールという酒場で雑用係をしている。賃金はその日暮らしがやっと、というくらいだ。老後の事を考えて貯金とか、そういう言うこともできない。
そもそもだ。俺には借金がある。
何の借金だって?それはもちろん、父親がこしらえていったものだ。借金地獄に陥ってからの宝盗団落ちってのが、父親が辿った末路だったのだ。で、父親が死んだら息子の俺が払え、っていう話らしい。
「あ、これ詰んだな」
…いや待て待て。そう簡単に諦められるか。思考停止してんじゃねえぞ俺。
問題は分かった。金だな。俺には金が必要だ。
金を手に入れる為にはどうすればいいのかだが。原神で金稼ぎと言えばなんだ?正直バイトとかだと全く足りない。とはいえ給料の高い仕事は教養が求められる。俺にそんなものはない。
結論。
「…冒険者になるしかないか」
というか、俺はこの世界での金の稼ぎ方はそれしか知らない。前世と今世の知識含めてだ。冒険者になればクエストを受けられるし、遺跡やら謎に出現する宝箱やらで金が手に入る機会が増える。上手くいけば、普通に働くよりも多く稼げるはずだ。
ただ、問題はもちろんある。というのも俺、神の目持ってない。
ちなみに神の目とは、分かりやすく言うと外付けの元素を操る器官の様なもので、これがあるとないとでは天と地ほどの差ができてしまう。この世界の住人は基本元素は使えないが、神の目を手に入れると使えるようになる。その差は非常に大きいのだ。
ゲームで言えば、操作できるキャラクターは全員神の目持ちだ。逆に神の目を持っていないのは殆どがNPC。つまりはモブ。
そしてそれは俺も同じということになる。
まあ、とはいえ神の目を持っていないと冒険者は出来ない、ということはない。実際ゲームで出てくる冒険者は殆どが神の目を持っていない。それに、ない物ねだりしてあーだこーだ言う暇があるのなら、とっとと行動に移るべきだ。
「…よし、行くか」
俺はベッドから飛び降り、早速準備にかかるのだった。
■
「はい、それではこれで冒険者登録は完了です。これからよろしくお願いしますね、忍野さん」
「あ、はい。よろしくお願いします、キャサリンさん」
冒険の証…つまり、冒険者としての身分証みたいなものを受け取って、それをカバンの中にしまった。俺はその後、すぐにそっとそこから離れて、近くの茂みに身を隠してじっとする。
「…再起動しています。もう一度お試しください…」
しばらく経つと、キャサリンさんの口から、まるで機械の音声みたいな棒読みが聞こえてきた。
や、やっぱり人間じゃないんだ…俺はドキドキしながら茂みから出てそこから離れた。
キャサリン。それは冒険者協会の受付係であり、原神7大ミステリーの一人である。最初期に主人公に『素質があるから』と話しかけて、それ以降冒険者として何かと仕事を持ってきてくれたり冗談を言ってきたりと、ビジネスパートナーとしていい関係を築くことになる。
そんなどこからどう見ても人間にしか見えないキャサリンだが…彼女の近くでキャラクターを操作せずに放置しておくと、キャサリンの待機用のセリフを聞くことができる。そのセリフが、機械音声の棒読み、しかも壊れたロボットのような内容なのだ。
一体彼女は何者なんだ。俺と話している時は完全に普通のお姉さんって感じだったのに、独り言をつぶやいている間は表情と目が完全に死んでいた。や、やっぱりあの人って…。
ゾクッ…寒気がしてバッと振り返ると、そこにはキャサリンさんが笑顔で俺に手を振っている姿があった。
…俺はこれ以上考えることを辞めた。
「それにしても、冒険ランクは0からか…ま、当たり前か。俺街から出たことないし…」
冒険の証を開いて、そこにある内容を読んで俺は呟いた。冒険ランクとはその名の通り冒険者としての格であり、高ければ高い程危険地帯への立ち入りが許可されたり、幅広い仕事を任されたりと特別扱いを受けられるようになる。
加えてランク1毎に冒険ランク報酬が貰える。つまりはご褒美である。ただ、ゲームでは貴重なアイテムやガチャ石を手に入れることができたが、全く同じものが手に入るとは思えない。そもそもガチャ石とか、この世界に存在するのかも怪しい。脆弱樹脂…ゲームで言うスタミナを回復するアイテムとか、そのスタミナ自体、どういう扱いなのかさえ分からない。あまり当てにし過ぎるのもアレだろう。
「そう言えば、街の中に宝箱とかあったよな…探してみるか?」
時間があれば散歩がてら探してみよう。
