貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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答え合わせの時間。


『賑やかな日々の階段を』

 朝早く、まだ外が薄暗い時間帯。

 

 中央トレセン学園の学生寮で生活するウマ娘たちの中には、すでにジャージに着替えて活動を開始している者たちがいた。

 寝起きで固くなっている筋肉をストレッチでゆっくりとほぐし、数分ほど時間を使って白湯を飲み水分を補給する。目覚ましならばコーヒーやキンキンに冷えた水のほうが頭はハッキリするのかもしれないが、胃の負担になるし筋肉が冷えて緊張してしまうので避けるようにしているのだ。

 

 学生寮を出発するウマ娘たちの目的は軽いランニングであった。早朝トレーニングというほど本格的なものではなく、どちらかといえば“どんな状況でも充分なパフォーマンスが発揮できるように”と身体の使い方を覚えるためのおまじないに近い。

 新鮮な空気を取り込んで、全身に酸素を循環させることを楽しむように。隣を走る友人にしてライバルたちと軽く談笑をしながらの、勝負事とは切り離した気楽な運動なのである。

 

 が。

 

 ひとり、ウマ娘が前に出る。だからどうと言うワケではないのだが、それをもうひとりのウマ娘が軽く追い越す。

 するとまた別のウマ娘が前に出る。あくまでお喋りを楽しみながら、穏やかな空気のまま何度も先頭が入れ替わる。

 

 やがて、ウマ娘たちの口数が少なくなり──。

 

 

 

 

「負けるかぁぁぁぁッ!!」

 

「勝たせるかぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

「あーあ、まぁ~た始まった」

 

 悲しいかな、アスリートというのは負けず嫌いな者が多い。というより負けず嫌いというのは勝負の世界で生きようとするのであれば必須の条件と言ってもいい。

 だからといって、こんなランニングで意地の張り合いなんてしなくても……と、マイペースを保っているウマ娘たちは呆れたように追い比べを始めたウマ娘たちの背中を見送っていた。

 

 まぁ、これはこれで悪くない光景なのだろう。才能を理由に、天才と競う不幸を嘆きながら、自分を疑いながらトレーニングを続けているよりはずっといい。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 大半のウマ娘たちが寮へ向かう中、数人のウマ娘がルートを外れ学園へ向けて脚を進める。ほんのりと漂ってくるココアの甘い香りを辿るように、とあるトレーナーが使用しているルームがある場所へ向かって。

 

 途中、駐車場に彼の愛車──ではなくどうやら今日はバイクの気分だったようだが、トレーナーがすでに出勤していることは確認済みである。

 学生時代に所属していたバイク愛好会だか二輪研究会だかのようなクラブに所属しているときに友人たちと自作したらしいが、どうやら昔からなにかと器用な人物だったようだ。バイク愛好会が何故か格闘技の部活に変わり生徒会長を兼任する総長なる人物の補佐をしていたという自由人ぶりも含めて。

 

 

「……よぅ。オハヨウ」

 

 自分たちの姿を確認するなり露骨にイヤそうな顔で挨拶をしてくるのは中央トレセン学園の隠れた……隠れた? いや、うん、育成評価としては最低ランクなので一応隠れてはいる名物トレーナーである。

 朝早くに学園に来てまだまだ寒いのにわざわざ外で焚き火を使いココアを作って寛いでいるのは実に趣味人らしくて彼らしい。

 

 わかりやすく無愛想で歓迎していない態度であるのはウマ娘たちも理解しているが、同時にそれだけであるとウマ娘たちは知っている。

 勝手にルームからコップを持ってきて断りもなく自分たちもココアを注ぎはじめても、彼は渋い顔をするだけで決して文句を言うことはないと確信できる程度には扱いになれているのだ。

 

 

「朝の運動もいいがウォーミングアップはしっかりやれよ。テメェらウマ娘の心臓は俺たちヒトに比べて強すぎる。鼻にティッシュ突っ込んだまま朝飯食っても美味くねェぞ?」

 

