貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ばっちり。

 最も速いウマ娘が勝利すると言われている皐月賞は、最も学校関係者が忙しいと思われる4月の前半に開催されます。

 

 中央トレセン学園はウマ娘レースのエリートが集まる場所ですが、同時に政府が公的に認めた教育機関でもあります。つまり、ウマ娘たちはもちろんですが教職員たちもレースにばかり集中していれば許される環境ではないということです。

 もちろんそれは真面目に働いているスタッフに限定された話であり、真面目にサボタージュしている貴方には一切関係ありません。案の定ウマ娘たちに半ば連行される形で皐月賞を楽しむためにレース場に移動しています。

 

 適当にグルメを楽しみつつ出走の時間をのんびりと待つだけの簡単な作業になる──ハズでしたが、貴方の優れた動体視力は他校のウマ娘たちとトラブルを起こしている中央トレセン学園の制服を発見してしまいました。

 

 絶賛マウンティングマウンテンの全速力登頂中といったところでしょうか、エリートの仲間入りした思春期の行動としてはギリギリ微笑ましい範疇と言えないこともありません。

 しかしそれは無関係な第三者だからこそ笑えるのであって、当事者である他校のウマ娘たちにしてみれば迷惑でしかなく、もしこのまま静観すれば間違いなく面倒なことになるでしょう。

 

 

 悪役としては放置一択の場面。しかし無視して通り過ぎるには厄介な状況でもあります。

 

 

 貴方もまた、トレセン学園で仕事中の皆さんに自分は余裕でレース観戦できる立場であるとマウントを取るために、普段の黒ジャージではなく大正浪漫スタイルでレース場に来ているため普通に悪目立ちしています。

 しかも中央トレセン学園のトレーナーであることを示すバッジをちゃんと身につけたままウマ娘を引き連れているので身分を誤魔化すこともできません。

 

 貴方個人が無責任と謗られるのは望むところ。しかし中央トレセン学園のトレーナーという大きな枠で評価されるのは困ります。

 そして、こういうときは確実と言っていいほど組織単位で晒し者にされるのが世間というものであることを貴方は知っています。

 

 何故、悪役トレーナーである自分が。完全無欠のチート転生者である自分がこんな貧乏クジを引かねばならんのだ。

 

 貴方はやれやれとタメ息をひとつ吐き出すと、得意気になっている新入生ウマ娘たちに近づきます。他校のウマ娘たちが貴方に反応し、それにつられて中央のウマ娘たちが振り向くのと同時に容赦なく拳骨を落としました。

 まさかいきなり実力行使に出るとは他校のウマ娘たちもギャラリーたちも思わなかったのでしょう。いくらトラブルを起こしたからといって、いきなりそんなことをしなくてもと新入生ウマ娘たちに同情的な視線が向けられます。

 

 

 よろしい、狙い通りである。貴方は視線でヒシアマゾンとフジキセキにフォローを任せます。突然見知らぬ男に脳天を揺らされたワケですから、たとえ寮長ふたりがフォローしたとしても彼女たちのヘイトは確実に自分に向けられるのもお見通しです。

 

 

 あとは他校のウマ娘たちをどうするか、という問題だけが残されている状況ですが……貴方は迷うことも躊躇うことも無く頭を丁寧に下げました。

 中央のウマ娘が迷惑をかけたことを、せっかくの良い日和にクラシック路線の始まりを見に来たところを不愉快な思いをさせてしまい申し訳ないと誠心誠意の謝罪をしました。

 

 これで文句のひとつでも浴びせてくれれば完璧なのかもしれませんが、残念ながら相手方のウマ娘たちも素直で良い子たちばかりだったようです。

 

 あっさり許されてしまったことに多少の不満はあるものの、僅かな時間とはいえ学生たちの貴重な休日を浪費させてしまうのは悪役どうこう以前に大人として恥ずべき行為であると貴方は納得することにしました。

 今年のクラシック路線も必ず面白いことになる、それはこのトレーナーバッジに誓って約束しよう。だから今日の皐月賞だけでなく、もし良ければ日本ダービーや菊花賞も出走するウマ娘たちを応援してほしい。もちろんティアラ路線も魅力的なウマ娘ばかりだと付け足し、帽子を取って外向けスマイルで他校のウマ娘たちを見送りました。

 

 

「え、ダレ? つーかナニ、いつの間にか入れ替わったん? アンタあんなふうにピシッとキメたりとかもできんじゃ──ふぇ? 慣れないことして疲れた、ほっぺたひきつりそうだから2度としたくないって? ……うん、まぁ、うん。正直なトコなんか違いすぎてちょっとキモいなとか思ったし、いつものトレピが一番安定っつーか、アリよりのアリなんじゃね」

 

 丁寧な対応を見たトーセンジョーダンから苦笑いと共に否定的な感想が出てきたことに安堵しつつ、とりあえず貴方は悪役らしからぬ微笑みで負担をかけてしまった顔をグニグニとほぐすことにしました。

 関係者用の出入口が利用できればこのような面倒を引き受けることもなかったのかもしれませんが、残念ながら担当ウマ娘がいままでもこれからも存在することのない貴方には永遠に無縁の話です。ここは無い物ねだりをしてもしょうがないと割り切り、アグネスタキオンの研究の成果を楽しませてもらうとしましょう。




次回はあっさり味の皐月賞視点です。
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