ただ、ゲームみたいに家の壁をよじ登って屋根の上に立つなんてことをしたら、一瞬で通報されて西風騎士団…モンドの警察みたいな人達に捕まることになる。怖いのでそこまではやらない。見つかればいいな、くらいなものだ。
ま、まずはその前に、武器の調達にでも行きますかね。と、目的地に歩き出した時だった。
「シャルルいた~!」
「ぐへっ」
腹に何かがぶつかってきて、俺は変な声を上げてたたらを踏んだ。見てみると、小さな女の子が俺を見上げている。
「シャルル、ロジャー見なかった?」
「でぃ、ディオナ…急に飛びかかってこないでくれ…」
そこにいたのはディオナ…俺を雑用係として雇ってくれているキャッツテールの、凄腕バーテンダーだ。モンドにおいて、お酒造りでディオナの横に並ぶ者はいない、とさえ言われる程である。
だが、見た目ではバーテンダーだなんてわかる人はいないだろう。何せ小学生程の体躯に幼さのある顔立ち、そしてピンク色の髪をした頭には三毛色の猫耳、お尻にはしっぽが生えているのである。カッツェレインと呼ばれる、獣の特徴を宿した特殊な一族の一人だ。
ちなみに、ロリにしか見えないがモンドではお酒は18歳未満は飲めないことになっている。そんなお酒を造る事の出来るディオナさんは、つまり俺よりも年上だということだ。
更に付け加えて言うならば、ゲームでは操作キャラの一人だった。耐久度の高いバリアと回復両方をこなせる貴重な能力を持っていて、当てれば何かと重宝する。
そんなディオナとはバイトの先輩後輩みたいな関係だ。
ただ、相手が18歳以上だと知った俺は、まだ前世の記憶がないにもかかわらずおぼろげながらも日本の年功序列の意識が出て、最初の頃はディオナをさん付けで呼んでいた。『ディオナさん』と。
ディオナは『慣れないから呼び捨てでいいにゃ』と言いつつも、それに甚く感激したらしく、何かと先輩風を拭かせては俺に懐いてくれるようになった。あとは俺が未成年でお酒を飲まない年齢だというのも関係あるだろう。この人、お酒を飲む人は無条件で嫌いらしいし。
俺は既に俺から離れたディオナを見下ろした。別に抱き着いてきたわけではなく、走っていた途中で俺を見つけて、そのままの勢いで突っ込んできたのだろう。俺はクッションか。
「ロジャー…って猫だよな?見てないな。またいなくなったのか?」
「そうなの!全くもう、いつも勝手にふらふらどこかに行っちゃうんだから。探す方の身にもなってほしいものにゃ」
「わざわざ探しに来るなんて、ロジャーも愛されてるな」
「言われたから来ただけだし。勘違いしないでよね、ふんっ」
ディオナは小さな鼻を鳴らしてそっぽを向くが、ふと気が付いたように俺を見上げてきた。
「そう言えば今日休日だよね。その格好…どこかに行くの?」
どうやら俺が普段とは違う服装なのが気になったらしい。まあ、服装と言ってもただ動きやすい服の上に安物のレザープレートを被せてるだけなんだけどな。適当にそこら辺で買った簡易防具だ。
「ああ、実はついさっき冒険者になってな」
「冒険者?あんたが~?」
「な、なんだよ」
ディオナはじとっとした目を向けてくるが、すぐに首を横に振って俺を憐れむような顔で見てきた。
「チビなシャルルに、冒険者なんて向いてないにゃ。それよりも一緒に酒造業を壊す計画を練ろうよ!そっちの方がよっぽど有意義じゃない?」
「ち、チビじゃないし!」
確かに俺の体形は原作でいう所の少年体形ではあるが、少なくともディオナよりかは高い。そもそも俺にはまだのりしろがある。18歳未満ならいつ背が伸びてもおかしくはないのである。あれ?ということはディオナさんは…うん。
ちなみに、酒造業を壊す計画、というのは、つまりクソ不味い酒を一緒に作ろうよという意味だ。ディオナの趣味の一つだ。この子はお酒と、お酒を飲む人間が嫌いらしい。飲んだくれの父親を見てきてそう言ったものに嫌悪感を抱くようになったのだと。
バーテンダーになった理由は酒造業を破壊することだ。バーテンダーになって、衝撃的で刺激的に不味い酒を作って飲ませ、お酒をトラウマ化しようというのだ。もはやテロである。
しかし、ディオナの特異体質である『どんな風に作ってもお酒が美味くなってしまう』体質の所為でその目論見は全て上手くいっていない。例えばこの間は知人の料理人に絶対に不味くなる材料を教えてもらってきた!と張り切ってたのに、実際に出来たのは酔っ払いが長蛇の列を作るようなカクテルだったのだ。
呪いかよ、と思う程の才能である。いや、実際に呪か何かなのか?まさかその副作用で身長が…?