「は~い、ちゃんとやってますぅ~。言われた通りお水じゃなくてお湯も飲んでストレッチしてますよぉ~」

 

「中にはホットミルク飲んでソファーで二度寝してるヤツもいるけどな。今日もそんなポニーちゃんに優しい寮長さまが毛布の世話してるだろうさ」

 

「なるほど、実にフジキセキだな。つーか、その二度寝したってアホは──」

 

 担当しているワケでもないのにウマ娘の名前がスラスラと出てくるのもいつものことだ。取引相手のウマ娘はもちろんのこと、それ以外のウマ娘でさえも「ライバルとなる可能性があるのだから」と能力をしっかりと把握している。

 本来ならば尊敬するところなのだろう。だがこのトレーナーの場合、仕事のためではなく自分が楽しんでいるという雰囲気を欠片も隠そうとしないのだからそれも難しい。そんな彼がまとめるチーム擬きを気に入っている自分たちも大概なのだが。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 簡単な近況報告を済ませ、ココアも一滴残らず美味しくいただいたら、あとはそれぞれの学生寮に戻り朝食の時間である。

 そこからはほぼいつもどおり。それこそ彼がトレセン学園にやってくる前の、非公式チームであるポラリスが結成される前と変わらない学生らしい時間を過ごすことになる。違いがあるとすれば時折、昼休憩が修羅の巷へ変貌することがあるぐらいなものだ。

 

 放課後のウマ娘たちの行動は主に3つ。勉強か、トレーニングか、アルバイトか。遊びに出かけるウマ娘もいるが、休息日はトレーニングの一環なのでノーカウントである。

 

「えー諸君。速く走るには下半身だけではなく上半身も鍛えないとイカンのだよ。何度も言ってるのにまたわざわざ言うのかって思うだろ? 俺もそう思うよ。じゃあなんでこんなこと改めて言ってンのかってのはな──脚にばっか筋肉偏ってるど阿呆が何人もいるからだよオラァァァァンッ!!」

 

「「「「申し訳ありませんッ!!」」」」

 

「テメーらのそのご立派なウマ耳は飾りかスカポンタンどもがァッ!! 一度偏ったらバランス取り戻すのに時間がかかるって言ったのを聞いてなかったのか、アァン!? ……ハァ、まぁいい。取り引きをしてんのに気づくのが遅れた俺にも責任はあるからな」

 

「そうそう、トレーナーならウマ娘の変化にもっと敏感になってくれないと困るかぺぎゃんっ!?」

 

「オゥ、ほかにハリセンで頭撫でて欲しいヤツぁいるか?」

 

「「「………………」」」

 

 

「アレは暴力にカテゴリーされると思う?」

 

「そいつを立証するにはスズカの証言が必要かもな。最近はアヤベも頭スズカが深刻化して頻繁にドつかれてるみたいだけど」

 

「そっちはまだいいでしょ。メイクデビュー現地で見るために双子の妹がリハビリ頑張ってるらしいし」

 

 

 指示に従わないウマ娘を言葉で諭すのではなく頭を叩くという、字面だけならトレセン学園どころかURAからライセンス剥奪を食らうレベルの問題行動が堂々と行われている。

 だが如何せん絵面が完璧にギャグの世界であるため、ウマ娘たちはもちろん職員たちですら最早気にしている者はいなくなってしまっていた。いまだにリアクションをしているのは新人のトレーナーと転校生のウマ娘ぐらいなものだろう。

 

 自業自得という名の一撃を受けて涙目になって頭をさするウマ娘を含め、上半身の鍛え方が不充分であると判断されたウマ娘たちが鉄パイプで組まれた自作のトレーニング装置の前に並ぶ。

 それぞれの表情が楽しそうなのは決して気のせいなどではない。才能が認められた者だけが集まる中央トレセン学園に所属してなお、才能が乏しいことを自覚したウマ娘ほど彼女たちの気持ちが理解できる。

 

