貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
怒りの感情というものは、思いの外長続きしないことを貴方は前世の人生で学びました。
とくにメジロライアンのように、負の感情を内側に向けてしまうタイプはどこかのタイミングで自虐的なモノに切り替わる可能性があります。
なので、ここは小技を繰り返すよりも早々に大技を仕掛けることにしましょう。貴方は勝負の場で「まずは小手調べ」と言うキャラクターに対して、そういうのは練習でやるもので本番でやるんじゃねーよとか考えるタイプの人間です。
もちろん貴方にはしっかりと手札の備えがあります。模擬レースを見に行ったときに、周囲のトレーナーたちが貴方へ向けた悪意ある言葉を垂れ流していたのですが、そこにいくつかの有用な情報が含まれていたからです。
アルバイトをしながらトレーニングに励み、スカウトされることを目指して努力するウマ娘が大勢いるところに、貴方のような金銭目的の恥知らずのトレーナーが現れたことに対する不快感。そんな話題の中にアイネスフウジンの話も含まれていたのです。
前世の知識が概ね通用することが確認できたこともそうですが、しっかりとトレーナーたちに敵視されていることを確認できた貴方は、ターフを駆け抜けるサイレンススズカの如くご機嫌でした。
隣で貴方に向けられた陰口が聞こえていたミスターシービー、トウカイテイオー、マヤノトップガンの表情が何処と無くお米が食べたいけれど痩せたいような雰囲気でしたが気のせいでしょう。
あと、駿川たづな秘書を始めとする学園スタッフも不快感を隠しきれない表情で貴方を見ていた中、秋川やよい理事長だけは扇子の向こう側に不敵な笑みを浮かべていたような気がしましたがおそらく目の錯覚でしょう。
そんな貴方が選んだ手札はウマ娘の聖域に踏み込むひと言です。アイネスフウジンは勝つ必要がないから楽しそうに走っているのだ……と。
レースに出走すれば、そして入着できればまとまった賞金が出ることを守銭奴系極悪トレーナーである貴方は当然知っています。どうやらそのシステムを利用してアイネスフウジンを批判することにしたようです。
1着にならなくてもお金が手に入るから、勝たなくてもいいからヘラヘラと笑っていられるのだと容赦なく貴方は言葉を続けました。
もちろんあまり良い気分ではありませんが、貴方はアイネスフウジンであればこの程度の批判など走りで容易く一蹴してみせるだろうと確信しているので問題なく我慢できます。
次の瞬間、貴方に強烈なプレッシャーが叩き付けられました! 怒りの感情が弾けたメジロライアンがついに貴方へ反論を始めたのです!
彼女は貴方を睨み付けながら言いました。敗けてもいいと思いながら走るウマ娘はいない、勝たなくてもよい勝負などない、と。親友への侮辱を撤回することを貴方に求めました。
コングラチュレーションズ!
貴方はメジロライアンにいま一番必要な言葉を、彼女自身から引き出すことに成功しました!
さぁ、こうなってしまえば貴方は無意味に勝利を確信してしまいます。ならば証明してみせろ、家の名誉のために走ることができなくとも、友の名誉のために勝つことぐらいはできるだろうと彼女を焚き付けました。
一瞬の間を置いて、メジロライアンは力強く頷いてみせました。前回の不甲斐ない走りとは違う、次の模擬レースでは必ずベストの走りをしてみせると堂々と宣言しました。
貴方は彼女の宣言にスッカリ満足して──いません。何故なら貴方は油断も慢心もしないチート転生者だからです。ベストの走りで満足するようでは悪のトレーナーとして相応しくありません。やはりここは努力よりも結果が全てであると態度で示しましょう!
やる気に満ちたメジロライアンに対し、貴方はより明確な勝利を求めました。アイネスフウジンはいずれ日本ダービーを勝つウマ娘なのだ、その価値を証明するのだから半端な勝ち方では認めないと言い残し、貴方はその場を立ち去りました。
任務完了、あるいは完全勝利。貴方は全てが思惑通りに進んだという満足感を得ながら、次の模擬レースの日程を確認するのでした。貴方の記憶処理能力は道路を横断するカタツムリにも優しい安全運転ですが、記憶を処理する能力はどうやら第一宇宙速度でも追い付くことは不可能なようです。
落ち込むウマ娘の前で親友を侮辱する。
まさに外道! なんたる鬼畜行為!
だから、タグにアンチ・ヘイトを設定する必要があったんですね。