貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
貴方はいま、追放されるための新たな計画を練り上げています。
現在のところ順調にヘイトを稼ぎ、着実に追放に近付いていると確信している貴方ですが、チート転生者が油断や慢心で失敗するパターンが多いことを知っています。
それを踏まえて貴方は、思惑通りに事が運んでいるときこそより慎重かつ大胆に次の一手を打つべきだと考えました。
そこで貴方が着目したのはウマ娘の名門“メジロ家”です。
具体的にメジロ家がレース業界でどのような役割を果たしているのかについて貴方は何も知りません。しかし、メジロ家が大変な資産を有していること、メジロのウマ娘たちの真価はその精神性にあることだけは知っています。
貴方は守銭奴の悪役トレーナーとしてこれまで行動してきましたが、そこにより説得力を持たせるためにもメジロ家のウマ娘との接触が必要だと考えました。家の財産を目当てにウマ娘に声をかける、たしかに傍目に見れば立派な悪人に違いありません。
貴方が考えたプランは次の通りです。
①メジロのウマ娘に声をかける。
②警戒される。
③メジロ家が貴方を敵視する。
④トレセン学園を追放される。
徹底的に最低限の情報以外を削ぎ落とした計画は、少なくとも何を狙っているのかだけは明確に伝わるでしょう。
全体的に物足りなさを感じないこともありません。ですがあまり細かいところまで綿密に計画を立てると、今度は柔軟性を損なう危険性もあるでしょう。
大丈夫! 文面に多少空白が多くても、隣に粉チーズを置いて比較すれば貴方の計画は充分に堅実であると評価することができます!
完璧な計画を思い付いたものだと無駄に自信に溢れた貴方は早速行動を開始しました。スペシャルウィークがおかわりを自分の意志で我慢できる可能性とどちらが現実的かはわかりませんが、宝くじだって買わなければ当選する確率はゼロなのです。ここは貴方の成功を信じて見送ることにしましょう。
もっとも、宝くじは有料ですので当選しなければ当然マイナスが発生するのですが。
◇◇◇
トレセン学園内を歩き回る貴方がターゲットに選んだのはメジロライアンです。
つい先日、貴方が取り引き中のウマ娘たちが模擬レースに出るというので様子を見に行ったところ、偶然彼女が走っているところを目撃しました。
中盤までは差しウマらしく力強い走りでしたが、最終直線から徐々にメジロライアンは失速し、結果はギリギリ入着。その様子に心当たりがある貴方はついうっかり『これはトレセン学園追放に使えるかもしれない!』と余計なことを考えてしまったのです。
メジロの名前に誇りを持つ彼女のことです、レースの結果についてはそれなりに思うところがあるはず。そう考えた貴方は、学園内でも人気の少ない場所をついでにゴミなどを拾いつつ探し回り──ついにメジロライアンを見つけることに成功しました。
周囲にヒト影もウマ影もなし。なんという千載一遇のチャンス。貴方はこの時点で勝利を確信しました。
さて、メジロ家はレース業界の重鎮ということもあり、トレーナーはもちろん学園スタッフも相応の態度でメジロのウマ娘たちに接しています。
貴方は自分がどのような雰囲気で彼女に話しかけるべきか考えました。いかにもメジロの名前が目的ですと嫌味なほど丁寧に近付くのも悪くないのですが、そういう人間は大勢相手にしてきたはず。この予想が正しければ、逆に全く印象に残らずヘイトを稼げない可能性もあります。
どうせ最終的に嫌われることが確定しているのだ、ならば礼節など必要ないだろう。そう考えた貴方は、普段と変わらぬ調子で気安くメジロライアンに声をかけるのでした。