貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ぬーどる。

「3分でこんなに手軽で美味しいラーメンが食べられるなんて……! もしかして、倍の6分待てばさらに美味しいラーメンに──」

 

「ならねェからな?」

 

 

 春の訪れはまだまだ遠い季節ですが、スッキリと晴れ渡る青空の下ではためく洗濯物の群れは季節を問わず見る者の心を爽やかにしてくれます。

 

 

 事前準備は抜かりなく、しかしコンディションを言い訳にパフォーマンスが低下するようでは二流である。こうした価値観を持つ貴方は取り引き相手であるウマ娘たちを水浸しのコースで走らせることに一切の躊躇いはありません。

 わざわざ完璧に整えてくれているターフやダートを荒らすことに抵抗はあるものの、整備スタッフのチーフである初老の男性から「トレーナーの仕事はウマ娘のためにコースを有効活用すること。メンテナンスは我々の領分です。申し訳ないが、プロの仕事に素人が嘴を挟まれては困りますな」と笑いながら言われてしまえば黙って引き下がる以外の選択肢を選ぶことはできないでしょう。

 

 

 さて。そんな悪路踏破のトレーニングですが、最近では取り引きに関係の無いウマ娘とトレーナーの組み合わせも当たり前のように参加するようになっています。

 そしてそれは、数日前のファインモーションのトライアルレースから人数が地味に増えるという貴方にとっては因果関係の全く見えてこない謎の現象が発生していました。

 

 疑問はあれど廃れていた第9レース場の所有者は中央トレセン学園であり理事長の秋川やよい女史の物。ならばその使用に自分が文句を言うのは悪事ではなく子どもの駄々であり、貴方が目指すスタイリッシュな外道トレーナーの姿には相応しくありません。

 

 そんなワケで、大勢のウマ娘たちの泥塗れになった運動着が鉄パイプ等で組まれたお手製のトレーニング器具の間に張り巡らされたザイルを利用して干されているのでした。

 肝心の中身たちは激しいトレーニングで消費したカロリーの補給と冷えた体温を補うためにインスタントのラーメンなどを和気藹々と食している最中です。ついでにトレーナーたちも俺の私の愛バと並んで食事をしたりすることで絆を深めている様子。

 

 

 カップラーメンのお肉ですら当たり前のように奪おうとするナリタブライアンの箸を鮮やかなパリィで弾く老トレーナーや、バクシン的速度で3分待たずに開けようとするサクラバクシンオーを口八丁でなだめる女性トレーナー、ウイニングチケットと一緒に練習のあとにライバルと肩を並べての食事は最高だと大声で語る男性は確実に彼女の担当トレーナーだと貴方は確信しました。

 あと、またなにか余計なことを言ったのかお湯を注いだカップラーメンを手に持ったまま朗らかに笑いながら逃げるシンボリルドルフを若干キレ気味のシリウスシンボリが追いかけているのをミスターシービーやマルゼンスキーなどのウマ娘たちが笑いながら見守っていたりもしています。

 

 ついでにメジロドーベルが優しそうなイケメンとおっかなびっくり会話している姿を確認できたのはウマ娘ファンとしては僥倖というもの。

 どうやら彼女の物語は無事にスタートしてくれるようだと貴方もご安心です。血縁者である麗しき実力者のほうは担当トレーナーが見付からないまま皐月賞に挑むことになってしまいましたが。

 

 

「なんだ、ドーベルのことを気に掛けていたのか? なに、心配は無用だ。彼は何処ぞのヤンチャなご婦人がその才能に目を付けて誑かして弟子にしただけあって、トレーナーとしての実力はちゃんと備えている……ハズだ。そうでなくともドーベルとコミュニケーションが成立しているだけでもありがたいが」

 

「ウフフ、本人を目の前にして散々な言い方をするぐらいにはいまのグルーヴちゃんには余裕があるのね。結構なことだわ。それにしても人聞きが悪い説明をしてくれるじゃない。ちょっと新人トレーナーくんに学園を案内するついでにチームのウマ娘たちと顔合わせをさせて、ついでにトレーニングの補助を頼むことで仕事を体験させ続けただけよ?」

 

「それをSランクの貴女がやると冗談では済まされないのです。ご自身の発言力は自覚なさっているでしょうに。誰もがこのたわけ者のように毅然とした態度で意見が言えるワケではありません」

 

「そうね~、私にも王族相手に啖呵を切れるぐらいの貫禄があればもっとたくさんの夢を見せることができたのよね~。それはそれとして……ファインちゃんの、ファインモーションのトゥインクル・シリーズ参加は()()()()()()()()()無事登録されたわ。やよいちゃんはもちろん、日本のURAもちょ~っとだけ大変だったみたいだけれど」

 

 

 ゲームでは当たり前のようにレースを走っていたファインモーションですが、この世界では王族という肩書きはやはり軽くなかったようです。

 接触事故の規模がヒトのスポーツ競技のそれとは比べ物にならないのがウマ娘のレースですので、様々な立場の方々はもちろん同じレースを走るウマ娘たちにとっても無視できるものではありません。

 

 もちろん悪のトレーナーである貴方はそんな愉快な現状をしっかりと悪用するつもり満々です。トレーナーという立場を利用してお金儲けを企んでいましたから、レースの規定や法的な知識は気合いと根性で頭に叩き込んであるのです。

 

 もしもファインモーションが怪我などをして騒ぎになるようであれば、貴方は高らかに笑いながら吼えるでしょう。勝負の場で肩書きなど無用の長物である、それに文句があるならば王族や名門出身のウマ娘は追い越してはならないというルールを明記していない世界中のURAの無能どもが悪いのだと。

 全方位に満遍なく喧嘩を売るスタイル、これほどの大立ち回りができるのは追放を目標としている貴方ぐらいなものでしょう。もちろんその日が来たときに備えての発声練習も完璧です。大事な場面で台詞を噛むような失態は犯せません。

 

 

 なお、貴方の企みを知ったメジロライアンやキングヘイローからはとても温もりの含まれた視線を向けられましたが追放計画には直ちに影響はないでしょう。




次回はファイン側の視点です。

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