貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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いきなり。

 同じデザインの色違いジャージなウマ娘が集う光景はなかなか見応えがありますが、そんなことよりも貴方は首謀者として今回のトレーニングの説明をしなければなりません。

 といっても、やることはそれぞれのウマ娘が限界ギリギリまで走り続けるだけ。自分の限界を知り、そこに近づくことでパフォーマンスがどう変化をするのか知ることでレースに備えようというだけの話です。

 

 チラリと周囲を見渡せば、なにを期待してやってきたのかわかりませんが新入生ウマ娘たちもそれなりの人数が集まっています。

 

 そういえば、見学だけでなく体験もしてもらうとエアグルーヴが言っていたな。積極的に参加を促すのは悪役トレーナーとしては微妙なラインであると判断した貴方は、新入生ウマ娘たちに参加しても参加しなくてもよいという曖昧な言葉をかけて場を濁すことにしたようです。

 あとのことはエアグルーヴに丸投げしておけば上手く誘導してくれるはず。そう考えた貴方はコースから離れプールの横まで移動しようとして──念のため、参加しているウマ娘たちに「頭スズカにならないように」とだけ注意喚起を行いました。

 

 

「え。……え? ねぇフクキタル、いまトレーナーさん私の頭がどうとかって言わなかった? それに、なんでみんなも当たり前のように元気よく返事してるの?」

 

「スズカさんは気にしなくても大丈夫ですよ~。いえ、ホントは少しぐらい気をつけて欲しいところではあるんですが、たぶんトレーナーさんも諦めてるっぽいので大丈夫ですッ!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 大勢のウマ娘が一斉に走り出す。それも限界に挑むリスキーなトレーニングですが、今回は貴方ひとりではなくスカウトされていったウマ娘たちのトレーナーも参加しているため安全対策にはかなりの余裕があります。

 間違いなく大切な愛バが台無しにされることを防ぐための監視役であると貴方は確信していますが、利用できるなら敵でも活用してこそ一流の悪役。給水の用意から応急手当の備えまで、存分にこき使わせてもらうことにしました。

 

 ついでに、走っている最中に頭から水を被りたくなるウマ娘も出てくるかもしれないな……と呟いたところ、整備スタッフの皆さんが「こんなこともあろうかとッ!」と威勢のいい掛け声でバケツと水桶を用意してくれています。

 さすがは中央トレセン学園の超一流スタッフ、クズトレーナーに酷使される運命にあるウマ娘たちを助けるための行動には一切の躊躇いが無いようです。

 

 

 

 

 

 

「と、とれ……とれぇ~なぁぁ……ターボ、もう、げん……かい、だもん……」

 

 開始からしばらく。案の定、最初に限界を迎えたのはツインターボでした。

 

 そりゃあラストスパートの勢いで一周すればスタミナ使い果たすわ。むしろよく帰ってこれたと感心して褒めてやりたいぐらいですが、追放を目指す悪役トレーナーとしての尊厳を守るためにはツインターボのようなウマ娘に欠片ほどでも好意を持たれるワケにはいきません。

 さすがに勢いのままターフに倒れたのでは危ないので、そこは貴方もちゃんと受け止めます。しかしここからが前代未聞の大悪党である貴方の真骨頂! 油断してニパッと笑うツインターボを抱き上げて──。

 

 

「……へ? ちょ、トレッ!? もぉぉぉぉんッ!?」

 

 

 そのままプールへ投げ込みましたッ! 

 

 とある怪盗三世の芸術的なダイブを参考に、チート能力をフル活用した物理演算により導きだした完璧な遠投は汚れた蹄鉄シューズだけが見事に脱げた状態での着水に成功します。

 そして再びターフへ振り返った貴方は、突然の出来事に驚き走る速度を緩めたウマ娘たちを見渡して不敵な笑みを浮かべています。限界を読み間違えれば、お前たちもこうなるぞと無言の圧力を添えて。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あはッ♪ キミは本当に自由なヒトだね~。なら、遠慮なく──トレーナーッ! レシーブよろしくッ! ヤッホォォォォッ!!」

 

「むむッ! シービーやるじゃんッ! トレーナーッ! ボクだってアレぐらいできるもんねッ! テイオージャァァァァンプッ!!」

 

「トレーナーちゃんッ! マヤも、テイクオーフッ!! きゃ~♪」

 

「トレーナーさん!? あの、私はまだ平気ですからその、いえ本当に大丈夫で──ウソでしょぉぉぉぉッ!?」

 

「あーっはっはっはッ! トレーナーに投げられて飛翔してもやはり美しいボォォォォクッ!!」

 

「ちょッ!? トレ公ッ!? いや、ヒシアマ姐さんはこの程度じゃへばらないからッ! その、待ってッ! 汗とか、だから──おわぁぁぁぁッ!?」

 

「オイ待てッ! 自分の限界ぐらい見極めて──テイオーが呼んでるからついでって、おまッ! ふざけッ!? テメェェェェッ!?」

 

「いや押すなしッ! フリじゃねーってばッ! ネイルは水に強いヤツやっとけってこういう意味とか、マジでワケわかんねーしッ! いやだからぁぁぁぁッ!?」

 

「待って、ちょっと待ってヘリオスッ! いや、ホラ、これでも一応メジロのウマ娘としてのアレとかコレがひゃぁぁぁぁッ!?」

 

「トレピィィィィッ!! ウェェェェェェェェイッ!!」

 

 

 取り引きした覚えの無い世紀末覇王や赫々たる天狼や波乱の逃げウマ娘が混ざっていたような気もしますが、最後の気力を振り絞りささやかな抵抗として空元気を演出しているウマ娘たちを貴方は予定どおり次々とプールへ投げ込みます。

 まさに現場は阿鼻叫喚! 最高速度や加速力という部分で限界まで体力も気力も削りながら走っていたウマ娘たちは、冷静にクールダウンへと移行していた者以外は全員がずぶ濡れになってしまいました。

 

 そしてターフには、持久力や観察力といった時間を使って限界を測る必要がある部分を鍛えたいウマ娘たちと、とにかく先輩ウマ娘たちよりも1秒でも長く走ることで自尊心を満たしたい新入生ウマ娘だけが残っています。

 さすがにその辺りをプールへ投げ込むのは難しいかもしれない。だが、それならそれでどうにか彼女たちを利用してヘイトコントロールができないものかと貴方はターフを走るウマ娘たちを観察していましたが──見事、なかなか都合の良さそうなウマ娘をひとり発見します。

 

 

 それはとある新入生ウマ娘のひとり。チート能力でステータスを覗き見れば、中央トレセン学園に入学するウマ娘にしては合格ラインのギリギリといったところ。

 

 

 そうだ、あのウマ娘を利用してやろう。すでに脚のほうは鈍っているものの、リタイアするタイミングを逃してターフから降りるに降りられずにいるあのウマ娘に罵詈雑言を浴びせてやればいい。

 健気に努力する者を上から目線で扱き下ろす。悪役としては古典的ではありますが、王道であるが故に万人向けのクズ指導者アピールが簡単に狙えるため、ほぼ100パーセント取り扱いを間違えることのない名案でしょう。

 

 

 その新入生ウマ娘の心がそれで折れてしまうのでは? ということだけが懸念材料かもしれませんが心配は無用というもの。

 何故なら追放のための悪役ムーヴで圧倒的かつ奇跡的な実績を誇る貴方が、その新入生ウマ娘の瞳の奥で燻っている灼熱の揺らめきを見逃すことなどあり得ないからです。

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