貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
エアグルーヴの提案に素直に賛成するべきか、それとも反対するべきか。
シンプルに考えるのであれば自分には関係ないと協力を拒否するのが悪役トレーナーとして正しい行動であると貴方もちゃんと理解しています。担当契約をしていないウマ娘の頼み事に軽々しく応じるようなトレーナーは悪役の風上にも置けません。
しかし、それはあくまでシンプルに考えた場合の話。常に悪役トレーナーとして高みを目指し続けている貴方の進むべき道に『妥協』の二文字などあるワケがなく、ここはあえてエアグルーヴの頼みを引き受けることにしました。
もちろん貴方はウマ娘たちのために真面目なトレーニングを実行するつもりなどありません。全ては己の悪名をより確実に、そしてより効率的に広めるための神算鬼謀なのです!
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追放されるために新入生向けのオリエンテーションを利用することを決めた貴方は、事前準備としてまずは服装を整えることにしました。
あえてのスーツ姿を選ぶことで、中央トレセン学園の最高権力者である秋川やよい理事長に媚びる破廉恥で情けない男を演出するのも悪くないかもしれません。しかし、冷静に考えてみれば自分のような怪しからん者が近寄れるはずもないと貴方は即座に切り捨てたようです。
となれば、やはりトレードマークでもある黒ジャージ一択でしょう。大正ロマンスタイルも場違い感があって悪くないのですが、当て付けや嫌がらせの一環で勝負服を着てくるウマ娘がいないとも限らないため却下です。一流の悪役を自負する男として、この程度のリスクマネジメントはできて当然というもの。
しかし、いつものように黒ジャージをただ着ているだけでは芸がないかもしれない。そう考えた貴方は小物をいくつか装備することで悪役らしさに磨きをかけることにしたようです。
問題があるとすればひとつだけ。貴方はコーディネートについてほぼ無頓着のまま生きてきたので、こうしたアイテムの使い方に詳しくないということです。
例えば時計の選び方にしても、貴方にとって時計とは時間を知るための道具であり、余計な機能やデザイン性などは一度も求めたことがありません。それ以外の用途といえば、学生時代に暗器による攻撃を受け止める機会が何度かあったぐらいなものです。
一応、おしゃれ小道具そのものは貴方も所持しています。ですがそれらの品々はお出かけ中に偶然出会したウマ娘たちがノリで選んだ物であるため、悪役トレーナーが身につける物として相応しいかは怪しいところであると貴方は睨んでいます。
マルゼンスキーが選ぶものは案の定バブリーであり、ダイタクヘリオスが選べばパリピ一直線であり、タニノギムレットの選択はどこまでもギムレットしているため、やはり貴方が求める悪役スタイルには合致しないかもしれません。
無難にシンコウウインディが見繕ったフレームが無いタイプのサングラスを装着することに決めた貴方は、今回の追放計画の要となる公開トレーニングの内容について考え始めます。
貴方基準の普通で考えた場合そもそもウマ娘が集まらずトレーニングが成立しないはずですが、今回はエアグルーヴという人望に優れたウマ娘が関係していますので残念ながら空振りは期待できません。
しかし、なにか特別な事情でもない限り自分のような堂々と仕事をサボり好き勝手に振る舞う人間失格なトレーナーになど関わりたくないし、関わらせたくないと考えるのが道理であり真理。
ならば、いくらエアグルーヴが優秀であろうとも集められるのは取引中のウマ娘に限定されるだろう。これは貴方にとって非常に好都合というものです。
チート能力で確認できるステータスはあくまで参考であり目安でしかありませんが、それでも取引ウマ娘たちの体力と丈夫さと根性が素晴らしい成長を見せているのは紛れもない事実。
通常のトレーニングはもちろんのことですが、それならばクズトレーナーとして追放されることを重視した出鱈目なトレーニングであってもケガのリスクを限界まで抑えることが可能なのです。
ウマ娘にケガはさせない。
ついでに能力も伸ばす。
そして自分は追放される。
全てを同時にやらなくてはならないのがチート転生トレーナーである貴方の辛いところかもしれませんが、どのような結果に落ち着いたとしても貴方にとっては常に完璧な結果として反映されるため実質的な成功率は100パーセントなので心配することはなにもありません。
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数日後。
とても優れたプロファイリングで予測した通り、ターフには貴方と取り引きをしたことがあるウマ娘ばかりが集まっています。
あらゆる事象が自分の手のひらの上で転がっているという事実に悪役として高笑いしたい気分ではありますが、今日の貴方は新入生向けにトレーナーのフリをしなければなりませんので強靭な意志力でそれらの感情はしっかりとコントロールすることにしましょう。
さて、肝心のトレーニングの内容が気になるところですが、貴方が考えた神の一手は“とにかく限界ギリギリまで走り続ける”というスポーツ医学を真っ向両断するようなものでした。
己の限界がどこにあるのかをしっかりと把握することは日々のトレーニングはもちろん、レース中のペース配分やラストスパートを仕掛けるときの精神的支柱にもなるため決して無意味ではありません。
しかし文明社会で育ち科学的なトレーニングに慣れ親しんでいるウマ娘たちにとって、こうした根性論を全面的に押し出したトレーニングはそれだけで強いストレスになることは間違いなし! 今日も貴方のヘイトコントロールは追放に向けて豪華絢爛なバレルロールを披露しているようですね!
貴方の説明を聞いていたウマ娘の反応ですが、当然の権利のように不平不満が飛び出す──と予測していたものの、どうやらリタイアしたウマ娘を投げ込むために貴方がチート能力を駆使して用意した巨大ビニールプール(すべり台付属)が気になってそれどころではないようです。