貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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いきぬき。

 ウマ娘たちから嫌われていることをどこまでも確信している貴方は、自分の行動を彼女たちに妨害されることも必要経費であると割りきることができます。

 しかし、それはそれ。今回のジャパンカップは間違いなく素晴らしい勝負が繰り広げられることは確実ですから、貴方も最高の環境でそれを観戦しなければならないと意気込んでいます。

 

 

 その野望を達成するべく、貴方の頭脳に搭載された高性能学習装置は過去の経験に基づき「朝早くルームに陣取り内側から鍵をかけて居留守を使い誤魔化せ乾杯!」作戦を立案しました。

 

 

 それはゲームセンターにて正義無きダンスゲームバトルを終えた帰り道。天ぷら定食に換算して1700円相当のカロリーを摂取し塩と天つゆどちらで食べるか悩まされながら導き出してコレですので、同席していたトウカイテイオーも「なに言ってんだコイツ」と訝しげな視線を向けるしかありません。

 そして迎えたジャパンカップ当日、貴方はいつものようにウマ娘たちの起床時間よりも早く自分のルームへと潜入しまずは熱帯魚たちの世話を完了させてから即座に戸締まりを実行。勝利を確信した貴方はドラッグストアにて98円で購入した某有名ブランド炭酸ぶどうジュースをワイングラスにゆっくり注ぎ、レースが始まるまでの時間を優雅に楽しんでいました。ドアの向こう側にタニノギムレットが到着するまでは。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 いつもであれば控え室へ赴きウマ娘たちに地味な嫌がらせを忘れず行う貴方ですが、今回ばかりは自重することにした様子。

 

 ちなみにミスターシービーの控え室にはいつものメンバーが、取引ウマ娘の控え室には新人からベテランまでさまざまなトレーナーたちにスカウトされた元取り引き相手のウマ娘たちが集まっています。

 顔と名前と脚質と食の好みとお気に入りのお菓子といったちょっとした情報程度であれば1秒と悩まず引き出せる貴方ですが、そうでなくとも取り引き中に着用していた物と同じデザインの色違いジャージを制服の上に羽織っているのでひと目で判別が可能です。

 

 デザインが気に入ったのはともかく、肌寒いならもっとちゃんとした防寒具を着ればいいのに。そう思いながらも他所様の担当ウマ娘のファッションセンスに口出しするのは自分が思い描く悪役ムーヴとは違うなと貴方は黙っています。

 

 

 こうして「本当は現場でレースを見たいけどさすがに今日くらいは邪魔にならないよう我慢してモニターで観戦しとこう」という貴方の欠片ほどの良心はウマ娘たちに連行されることで無に帰すこととなりました。

 しかしそれならそれで開き直ってレースを楽しむだけのこと。過去に縛られることなく自由に前へ進むことに関して貴方のポジティブさは唯一抜きん出て並ぶものはいません。

 

 

 さて、耳に心地好いファンファーレを堪能したところで待望のジャパンカップが始まりました。期待のスタートにファンも大歓声をあげていますし、関係者用のスペースではシンボリルドルフのトレーナーはもちろん、世界各国から集まった本物のトレーナーたちが神妙な顔つきで己の愛バたちの走りを見守っています。

 

 

 ですがそんな緊張感のある静けさは、ひとりのウマ娘が大逃げを始めたことで一気に吹き飛んでしまいました。

 

 作戦はシンプルそのもの。最初から最後まで先頭を走り続けることができれば必ず1着になれる。先行や差しの位置取りで駆け引きをする余裕など彼女にはありません。

 身体だけではなく思考能力も含め全てのリソースを“前に向かって走る”ことに注ぎ込まなければ勝負にすらならないのです。

 

 脚の具合は問題無し。チート能力によるステータス表示に頼るまでもなくベストコンディションであることがわかります。

 故に、問題はメンタルの状態です。心にわずかでも迷いがあれば、最後の直線に入るよりも先に彼女の物語はそこで終わってしまうでしょう。こればかりは貴方には全く予測がつきません。

 

 

 ミスターシービーは先頭を走る取引ウマ娘を意識しているのか後方ではなく中団に、そしてシンボリルドルフも先行の中でも前目につけた攻めの走り。これは実に面白い展開になりそうだとウキウキ気分でレースを見ていた貴方ですが、何処からか敵意に近いものを含んだ視線を感じます。

 いったい何事だろうかと気配を辿ると、関係者席にいる海外トレーナーのひとりがこちらを睨んでいました。さすがの貴方も海の向こう側からヘイトを向けられることについて心当たりはありません。相手の育成評価が『S』という自分とは比べ物にならない格上なのでなおさらです。

 

 

 

 

 ──まぁ、どうでもいいか。

 

 

 

 

 貴方はウマ娘のファンですが、トレーナーのファンではありません。アニメに登場していたトレーナーが存在する世界線であれば別ですが、交流の無い、まして海外のトレーナーになど全く興味がわきません。

 せっかく血湧き肉躍る最高のレースが目の前で行われているのに、こんなことに時間を使うのはどう考えても無意味。貴方は一切の感情を表に出すことなく視線をウマ娘たちへ戻しました。




次回はジャパンカップ視点です。

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