「今なんか変なこと考えなかった?」
「考えてないです」
気が付いたらディオナの睨むような目が俺を見つめていた。
え、なにそれ。テレパシーなの?こわっ…。俺は慌てて話を元に戻す。
「っていうか、俺だってなりたくて冒険者になった訳じゃない」
「じゃあなんで?」
問いかけられて、俺は「お金が必要なんだ」と顔を背けながら言った。
「お金稼ぎ?キャッツテールじゃ足りないの?」
「正直キツイんだ。借金もあるしな…」
「じゃ、じゃあ…もう辞めちゃうの…?」
涙目になって俺の服の裾を摘まんでくるディオナ。俺は一瞬驚いて硬直した後、慌てて否定した。
「いやいや、やめないって。キャッツテールにはお世話になってるし、ディオナにはまだ色々教えてもらってない事あるし。しばらくは冒険者とキャッツテールで二足の草鞋生活するつもり」
まあ、バイトには既に慣れてきてるし、今では日向ぼっこのやり方とか猫のあやし方とかしか教えてもらってないけど。
「そ、そっか…もう、紛らわしいにゃ!」
「いて、やめっ、やめろぉ!」
たしたし叩いてきたので、俺はその小さな手を取って辞めさせる。
「なら仕方ない。今日の所はこれで勘弁してあげる。あ、でも今度は日向ぼっこに付き合ってよね!その時は大人のあたしが何か相談に乗ってあげるにゃ!」
「おう、それじゃあな」
ディオナはたっと駆けだして、「ロジャー?でてきなさーい!」と掛け声を上げながら路地裏の方へと消えていった。
騒々しかったな。流石原作キャラ。キャラが濃ゆいぜ。俺は気を取り直して歩き出した。
目的地は、鍛冶の煙が立ち上る場所。つまりは武器屋だ。
「ワーグナーさん。いるか?」
「あ…?シャルルか…」
鍛冶屋の中に入ると、そこには椅子に座って一人黄昏ている男がいた。名前はワーグナー。この街で一番の鍛冶師と名高く、また武器も売っている。
当然包丁などの簡単な道具も作ることがある。長持ちして丈夫で、モンドでは人気だ。
さて、そんな鍛冶屋までやってきたわけだが。流石に特殊な素材が必要な鍛造武器は無理だろうが、せめて銀の剣くらいは欲しい。そう思ってきたのだが…なんだろう、なんか元気がない気がする。大の男が肩を落として力なく椅子に座り、虚空を見つめている姿は、普通に恐怖を感じる。
ちなみにワーグナーさんはキャッツテールの常連客で、よくそこで酒を飲んでは賭け事をしてディオナに怒られている。普段は気難しい人だが、店の名前をどうするかを弟子と一緒に賭けあったりと、結構遊ぶときは遊ぶ人だ。
そんな人だが、仕事に対してはいつも真摯な事で有名だ。それがどうして今日はこんなに意気消沈してるんだろう。
「えっと、武器が欲しいんだけど…」
「そうか…だったらそこら辺から適当に取っていってくれ…」
「ええ…?」
指さした方向には、それはもう大量の大剣があった。しかも砕けて折れた奴も数本地面に落ちていた。な、なんだこりゃあ…俺は度肝を抜かれて立ち尽くす。
「あの、片手剣とかってないの…?」
「それならそこの隅だ」
「…ああ、これか…」
樽の中に無造作に突っ込まれた片手剣とか槍とかのその他武器。売る為にそこに集めてる訳ではなく、単純に邪魔だからそこに押し込んだのだろう。
俺は大丈夫なのだろうかと不安になりながらも、そのうちの一つを手に取った。『銀の剣』。ゲームでも武器の一つとして手に入れることのできる歴とした武器である。しっかりとした造りで重量感があるソレを何度か振って具合を確かめ、これを買うことに決めた。
「あの、これ買いたいんだけど」
「ああ…勝手に持っていけ…」
俺は目をぱちぱちと瞬かせた。
「持っていけって…え?無料で?いいの?」
