貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ウマ娘がネコミミを装備したらネコむすm


おにぎり。

 チート転生者である貴方は自分の欲望に忠実に生きる権利を持っていると確信しているので、思いついたやってみたいことはなんでも実行することが可能です。

 

 

 そんな貴方は現在トレセン学園から近くもなく遠すぎることもない程度の位置にある公園にて、車を改造した移動式屋台のようなモノでおにぎりを販売しています。

 もちろんそこに理由などありません。ただおにぎり屋さんをしてみたくなったからやってみただけです。ちなみにお値段は60円から80円とコンビニエンスストアと比較するとお買い求め易く設定されているようです。

 

 雰囲気作りのためにいつもの黒ジャージではなく作務衣を着用し、数々のアルバイトを経験したことにより身に付いた接客スキルを存分に発揮し、今世の祖父より教えられた“紳士的であることと下手に出ることは別である”という心構えを守りながら丁寧に対応しています。

 少し強めの風が吹けばまだまだ寒さに身を竦めたくなる季節ではありますが、よく晴れた日和の休日ということもあって販売数は悪くありません。家族連れの散歩客、仲睦まじい老夫婦、ひとときの休息を求める企業戦士、意外なところでは高校生か大学生ぐらいの若者グループ、あとはどこからか遠出してきたのかピクニック姿で人間とは異なる波動を秘めたパンチとロン毛の二人組などが購入してくれました。

 

 道楽としての商売。息抜きランキングを作成するのであればトップ10を充分狙える面白さ。あえて問題点をあげるのであれば──。

 

 

「梅干しがふたつと昆布がふたつ、それからこちらが山椒の実とわさび漬けです!」

 

「お買い上げ、ありがとうございました~♪」

 

 

 どういうワケかニシノフラワーとスーパークリークがお店を手伝っているという謎の状況ぐらいなものでしょう。

 

 もちろん貴方はウマ娘に手伝いを命じたりなどはしていませんし、そもそもおにぎり屋さんを展開することを彼女たちに話してすらもいないのです。

 悪役トレーナーらしくトレセン学園の資源を浪費してやろうとルームで仕込みをしているときに、会心の出来映えとなったアサリの佃煮をおにぎりの具材として適切か味見をさせたりもしましたが、神や仏に誓っても移動販売のことは口にしていません。

 

 想定外の事態ではありますが、チート能力という万能の力に貴方の明晰な頭脳が合わさればこの程度のトラブルなどアドリブで簡単に乗り切ることができます。

 手早くふたりのサイズに合わせた作務衣を謎空間を利用して用意し、裏方の作業ではなくお客さんからしっかり見えるような配置で働かせることにより“ウマ娘を労働力として利用する悪い男”という構図を油断なく構築することに成功しました。

 

 

 貴方はお客さんからは視線が通りにくい位置取りで木枠にご飯を敷き詰めて具材をのせるだけ。あとは枠から外したおにぎりをニシノフラワーが形を整えて海苔を纏わせ、最後はスーパークリークがお客さんに手渡しをする。

 

 これで物陰でタバコなど咥えながらギャンブル雑誌でも読めば完璧なのかもしれませんが、残念ながら貴方に喫煙の習慣はありません。

 ウマ娘たちが嫌がるからというのはもちろんですが、前世でも祖父から「神経が昂っていると1000メートル離れた密林の中にいても新兵(FNG)のくそタバコの臭いがわかる。喫煙するなとはもちろん言わないが、ヤるならマナーや心構えを忘れず楽しめよ?」と言われているので、タバコを嗜むのは世捨て人としての生活が始まってからでも遅くないと考えているからです。

 

 

 常に悪役トレーナーとして完全無欠の活躍をしているのだから、たまにはこうしてのんびりとヘイトを稼ぐ日があってもいいだろう。

 

 

 耳に届くのは公園で遊ぶ子どもたちの笑い声。そして少し離れた場所でお好み焼きの屋台を出しているヒトの男性とウマ娘の若いカップルか夫婦らしき人たちに、せっかくだから挨拶代わりにでも……と差し入れたおにぎりの返礼として渡されたモダン焼きをモフモフと食べる。

 そのときに彼らが呟いていた「いつかは僕らもあんなふうに……」という発言の意味については貴方にはよくわかりませんでしたが、ともかくこうして休息しつつも小規模ながらウマ娘を利用して金銭を得るという油断も隙もない悪役としての溢れんばかりの才能ぶり。これには貴方も思わず微笑みがこぼれるというものです。

 

 それはそれとして。勝手に手伝いについてきたスーパークリークとニシノフラワーが充分にランチ休憩ができるよう手早く食事を済ませ、貴方はカウンターに位置取り悠々と公園を眺めています。

 ときどき腹の底に邪気を抱えた怪しからん者の気配が公園に近づいてくるのを気でコーティングしモデルガンの弾丸ほどの強度にしたお米粒で狙撃し追い払いながら平穏なるひとときを過ごしていると──。

 

 

 

 

「ほ~ん? 握り飯の屋台たぁこりゃまた珍しいモンがあるじゃねぇか。それに値段もお手頃ときたもんだ。にいさん、ちょいとごちそうになるぜ!」

 

 三女神はもちろんのこと、神や仏はいったいなにをしているのか。スーパークリークやオグリキャップに並ぶであろう将来有望なウマ娘がまたひとり、自分という極悪非道のトレーナーとエンカウントしてしまった事実を貴方は心の中で嘆くのでした。




最初におにぎりにシーチキンを入れた人は偉大である。

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