貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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スイカは内側が甘くて美味しいのですが、自分は外側の甘さ控えめでザクザクする部分のほうが好みですね。さすがに白いところまではかじりませんが。


いきり。

「おい貴様、今度開催される新入生向けのオリエンテーションを手伝え。チーム・個人問わずトレーナーの指導がどういったものか体験してもらうという催しだ。どうせ貴様はヒマを……いや、ヒマ……? うん、ヒマだろう?」

 

 なぜ自分のようなトレーナー不適合者を新入生という大事な未来のスターウマ娘に近づけようなどと考えることができるのか、そもそも普段の聡明さが台無しになるレベルで歯切れが悪くなるほど嫌ならば誘わなければ良いだろうに。

 エアグルーヴの態度を少しだけ不審に思いつつも、指摘された通り中央トレセン学園どころか世界で最も暇をもて余しているトレーナーは自分であるとあずきバー並みに強固な確信を持っている貴方は彼女の提案について詳しい説明を受けることにしました。

 

 

 どうやら近年の重賞レースにて、トレーナーと担当契約を交わしていないウマ娘たちが活躍している影響がついに表に出始めているとのこと。

 自分らしく楽しそうに走る先輩ウマ娘たちの姿に憧れた新入生たちの中には、少数ながら最初から単独で登録を希望する者までいると言うのです。

 

 そんなもの、まともなトレーナーの指導を受けているウマ娘と1度勝負させれば簡単に勘違いを修正できるはずだが……と。悪役らしい暴力的な解決方法を即座に閃いた貴方でしたが、中央トレセン学園はアスリートを鍛える場所であると同時に教育機関であることも忘れてはいけないと考えを改めました。

 

 凡人の心をへし折り優秀なウマ娘だけを選抜するのは簡単なことかもしれません。しかし中央トレセン学園は明日のGⅠウマ娘を目指して邁進する学生たちを育てるための場所なのです。

 むしろ自分のことを才能に乏しいと思い込んでいるウマ娘こそ積極的にスカウトしてやる、それぐらいの意気込みがなければトレーナーを名乗るなど言語道断というもの。

 

 

 もちろん金儲けと自分が楽しむことしか頭になく、才能のあるウマ娘だけを選別して取り引きでそれらしく指導の真似事をしているつもりの貴方には全く無関係な価値観でしょう。

 チート転生者にして悪徳守銭奴トレーナーである貴方の選定基準はアヌビス神もラーの天秤をそっと片付けて見守るレベルで厳しく、暗闇の荒野に自らの意思で1歩目を踏み出せるウマ娘にしか興味がありません。

 

 具体例としては、学園で最も邪悪なトレーナー相手にレースで勝つためのトレーニングプランを要求するといったハイリスクでありながらリターンの少ない勇気と言うよりは無謀とも言える試みに挑めるようなウマ娘ぐらいでなければ取り引きには応じません。

 

 

「気持ちはわからんでもないけどなぁ。新入生や~言うても、地元では負け知らずの鼻っ柱が強い連中が集まっとるワケやろ? ほな自分もひとりでGⅠ獲ったるわ~ってなるのもしゃあないっちゅうか……いや良くはないけどな?」

 

「その通りです。結果的に単独出走することになってしまうのならばともかく、最初からというのはさすがに見過ごせません。半端な知識と思い込みでムチャなトレーニングを繰り返し、脚を壊してしまったのでは……」

 

 歪んだ知識で教科書には掲載されていないようなワケのわからないトレーニングを施している悪役トレーナーがまさに目の前にいるんだが。

 もちろん空気を読む能力に自信のある貴方は余計なことは言わずに黙っていますが、トレーナー不在のウマ娘たちがムチャなトレーニングを実行する危険性については同意せざるをえません。

 

 現に、才能に恵まれているにも関わらずなぜか誰もスカウトしないサイレンススズカやアドマイヤベガなど一部のウマ娘たちは夜遅く……それこそ寮の門限ギリギリまでトレーニングを止めようとしないことを貴方は知っているからです。

 

 当然ですが悪役トレーナーである貴方はウマ娘たちの自由意思を尊重してやろうなどという優しさを持ち合わせていません。今夜も愛用のハリセン『菊一文字のりたま』を片手に彼女たちの後頭部を打楽器にする作業が待っていることでしょう。

 日に日にムチャをするウマ娘が増加しているせいでハリセンの消耗が尋常ではありませんが、チート能力を自由自在に使いこなせる貴方にとって新品のハリセンを手作りすることなど作業のうちにも入らないので大丈夫です。

 

 

 しかしなるほど、数々の問題を転生者特有の閃きと推理力を駆使して完璧な悪役ムーヴで乗り越えてきた貴方はエアグルーヴの狙いを見抜くことができたようです。

 どんな形でもいいので、単独出走で活躍しているウマ娘たちもトレーナーの指導を受けている姿を新入生たちに見せることで状況の改善を図るつもりなのだと気づきました。

 

 いやまて。そのトレーナー役を自分が引き受けたのでは逆効果になってしまうのではないか? その程度のことをエアグルーヴほどのウマ娘が見落とすなどあり得ないと知っている貴方は彼女の真意がどこにあるのかと想像を巡らせ──ようとしましたが、ウマ娘のために真面目に物事を考えるのは悪役トレーナーの立ち回りではないと早々に思考を放棄してしまいました。

 

 

 それにしても。

 

 まさか単独出走で活躍しているウマ娘たちに憧れて、トレーナーとの担当契約を軽んじるウマ娘が新入生として中央トレセン学園に入学してくるようなことになるとは。

 まったく、いったいどうしてこんなことになってしまったのやら。もしも新入生ウマ娘たちに悪影響を与えるようなトレーナーが中央トレセン学園に在籍しているのだとしたら、自分の行動を省みて立場と責任というものについて冷静に考えてもらわなければ困るじゃないか。そう言いながら、貴方はわざとらしくやれやれと笑いました。

 

 

 無言のままエアグルーヴが全力射出した案内用の冊子が貴方の顔面に直撃し盛大な炸裂音がルームに響き渡りましたが、日頃の言動が功を奏したのでしょう。貴方のことを心配するウマ娘は誰ひとりとして存在しませんでした。

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