貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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もやし。

 東京優駿にて、アグネスフライトにハナ差わずか7センチメートル届かなかったエアシャカールですが、それでもホープフルステークス、皐月賞、菊花賞を勝鞍とする確かな成績を残しています。

 将来必ず重賞を勝利するだろうが、非常に気性が激しくとにかく真っ直ぐ走らない。この評価から論理的思考を得意とするキャラクターとして誕生した経緯は不明ですが、もしかしたら「スペシャルウィークをこぢんまりさせた感じ」という鞍上の言葉により気性難が希釈されたのかもしれません。アニメの主人公は偉大ですね! 

 

 

 そして、そんなエアシャカールの行動を貴方はコントロールしようというのですから、これまでとは違い慎重な判断と迅速な行動が求められることになるでしょう。

 少なくともタイキシャトルやエルコンドルパサーなどにするように、額へ目掛けてロリポップキャンディーを射出してイタズラを阻止するのとはワケが違います。

 

 

 

 

「やぁトレーナー! タキオンからまた新しい悪巧みをしていると聞いてね、面白そうだったからちゃんと邪魔しに来たよ」

 

 ニコニコと笑顔で妨害宣言をするあたり、最初期の取り引き相手として圧倒的な貫禄を見せ付ける姿は流石ラスボス系ウマ娘です。

 昨年は菊花賞で張り切り過ぎて回避してしまったぶん今年こそジャパンカップで派手に暴れてやる。そう意気込んでトレーニングしていることは当然把握していましたが、わざわざ空いた時間で自分の監視にやってくる程度には気持ちに余裕があると知れたのは好都合かもしれません。

 

「それで? 今回のターゲットはシャカールなんだね。うんうん、いまの彼女の走りはちょっと整い過ぎてるし、いじったら楽しいことになりそうだっていうのはわかるよ。そうだねぇ……吹奏楽団のコンクールを否定するつもりはないけれど、学園祭のバンドのほうが好みかな。雑味だって立派な個性のひとつだよ。ま、トレーナー相手にこんなこと言うのは釈迦に説法もいいところだろうけど。キミはどう思う? シャカール」

 

「勝手に言ってろ。オレはタキオンみてェに不確定要素をわざわざ取り込もうなんてしねェよ。アイツは加算で勝率を高める方向でプランを組んでるが、オレのプランは減算方式なンでな。テメェで抱えた選択肢の多さに惑わされる、なンてのはアホのやることだ。つーことでよ、ご多忙のトレーナーサマにご指導頂かなきゃならねェほどフラフラしちゃいねェんだ。目標とするレースも決まってンでな」

 

 トレーニングに一区切りついたのでしょう、いつの間にか目の前に現れたエアシャカールがニヤリと笑いながら貴方に視線を合わせます。どこか余裕のある態度は実に彼女らしいとも言えますが、貴方は自分がイメージするエアシャカールというウマ娘とは微妙に印象がズレているように感じてしまいました。

 はて、この違和感の正体はなんだろうか? ほんの数瞬ほど悩んだ貴方でしたが、目の前のエアシャカールはアプリで描かれるようなギラギラした雰囲気をまとっていないことに気がつきます。

 

 

 知力と閃きに定評のある貴方は当然ながらその理由を即座に察することが可能です。そう、この世界のエアシャカールは、すでに勝利を掴みとるまでのロジックが完成しているかもしれないのです。

 

 

 様々なウマ娘たちがいつの間にか素晴らしい走りを身につけている現状で、エアシャカールだけが停滞している理由がありません。自力でたどり着いたのか、それとも誰かの影響を受けたのかまではさすがの貴方でも見抜くことは難しいようです。

 できることなら信頼できるトレーナーを見つけていて欲しいと願っているようですが、アプリの性格に近いのであればウマ娘に対して明確なビジョンを持つ者でなければ彼女の興味を引くことすら難しいだろうと思っています。

 

 それはそれとして、まだエアシャカールに付け入る隙が無くなったと確定したワケではありません。貴方は確認の意味で「7センチを差し切るプランは完成したのか?」と声をかけました。するとどうでしょう、エアシャカールが眉をひそめて「テメェはナニ言ってやがンだ?」と言いたげな視線を向けてくるではありませんか。

 こうなってしまってはさすがの貴方でも打つ手が無いと諦めるしかないようです。彼女の態度はつまり“分かりきっていることをわざわざ確認するなんてロジカルではない”と言っているようなもの。言外に込められた意思を汲み取るなど悪のカリスマを目指す貴方にとって厳重に封印されていた正体不明の古代の武器を手に入れたボスキャラが主人公チームを圧倒するように容易いことなのです。

 

 予定変更、これはアプローチの方法を変更する必要がある。そう考えた貴方はその場を立ち去ろうとしましたが、状況をあまり理解できていない様子のミスターシービーが7センチとはなんのことなのかと質問してきました。

 ここは当然無言で無視するべき場面かもしれませんが、失敗を引き摺ることなく常に未来へ向けて歩き続ける貴方の頭の中は次なる追放計画のためにフル回転している最中です。なのでついうっかり「エアシャカールが三冠ウマ娘になるために必要な距離」と答えてしまいましたが、すでに終わった出来事についての言及ですので特に影響はないでしょう。




次回はシャカール視点です。

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