「良いんだ…俺の打った武器に、価値なんてない…所詮一振りしただけでぶっ壊れるだけのおもちゃだ…」
「は、はあ…」
俺は少し考えたが、財布を取り出してお金を机の上に置いた。
「あ、あの、お金ここに置いとくから…」
ワーグナーさんはお金を見もしない。俺は完全に諦めて、その場から即座に撤退したのだった。
「ワーグナーさん何かあったのかね。随分と意気消沈してたが…」
まあ、今は他人よりも自分の事をどうにかしなきゃならない訳だが、顔見知りがあんな風になってるのを見ると流石にちょっと気になる。
今度来た時にまだあの感じだったら、話を聞いてみるとするか。まあ、今の俺が力になれるとは思えないが。
それよりも、これで準備が整った。俺は背にバッグ、腰に謎の液体に満ちた試験管が入ったウェストポーチを付けて、ベルトに剣を差した。
神の目があれば異空間に物を収納できたりするらしいが、俺にはそんなものは無い為これで良い。
俺はモンドの唯一の出入り口である橋を渡る。橋の上からモンドを見てみると、広大な湖の真ん中に浮くようにして作られたモンド城の姿を見ることができた。橋は湖の上を渡る為のものなのだ。ちなみにティミー君はまだいなかった。
橋を渡ったら、森と草原が見える。道は三叉に分かれていて、冒険者や商人がちらほらと道に沿って歩いていた。俺はとりあえず、道から外れて森の方に近づいて、人目に付きにくい場所にやってきた。
とりあえず、剣の素振りでもやってみるか…俺は剣を抜いてぶんぶんと振り始めた。
片手振りと両手振り、どっちがいいんだこれ?うーん、分からん。
「せいっ、はあ!…うーん…」
とりあえずは、両手で構えた方がやりやすいかもしれない。
そんな感じで一つずつ具合を確かめていって、やっと納得できる形になってきた。これ以上は付け焼刃になってしまうだろう。本当はもっとじっくり練習してから行くのが普通だろうが、実践に勝る経験は無し。まずは挑戦してみたい。
そろそろ行くかと、小休憩を挟んだ後、道の方に戻って草原の方へと歩き出した。風立ちの地の方向だ。七神像がある為結構有名で、更にそのまま奥に進めば遺跡が見れるため旅人なんかが割と見に行くらしい。
ただし、俺の今回の目的地は風立ちの地ではない。むしろ目的は道中にある。
「…いた」
周囲を見渡しながら歩いていると、遠くにヒルチャールを発見した。俺はソレを見てそっと腰を屈ませ、近くにあった茂みに身を隠しながらそいつに近づいて観察してみる。
なわばりの周囲を見回りしているのだろう。数は一体しかいない。念のため周囲を見渡してみても、弓矢ヒルチャールの存在も無し。
俺はそろそろと音を立てずに近づいた。ディオナ直伝の猫の歩き方だ。背後に迫り、俺はウェストポーチから瓶を取り出す。俺が飲んだジュースの空き瓶だが、中には紫色の液体が入っている。
「えい」
「ギャッ!?」
俺はソレをヒルチャールに向けて投げた。するとパリン、と瓶が割れ、中身がヒルチャールに降り注いだ。液体からはなんと、ビリビリと電気が迸り、ヒルチャールをしびれさせているではないか。
更にここに橙色の瓶も追加する。同じように投げると、ヒルチャールにオレンジの液体が掛かって――――次の瞬間には、爆発していた。
「ギャー!」
爆炎に呑まれ、凄まじい衝撃に黒煙を纏いながら吹き飛ばされるヒルチャール。俺はほっと一息つく間もなく急いでソイツに近づいた。
そして、倒れ伏してるソイツの首に抜いた剣の先端を向けて、一息に突き刺した。切りつけるというよりも、中にある首の骨を断ち切る様にする。すると、ヒルチャールは一瞬にしてこと切れて、紫色の煙と化して消えていった。
そしてそこに残ったのは薄汚れた壊れた仮面だった。それを拾い上げて俺は一息つく。
