貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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こーすもじごく。

 貴方はウマ娘たちの能力をゲーム画面のように数値化して確認することができますが、さすがにトレーニングまでゲームのようにお手軽に済ませることはできません。

 もっとも、トレーニングプランの原案は基本的にウマ娘たちが自主的に組み立てるので貴方の負担は実質的にはゼロであると言うだけ言っておきましょう。

 

 貴方の辞書に『労働意欲』の四文字は存在しません。故に、学園側で用意してあるトレーニング施設などの使用に関する申請はウマ娘たちが全て自分で行わなければなりません。

 いまのところ生徒会副会長であるエアグルーヴを筆頭に、エイシンフラッシュやイクノディクタスといったスケジュール管理を得意とするウマ娘たちの尽力により、一応トラブルらしいトラブルは起きてはいない様子です。

 

 

 とはいえ。中央トレセン学園には千人を余裕で超えるウマ娘が在籍していますので、どうしてもトレーニング機材やプールを使えずあぶれるウマ娘は出てしまいます。

 背に腹はかえられぬ。そのような事情があるためか、変わらず貴方がチート能力による演算と併用して編み出したトレーニングもどきでステータスを鍛えるウマ娘は途絶えないようです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 古典にして王道。重りを身に付けてのランニングは、そのわかりやすさもあってか何人ものウマ娘が積極的に取り組んでいます。

 普通の金属ではウマ娘たちの筋力に対して軽すぎる、だからといって大量に仕込めば走るのに邪魔になる。その辺りのジレンマは貴方が用意した無重力合金を使用することで解決していますので、ウマ娘たちは各々が丁度良い重さのアンクルを自由に選ぶことができます。

 

 過度の負荷はトレーニング効率が悪いだけでなく、ときには大ケガにつながることもある。なので重りを選ぶときは、いつもニコニコしているダイタクヘリオスやハルウララも真剣な表情に切り替わります。

 中には「テイオーよりもたくさん重りをつけたってエンジン全開で余裕だもんッ!」といって重装備で全力疾走した結果、あっという間にエネルギーを使い果たしてお休みモードになってしまうウマ娘などもいますが、それぞれ失敗と試行錯誤を繰り返すことでちゃんと加減は覚えたようです。

 

 ありきたりなトレーニングであるが故に効果も期待できる、それは結構なことでしょう。しかし追放されることを目的とする貴方にとって、第三者から見て『普通』のトレーニングだけでは意味がありません。

 

 そんな貴方が用意した新しいトレーニング、それは前世のとある競馬漫画を参考にして組み上げた“動くサンドバッグの間を走り抜ける”という装置を使う大変荒々しいトレーニングです。

 当たり前の話ですが、レースというものはひとりで行うものではありません。大勢のライバルたちと同じコースの上を走るワケですから、レースに勝つためにはほかのウマ娘たちを避けて前に出るという能力を必ず身につける必要があります。

 

 あるいは、なんらかの要因による接触が起こる可能性への備えにもなるでしょう。真剣勝負の最中でも予期せぬ事故は容赦なく襲い掛かってくるもの、確実に予防することができないのであれば対処するためのスキルを叩き込むしかないと貴方は考えたようです。

 このトレーニングもなかなかウマ娘ごとの個性が現れるようで、大雑把に分類すると『避ける派』と『弾く派』の2種類の走り方に分かれ、そこからさらに『避け方』と『弾き方』で好みの違いが見えて面白いことになっています。

 

 例えば避ける派であればフジキセキはサンドバッグの動きに合わせた踊るような動きで間をすり抜けながら駆け抜けますし、タマモクロスは鋭いステップワークを駆使して切り裂くような走りで駆け抜けています。

 弾く派の意外なところではミスターシービーがサンドバッグを避けることよりも真っ直ぐ走ることにこだわっているようで、どうあっても進路が塞がれるようなときは豪快に弾き飛ばして突っ切るばかり。本人曰く、尊敬する友人を真似してみることにした、とのこと。

 

 ほかにはサンドバッグの動きを計算し尽くしてスイスイと走るアグネスタキオンを尊敬する目で見る中等部のウマ娘がいたり、サンドバッグを支える鎖ごと壊しかねないほどの勢いで弾き返しながら走るタニノギムレットをキラキラする目で見る中等部のウマ娘がいたりと、なかなか愉快な光景が広がっています。

 もちろん誰もがスムーズにトレーニングを行えるワケではありません。能力的に避けきれないウマ娘もいますし、受けきれないウマ娘も当然います。そして、そんなウマ娘たちがこのサンドバッグトレーニングに挑戦することを貴方は平然と認めているのです。

 

 予防だけでなく対処も必要。サンドバッグに当たり負けて転んでしまうのを利用して、ケガをしない上手な転び方を学ばせる。

 直線運動に対する横からの衝撃を甘く見ているウマ娘たちに、安全な環境でその恐ろしさを体験させてしまおうという腹積もりなのでしょう。

 

 ついでにその光景を偶然目撃した者たちが危険なトレーニングをウマ娘たちに強要していると認識してくれれば好都合というもの。

 

 積み重ねた信用があれば多少の無茶も理由があるのだろうと理解を得られるかもしれませんが、日々の努力により貴方の悪役としての評価は黄金飴細工の龍が如く豪華絢爛にして揺るがないモノとなっているのでなにも心配はいりません。

 トレーニングも、人物評価も、ある日突然誤魔化したところで簡単にメッキは剥がれ落ちる。やはり最後には日々の積み重ねこそが勝利へと導いてくれるのだと貴方はほくそ笑み──ナカヤマフェスタから“ジンクスを破ると言って無茶な重量のアンクルで走ろうとしているヤツがいる”という報告を受けてハリセンを片手に駆け出しました。


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