貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ゆきさき。

 三冠ウマ娘同士がジャパンカップで勝負するという話題で世間が盛り上がっているということは、当然メディアの取材がトレセン学園に殺到するということでもあります。

 中には多少お行儀の悪い取材班も混ざっていますが、そこは優秀な警備スタッフの連携プレーにより穏便にお引き取り願っているので問題は起きていません。それでも引き下がらない仕事熱心な皆さんについても、ウマ娘たちがこっそりお世話をしている野良犬たちが恩義に報いんと張り切って“確保”しています。

 

 ウマ娘たちを守護ってくれるのは貴方にとっても喜ばしいことなのですが、確保した獲物を必ずと言っていいほど自分のところに引きずってくるので後始末が面倒だと感じているようです。

 

 何故、自分なのか。もしかして日ごろウマ娘たちにトレーナーとしてあるまじき態度で接していることへの意趣返しだろうか。

 だとしたらなんとも義心に溢れた賢い犬であると貴方も褒めないワケにはいきません。空間からモノを自由に取り出す程度の能力でエサになりそうなお肉やホネなどを野良犬たちに与えるのもすっかり慣れたものです。

 

 

 こうして鉄壁の守りにより信頼できるメディア関係者だけがトレセン学園内部で自由に活動できるようになりましたが、その代償として貴方が自由に活動できなくなってしまったのは完全な誤算でしょう。

 理由は単純明快。メディア関係者たちの中身が概ね素晴らしいの女史と変わらなかったからです。下手に関われば事実を歪められた風評被害がどこまで広がるかわかりません。学園内のウマ娘たちに関してはすでに手遅れなので心配ないだろうと信じてはいるものの、うっかり系主人公とはひと味違うチート転生者としての矜持が貴方に全力での逃走を選択させました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……で、ここまで逃げてきたと。いやぁ~、まさかトレーナーさんにもニガテな物があったとは驚きだね。しかもそれが雑誌の記者だっていうんだから面白さも倍付けだわ」

 

 貴方が安住の地に選んだ神社では、例の取引ウマ娘が缶コーヒーを片手に寛いでいました。苦手なのではなく目的のために接触を避けているだけなのですが、迂闊に口を滑らせて万が一にも自分がウマ娘のことを心の中では応援していることがバレてしまうのは困ります。なので貴方は適当に同意することで誤魔化すことにしたようです。

 

「アタシ? いや、べつに神頼みとかそーゆーんじゃないよ。お祈りしたぐらいでレースに勝てるんなら、未勝利戦走らなきゃなんないウマ娘なんていないし、そもそもトレーナー見つかんないまま走ることもないだろうし。ま……なぜか最近はスカウトされますようにってお願いにくる子は減ったみたいだけど。なんでかねぇ~、不思議だねぇ~、ねぇトレーナーさん?」

 

 言われてみれば、と。スカウトに関する朗報はいくつか貴方の耳にも届いています。

 

 最近では取り引き中のウマ娘たちのデータ整理を手伝ってくれたビワハヤヒデを労働の対価という形でチェーン店ではない隠れ家的な落ち着いた雰囲気のレトロな喫茶店に連れていきバナナパフェをご馳走したときにも、ウイニングチケットとナリタタイシンが新人トレーナーから熱心なスカウトを受けていると聞きました。

 残念ながらビワハヤヒデ自身にはいまのところアプローチは無い様子。どうにもナリタブライアンが評価Sの老トレーナーの担当ウマ娘となったことも含め、あまり注目されていないのだと微笑むビワハヤヒデ。

 

 

 真面目で優しい熱血漢なトレーナーであれば、ここはビワハヤヒデの魅力を語り励ます場面です。しかし貴方はウマ娘を私利私欲のために利用することしか考えていない極悪非道のトレーナー。そこまでする義理はありません。

 なので、とりあえず「それでも俺はお前が強いことを知っている。そしてクラシック三冠を走り終えたころには誰もが知ることになる。アレがビワハヤヒデの走りだと。だからなにも問題など無い」と事実だけを伝えておきました。

 

 

 しかし神様へのお祈りでないのなら、なんの用事があって神社になどやってきたのか。もともと神は祈るものではなくただそこにあり敬うものと考えている自然信仰よりの貴方には想像もできません。

 

「んー? 特になにが、ってワケじゃないんだけどさ。アタシの脚ってこんだけの可能性を秘めてたんだなぁって実感してさ。なんだか、こう、ワクワクがね。それで調子にのり過ぎて、レース中に台無しになったら困るじゃん? だから、少しでも気分を落ち着けとこうかなって」

 

 どうやら取引ウマ娘は自分自身の成長に気持ちが追い付いていないようで、レース中に脚がなんらかのトラブルを起こすことを危惧しているようです。

 もちろんその心配は無用なのですが、それを正直に伝えるべきかどうかの判断は難しいところ。しかし悪のトレーナーを名乗るにしても、これから真剣勝負を控えているウマ娘の脚について悪意を込めてからかうのは決して赦されない行為です。

 

 どうしたものかと一瞬だけ悩んだ貴方ですが、信頼関係が構築できていない相手から励まされたところで神経を逆撫でするだけですから、ここで彼女になにを言っても結局同じであることに気がつきます。

 ならば言いたいことを言ってしまおう。自分がスッキリしたいという、ただそれだけの理由で貴方は取引ウマ娘へ向けて語り始めました。

 

 レースを終えて、お前のウイニングライブが終わるまではその脚は大丈夫であると。レース中にどれだけ無茶な走りをしようとも、お前の足はお前の覚悟に全て応えてくれる、そうなるように鍛えたと。この言葉を信じようが信じまいが、この事実は変わらないと。

 

「……ぷっ。フフ、アハッ! アハハハハッ!! いや、ちょ、マジでホントッ! ……本当にさぁ。うんうん、そうだね、信じるかどうかなんていまさらだよね。おっけおっけ、どうせラストランなんだしグダグダ考えないで思いっきり走ることにするわ。アタシの最後のレース、ミスターシービーをブッちぎるついでに──ちょっくら、世界を置き去りにしてやるとしますか♪」

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