 ポラリスのトレーナーは全てのウマ娘にレースで勝つ可能性があると本気で信じているし、勝たせるために必要な条件を本気になって探しだしてくれる。なんなら、本人よりもウマ娘の勝利を信じているかもしれない。

 

 信じた結果こうして鉄パイプを腕の力だけで登らされるものだからヒトを、いやウマを選ぶトレーナーではあるのだが。

 一応言動はだいぶアレだが人間性は意外とまともであるとは説明するものの、それでドラム缶を押したり目隠しをしてスポンジでチャンバラをしたりプールに浮かべたタライの上を飛んでみたりとワケのわからないトレーニングを見せられたのでは説得力もスプリンター並みの速度でどこかへ走り去ってしまうのも仕方ない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ねぇ。明日さ、放課後になったら商店街に行ってラーメン食べようよ。どうしてか急にスゴくすごぉ~く食べたくなっちゃったの」

 

「奇遇だな、アタシも誘おうと思ってたところだ。ラーメン食ってスタミナ付けて、重賞レース勝てたらトレーナーのみぞおちに蹄鉄叩き付けてやらぁ」

 

 

「いやぁ~、最近はインスタントもレベルが高ェこと高ェこと。濃厚とんこつ醤油に焦がしニンニクを……最高かよ……。あぁ~、ラーメン食ったあとの水は極上のワインより美味いなぁ~オイッ!」

 

 

 体力に余裕のあるウマ娘や、放課後をアルバイトに使いたいウマ娘たちにとっては日が沈んでから消灯時間までの限られたタイミングがトレーニングの本番である。

 明日の勝利を夢見てギリギリまで己を鍛えるウマ娘たちの横で見せつけるようにラーメンなどの夜食を嗜むトレーナーは世界中を探してもこの男が唯一無二だろう。

 

 

 これは、試練だ。

 

 未熟な精神を乗り越えろという三女神が与えた試練に違いない。この誘惑を跳ね返して前に進んだウマ娘だけが栄光のゴールを駆け抜けることができるのだ。

 それでも無意識に香りを辿ってしまえばその先にあるのは殴りたいその笑顔。あの野郎、もしかしてレース見てるときよりも夜食で煽ってるときのほうが幸せそうな顔してるんじゃねぇかと走るウマ娘たちの全身に自然とヤる気も満ちていく。

 

 実際、アスリートにとって食の誘惑に負けない心は必須である。いくらウマ娘の筋肉がヒトと比べて桁違いのエネルギーを必要とするとはいえ、ウマ娘向けのメニューはカロリーもヒト向けのメニューとは比べ物にならないのだから。

 ついでに言うならば、彼にはこのあとオーバーワークをしそうなウマ娘たちを黙らせるという本日最後の業務が待っているのを彼女たちは知っている。不安から走らずにはいられない……というウマ娘は減ったのだが、安心から強制終了されるまでとことん走ろうとするウマ娘が現れてしまったことを考えると良いことなのか悪いことなのか判断に困るところだ。

 

 

 敷地内に景気の良い炸裂音が鳴り響き、就寝準備をしているウマ娘たちが「今日は15人か……」などと1日の終わりをしみじみと感じたところでポラリストレーナーもようやく帰路に就く。

 昼間とは真逆の静かな夜の空間にエンジンの音が聞こえてくるのを待つために、ふたりの寮長が戸締まり確認を済ませたあともしばらく玄関の外で立っていることを彼はきっと知らないのだろう。

 

 

 これで中央トレセン学園の1日が終わる。かつては想像すらしていなかった、いまでは当たり前の1日が。そしてきっと明日も同じような1日が始まるのだ。夢を見送る日々ではなく、夢を追いかける日々が。




アプリはそれなりに周回していますが、寮の食事事情がイマイチ理解できていないカジュアルプレイヤーが私です。
わりと自由に料理している描写はありますし、セイウンスカイのサポカには共有の冷蔵庫も写っているのは知っているのですが。


続きは温まり系の入浴剤がちょっと使いにくいと感じるようになったら、次はライアン・アイネス・タキオンの弥生賞~皐月賞ダイジェストになります。
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