貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ろうかにあくま。

 一国一城の主という言葉があるように、人は自分だけの拠点となるスペースが手に入ると気持ちが大きくなる生物です。それは、中央トレセン学園に所属するトレーナーにとってのルームが該当することでしょう。

 つまり、悪役チート転生者である貴方が居座るルームはラストダンジョンも同然。ウマ娘たちを主人公とするのならば最奥地に屹立する魔王の城と言っても過言でしかありませんが、もちろんルームを離れても貴方の悪役ムーヴは加減など考えるワケがありません。

 

 

 ラスボスとしての貫禄と威厳を示すためにルーム前の廊下はいつでもピカピカに輝いています。日に三度の掃除を欠かさず実行しているおかげで、床や壁、蛍光灯はもちろん窓ガラスも新品同然であると言えば誰もが疑うことなく信じるレベルです。

 そんな廊下を我が物顔で歩く貴方ですが……その態度とは裏腹に、学園内でウマ娘や警備員が対応できないような厄介なトラブルが起きていないか定期的に警戒網を広げて巡回しています。

 

 もちろん、あくまでチート転生者である貴方が対応しなければならないようなトラブル限定です。仮に無許可のメディア関係者が侵入しようと企んでいる気配を察知したならば、ウマ娘たちにバレないよう舌打ちで鳥たちに伝え、そこから野良犬たちが警備員を誘導することになるでしょう。その程度であればわざわざ貴方が動く必要などありません。

 いつの間にか後ろを付いて歩いていたゴールドシップには「今日は西口のほうに三人か。さんざん追い払われてるのに懲りねぇヤツらだなぁオイ」と何故か暗号が完璧に解読されていますが、相手がゴールドシップなので貴方は特に疑問を持つことなく納得しています。

 

 破天荒な行動が目立つものの、その実ウマ娘たちの中でもトップクラスの常識の持ち主疑惑のあるゴールドシップ。

 そんな彼女がヒマを見つけては自分の監視を行っている。なかなか悪くない流れであると、貴方も安心して悪役として振る舞うことができることでしょう。

 

 

 それはそれとして。時間は有限、こんな偶然も有効活用してこそ一流の悪党というもの。

 

 

 ついでにゴールドシップの次の目標である春の天皇賞について打ち合わせをしながら貴方は悪役ムーヴのチャンスを見逃さないよう慎重に行動を続けます。

 春の天皇賞にはミスターシービーも出走しますが、それを承知の上でゴールドシップは1着を取るためにトレーニングに打ち込んでいます。

 

 もちろんミスターシービーのトレーニングも彼女の能力を過不足無く100パーセント発揮できるような本気だが本気以上ではない絶妙なラインをキープしています。

 アプリでは伝説的でありながら過去のウマ娘扱いされるような雰囲気がありましたが、この世界ではまだまだ成長を続ける正真正銘の生ける伝説ウマ娘です。

 

 

 それを知って尚ゴールドシップは楽しそうに勝負の時を待っていましたので、貴方も調子にのって「そうだな、いい加減三冠ウマ娘からGⅠの冠サクッと奪い取るぐらいのことはしないとゴールドシップが始まらないからな。このままじゃ待ちくたびれたファンがターフにがんもどきを投げ込みそうだ」と適当に煽ることにしました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 途中、風紀委員のウマ娘から逃げるシンコウウインディを確保して脇に抱えつつ、貴方はゴールドシップを連れたまま巡回を続けています。

 巡回することが目的ですので、特に目的地などは決めていません。ですがシンコウウインディが抱えられたまま器用に貴方のポケットからアメを取り出して食べ始めてしまったので、補充するために購買部へ向かうことにしたようです。

 

 年頃の乙女であれば雑に運搬するなど紳士の風上にも置けない所業だが、構って欲しさにイタズラをするシンコウウインディに関してはこうした扱いではヘイトを稼ぐことはできないだろう。

 

 前世の知識を持つ転生者特有の冴え渡る推理力で貴方は真実にたどり着いていましたが、悪役である自分が問題児であるシンコウウインディと距離を取るのは不自然であると考えました。

 なのでほどほどにイタズラに悪ノリし、笑って許せる範囲を超えそうになったら適度にコントロールし、最終的にはヒシアマゾンにブン投げる。基本はこの繰り返しです。

 

 そして、だいたいこのルーティンが終わればトレーニングそのものはそれなりに真面目に行っているので、取引ウマ娘たちとは意外と上手く交流できています。

 特に、ダートに適性を持つ中等部のウマ娘たちから慕われているのがプラス方向に働いているようで、親分として格好悪いところを見せるワケにはいかないと張り切っているようです。

 

 ならばこうして荷物のように運ばれている姿を少しは情けないと感じてくれればいいのに。

 そんな貴方の願いは叶うこと無く、バッタリ出会った子分たち相手に「ウインディちゃんぐらいになれば、じぶんで歩かなくてもトレーナーに運ばせることができるのだ!」と得意気に自慢しています。

 

 

 親分としてそれでいいのか。ゴールドシップが言うには、シンボリルドルフを慕うウマ娘がいればシリウスシンボリを慕うウマ娘もいる。特に中等部のウマ娘ともなればいろんなパターンの『憧れの先輩』があるんだからコレはコレで別にいいんじゃね? とのこと。

 

 

 やはりゴールドシップ、目の付け所がひと味違います。なるほどウマ娘の中でも秀でた能力を持つものだけが入学できることになっている中央トレセン学園でも、アウトロー気質なウマ娘たちは少なくありません。

 そうしたウマ娘たちにしてみれば、優等生よりも不良成分を持つ先輩ウマ娘のほうを真似したくなるというもの。それもまたアオハルであると貴方も微笑ましく思う──だけで終わるハズがなく、ひとつの恐ろしい可能性に気がついてしまいました。

 

 そう、いま中央トレセン学園に所属する者の中でも圧倒的にカルマ値がマイナスに振り切っている貴方でさえも、不良を格好いいと考える思春期の若者は憧れてしまう可能性が微粒子レベルで存在することに! 

 

 本来ならばあり得ないと断ずることができるバカバカしい話なのですが、アウトローのような振る舞いをする己に酔いしれていると客観性が不足した判断をしてしまうのもまた事実。

 冷静に考えれば簡単に間違いに気づくことができるような事柄でさえ、色眼鏡を通してしまうと自分に都合の良い解釈しかできなくなる。ならば、自分のような極悪非道のトレーナーでさえ肯定感に見えてしまうかもしれないと貴方は考えました。

 

 そう考えるとシンコウウインディは不良ウマ娘たちとの距離感の調整を試すには最適のサンプルかもしれません。

 彼女から“あのトレーナーは本物の悪党なので信用してはならない”という評価を引き出すことができれば、その時点でトレセン学園追放クエストはエンディングを迎えたも同然です。

 

 嗚呼、ただ歩いていただけなのにまた新しく追放ルートを発見してしまった。チート能力とは無関係に発揮される唯一無二の洞察力を自画自賛しながら、貴方は購入するロリポップキャンディーの選定を始めました。シンコウウインディを脇に抱えたまま。


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