「ふう、何とか通用したか…」
今俺がやったのは、この世界での超重要な立ち回りの基本、すなわちミソの部分である、元素反応と呼ばれる現象である。
この世界には元素と呼ばれるエネルギーが存在する。元素には炎、水、風、雷、草、氷、岩の七つの属性が存在し、それぞれの元素属性はそれぞれの元素属性に触れると元素反応と呼ばれる反応を引き起こすのである。
ここで他のゲームと違う点は、この属性はあの属性に対して弱点、だとかこの属性はあの属性に対して有利だとか、そういう明確な弱点関係はないという所だろう。もはやそういう弱点だとか有利だとかの属性関係とは完全に別物であると考えて良い。
先ほど俺が投げた瓶には、それぞれ元素属性がたっぷり詰まった液体が入っていた。一つ目は雷元素の瓶、そして二つ目は炎元素の瓶。この二元素は、ぶつかり合うと『過負荷』と呼ばれる元素反応を引き起こす。
あの爆発の正体は、その元素反応、『過負荷』によるものだ。内容としては凄まじい爆発を引き起こし、炎元素によるダメージを与えて大きく吹っ飛ばすというもの。俺の、現時点で出せる最高火力の攻撃だ。
しかもノックバックによる行動不能、からの止めというコンボ。ゲームでは吹っ飛ばされて転がった場合起き上がるまで無敵状態になるのだが、現実になるとそうはならない。
え?剣は結局最後にしか使ってないって?当然だ。一時間も練習してない剣で、ヒルチャールと戦えると思える程俺は己惚れてはいない。初めからこうする手はずだった。あれは必要最低限の扱い方を覚える為の時間だったわけだ。
後俺が使えそうな元素反応と言えば、水場にいるだけで条件が整う凍結反応くらいだろう。内容は書いたまんまの効果だ。相手を凍結させる。
っていうか、そろそろ俺が何故この瓶を持っているのか。それは偏に親父の所為である。原作のプレイヤーならわかるだろうが、俺が今使った投擲瓶は本来、原神で敵モンスターとして出てくる『宝盗団』が使ってくる固有の攻撃方法だ。放射線を描くように投げてきて、プレイヤーを巻き込んで元素反応を起こすという、ハマればとても厄介に感じる敵である。
親父はその投擲役だったのだ。で、俺はその投擲する為のアイテムを作るように命じられていた。もう数年前の話である。俺はその頃、これを何に使うのかさえ知らなかった。只作れといわれたから作っていたのだ。
だが、しばらくしてすぐにそれが犯罪に使われていると分かって、俺は作るのをめっきり辞めた。当然だ。犯罪の片棒を担ぐような真似を何故この年でやらねばならないのか。親父はあーだこーだ言っていたが、逃げ回っていたらいつの間にか家から姿を消していた。多分その時点で俺を捨てたのだと思う。何せ親父は普段から滅多に家に帰ってこなかったから、いないのが当たり前だったのである。
で、そこからさらに数年後、所属していた宝盗団がモンスターに襲われ、親父はそこで死んだと知らされた。今ではどうでもいい話だ。
話を戻そう。
その時の知識を使って作ったのがこの俺の武器だ。正直宝盗団の技術なので使ってる事自体が怖いが、それでも何の力もない俺にとってはこれは必要不可欠な武器なのだ。
「これが確か討伐証明になるんだったよな…一ついくらだろ」
呟きながら俺は仮面をバッグに入れる。これっきりじゃきっと足りないし、もっと練習して経験を積む必要がある。俺は更に他に獲物がいないか見て回ることにした。
原神の小説が少ないから書きました。世界観を把握するのがゲームだけだとムズイんじゃ。もっと増えろ(豹変)
続きが思いつかなかったので断念します。もっと練ってから出直してくるので、その間に誰か原神小説書いてください