貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

100 / 223
なかよし。

 アプリでは取得してしまえばレースの状況に応じて賢さで発動するスキルですが、もちろんこの世界ではそのような単純な話ではありません。

 

 コーナーを速度を維持したまま走ることができるウマ娘たちの特徴はどんなものか、直線での加速力に優れたウマ娘の走りにはどのような癖があるか、そうしたデータを丁寧に集めて共通点を探る作業を地道に続けることでようやく『手がかり』を見つけることができます。

 当然そこから先はウマ娘たちの努力次第です。ハウツー本を読んだだけで技術をマスターできるようなご都合主義など存在しませんので、繰り返し繰り返しコースを走り少しずつ経験値を蓄積しなければ成長することはできません。走りに対する迷いを減らすことは可能でしょうが、結局は自分で選び自分で歩き出さなければ意味がないのです。

 

 

 もっとも、貴方にとってはただの趣味でしかありませんのでウマ娘たちがこれらの本を読んでどのように感じるかなど全く気にしていません。読みたければ勝手に読めばいいと思っていますし、テーブルに出しっぱなしにせずちゃんと片付けさえすれば文句も言いません。

 しかし、趣味だからこそこだわりたくなるのがサガというものです。今回の実験レースで集めたデータもしっかり整理してヒントを見つけ出す作業を楽しむハズでしたが……。

 

 

「待ちたまえよシャカール君。そのデータはこちらにカテゴリーするべき案件だろう? 代わりにコレとコレをそちらのファイルにまとめるべきだ」

 

「あぁン? なにバカなこと言ってやがる。どう考えてもコイツはこっちで正解だろうが。むしろソレを別々に分けるとか、テメェ正気か?」

 

 

 映像記録を元に様々なデータを書き出して文章化した貴方ですが、そこから先の作業をアグネスタキオンとエアシャカールが和気あいあいと楽しんでしまっているためやることがありません。

 まさかこのような形で意趣返しをされるとは。取り引きとして手伝いを申し出ておきながら人の楽しみを横取りする、なかなかの策士ぶりだと貴方も良い意味で驚いています。

 

 先手を奪われたものの、この程度で動揺するようでは悪のカリスマを名乗る資格はありません。貴方は冷静に手札の中から使えそうな作戦を選ぶことにしました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「っていうか、クッキー作りでこんだけアガったのどんだけ久しぶりだってハナシな! アイシングクッキー自分で作んの初めてだけどさ、これマジあたしのためにあるスイーツじゃね? どーよ、このネイルで鍛えたあたしのゲージュツ力!」

 

 いつものように焼きそばのソースの香りで集中力を乱そうとした貴方ですが、遠い目をした未来の女帝がボソリと「差し入れはできれば麺類以外にしてくれ……」と呟いた姿があまりにも哀愁に満ちていたため急遽お菓子へと変更することにしました。

 粉糖と卵白で自由にデコレーションできるアイシングクッキーはウマ娘たちの興味を惹き付けるには充分な効果を発揮してくれたようで、トーセンジョーダンが手掛けた店売り顔負けのクオリティーに拍手喝采で盛り上がっています。

 

 それでもしばらくの間エアシャカールは休憩にはまだ早いと素っ気ない態度を続けていました。しかしアグネスタキオンがげっ歯類の如くほっぺたが膨らむほどボリボリ食べる音が耳障りだったのか、ついには諦めたらしく軽く舌打ちをしてから貴方の差し出したコーヒーを受け取ることにしたようです。

 

 

「ほふひへはひゃひゃーりゅふん、ふぁひんふんほへふほはほーはっへふんひゃい?」

 

「汚ねェしナニ言ってるかわかんねェよ。食うか話すかどっちかにしやがれ」

 

「はぐはぐはぐはぐ」

 

「テメェ」

 

「ファインのメイクデビューに向けたテストがどーなってるのか教えろと言っているのだ。タキオンじゃなくてもみんな気にしてるぞ? ほんとうは走らないって約束なのはだれでも知ってるのだ」

 

「あぁン? 本人に直接聞きゃいいだろうがそんなモン。そこでグッタリしてる副会長サマだって併走に付き合ってンだろ?」

 

「そのあとのラーメンもセットでな……。常に立場を気にしていたあのファインが走る楽しさを知り、初めてワガママらしいことを言えたのだと思うと断るのも気が引けるというか」

 

「いや~、あたしもラーメンは好きだけど、さすがにあの頻度はきちーわ。んで、実際のところどーなん?」

 

「……悪くはねェ。あとはタイムリミットと課題の内容次第だ」

 

「さすがに達成できないような無理難題は出されないとは思うが、立場を考えればそれなりに厳しい条件をクリアしなければ出走は認められんだろう」

 

 

 なんという偶然。アグネスタキオンとエアシャカールの邪魔をしていたら幸運にもファインモーションの情報を得ることができました。

 しかし話を聞く限りでは順調とは言い難い状況のようです。アプリではキャラクターストーリー四話でメイクデビューまでの準備が完了しますが、やはりそのようなご都合主義的展開がその辺りに転がっていたりはしないようです。

 

 となれば、貴方が取るべき行動はただ一つ。一騎当千常勝不敗の巧みな話術でエアシャカールを誘導し、ファインモーションと担当トレーナーの成長を陰ながら支援するべし。

 例えどこかのタイミングで企みがバレてしまっても、ウマ娘を私利私欲のために利用したという事実が反感を買う完璧な作戦です。これは実に見事な隙を生じぬ二段構え、行き当たりバッタリ斎の志士名は貴方にこそ相応しいでしょう。

 

 

 

 

「見たまえよシャカール君。トレーナーくんがまたいつものように悪い顔をしているねぇ」

 

「たまに思うが、理事長もよくまぁアイツを採用しようと判断したもンだな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。