貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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アプリを起動して確認したら、SSRボーノ集め終わってました。やったぜ。


とりひき。

 貴方はミスターシービーの担当トレーナーではありませんが、取り引き相手として彼女のトレーニングをサポートしなければなりません。

 

 

 今回の目標レースはジャパンカップ、この世界では巡り合わせがよろしくなかったのか日本のウマ娘たちは海外のウマ娘たちに敗けっぱなしとのこと。

 自分が知らないだけで名馬のウマソウルを宿したウマ娘たちは大勢いただろうに、やはり海外はひと味違うのだな……と、かつての貴方は呑気にレースを楽しんでいました。

 

 しかし取引中のウマ娘が出走するとなればそうも言っていられないでしょう。勝敗の行方はウマ娘に10割委ねられるものだという考え方を変えるつもりなど貴方にはありませんが、ヘイトを己に集中させるためにも、そして大悪党であろうともトレーナーを名乗るのであれば、勝負に挑むまでの責任は全て背負うつもりで事に当たらねば意味が無いとやる気に満ちています。

 もっとも、だからといってミスターシービーだけを優先的にサポートするなどということはあり得ません。取り引きは公正であるべき、という貴方が信じる悪の美学に基づいて、三冠ウマ娘だろうとメイクデビューから一年以上未勝利戦を走り続けているウマ娘だろうと分け隔てなくトレーニングメニューのアドバイスには本気で取り組んでいます。

 

 

 ちなみに件の未勝利戦常連のウマ娘は夏の間に無事1勝し、そのまま勢いに乗ってオープン戦で堂々とゴール板を駆け抜けることに成功。お祝いの席に呼ばれた貴方でしたが、当然参加するつもりなどなく忙しいからと断りました。

 しかし、ウマ娘たちも強かなもので物資をルームに運び込み貴方の目の前で焼肉パーティーを始めるという反撃に転じたのです。忙しいと伝えたにも関わらず相手の仕事場に押し掛けてドンチャン騒ぎの当て付けですから、これは実に素晴らしい嫌われ具合だと貴方の頬が緩んでしまったのも仕方のないことでしょう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 世間がミスターシービーのジャパンカップ参戦やシンボリルドルフの菊花賞の話題で盛り上がろうとも、無責任の化身であると自負する貴方は普段と変わらない自然体で堂々とした態度で過ごしています……が。

 

「失礼しまーす。トレーナーさん、アタシのトレーニングプランできたんだって? いや~毎度のことながらお世話さまですな~。で、今回はどんな感じなワケ?」

 

 取引中のウマ娘に改善点を盛り込んだトレーニングプランを渡す。貴方が悪役トレーナーとして活動を始めてから数えきれないほど繰り返してきた行為ですが、今日は普段とは違う特別なプランという事情もあって貴方はワクワクを隠しきることができない様子。

 目の前のウマ娘からは「またなんか企んでるのはわかったから勿体ぶらないで早く出せよ」とでも言いたげな雰囲気を感じるような気がしなくもありませんが、ともかく話を進めるために貴方は次のレースに──ジャパンカップに向けたトレーニングの計画表を取り出してウマ娘に告げました。

 

 

 

 

 ここに書かれている通りにトレーニングをすれば、ジャパンカップでミスターシービーに勝てる……かもしれない。

 

 だが、その代償としてお前は脚を使いきる。日常生活やお遊び程度ならともかく、もう2度と勝負としてのレースを走ることはできなくなる。

 

 

 

 

 そう、貴方が用意したプランとは、目の前のウマ娘とメイクデビュー前に交わした取り引き“ミスターシービーに勝ちたい”という願いを叶えるための最後の手段のことでした。

 

 貴方の悪党ムーヴはあくまで表面的なモノですから、決して悪意を込めてこのプランを組んだワケではありません。ただ単純にほかの選択肢が存在しなかったのです。

 自前の知識や経験だけでは当然ながら足りず、チート能力を最大稼働し辛うじて見いだした小さな可能性がこの“未来を犠牲にしてチャンスを産み出す”プランでした。おにぎり換算で1700個相当のカロリーを消費し頭痛と鼻血に悩まされながら導き出してようやくコレですので、改めてミスターシービーというウマ娘の天才ぶりに貴方も呆れるしかありません。

 

 普通のトレーナーであれば提案をためらう悪魔のトレーニングプランですが、残念ながら貴方は普通とは対極に位置する極悪非道のトレーナー。取引ウマ娘がこのプランを受け取るにしろ拒否するにしろ、確実に悪評は広がり追放に近づけますので提案しない理由が無いのです。

 なにより、ミスターシービーに勝ちたいという願いは取引ウマ娘自身が望んだもの。底辺だろうと外道だろうとトレーナーを名乗る以上、バッジの輝きに誓いウマ娘が全力で勝負に挑めるよう人事を尽くすのは当然のこと。

 

 

 貴方は自分の役目を果たしました。あとは取引ウマ娘がどのような決断をするのかを楽しむのみ。

 

 

 いまも変わらずミスターシービーに本気で勝つつもりなのか、あるいは宝塚記念を勝利しGⅠウマ娘となったことで別の道を走ることを考えているのか。未来を棄てるのか、未来に進むのか。選ぶのはウマ娘、貴方はその選択をただただ当たり前のように肯定するだけです。

 とはいえ、あまりにもハイリスクなトレーニングプランですので取引ウマ娘にもじっくり考える時間が必要でしょう。まずは持ち帰って中身を確認させ、それから改めて判断をさせる「おっけー。そんじゃ、ありがたく受け取らせてもらいますね~」つもりでしたが、どうやら彼女の決意に揺らぎは存在しなかったようです。


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