貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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みずもの。

 真面目な雰囲気の気配を完封したところで、貴方とシリウスシンボリの前にラーメンが置かれました。

 鶏ガラしょう油の良い意味でクラシカルなラーメンには、ネギとメンマ、そして味付けではない普通のゆで玉子の半身が乗っているだけ。飾り気も無く流行りとも無縁の実にシンプルな一杯です。

 

 貴方はそれを無言のままマイペースで楽しむだけ。

 

 そしてシリウスシンボリも案の定なにも喋りません。

 

 アウトローであっても善人であるシリウスシンボリと正真正銘の悪役トレーナーである自分との間では愉快な会話など産まれるワケがない。

 そう確信している貴方にはまったく気にならない静かな食事ですが、どうせならラーメン持って舎弟たちのテーブルに移動すればいいのにと思っているようです。

 

 表向きは悪役トレーナーとして巧くカモフラージュできている前提の貴方ですが、実はその裏側ではウマ娘たちを守護るためラーメンを楽しみながらも警戒網はまったく緩めていません。

 現在、半径20メートル以内は完全に貴方の射程距離。故に、テーブル席からこちらの様子を興味深そうにチラチラ見ている不良ウマ娘たちの視線にもバッチリ気づいていました。

 

 いくら思春期の子どもとはいえ、並んでラーメンを食べている程度のことで和解した、あるいは悪のトレーナーから改心したなどと勘違いされることはないだろう。

 このように冷静で的確な分析に大自信ニキである貴方は焦ることなく平常心のままラーメンを食べ進めます。

 

 仮にシリウスシンボリとの間に前向きな交流があるものと誤解されたとしても、今日までの悪役ムーヴにより追放エンディングへ繋がる架け橋は大妖怪ケセランパサランがその上を通過しても3日で修繕が完了するレベルで堅牢ですのでなにも問題はないでしょう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「そうそう、実は私も担当トレーナーが決まってな。アンタも知ってるんじゃないか? 評価Sの見た目だけは上品なバァさんの──あぁ、そう。その人だ。なんでも面倒見てたメジロドーベルの担当が見つかったあと、これからどうしようか考えてるときにブライアンを連れたジジィにしこたま煽られたんだと。で、そのジジィを完膚なきまでに叩きのめすためのパートナーを探していたらしいんだがなァ?」

 

 思い出すはエアグルーヴと取引を交わす前日の夜。上品な身なりでありながら愉快でお茶目さんな老婦人トレーナーのことは貴方もしっかり覚えています。

 真っ当かつ評価の高いあの老婦人トレーナーなら簡単に担当ウマ娘など見つかりそうなものですが、どうやらシリウスシンボリの話では高過ぎる評価が裏目に出ていたそうです。

 

 チート持ちであろうと転生者であろうと平凡な一般市民である貴方にはウマ娘側の気持ちも理解できるらしく、それはそうだろうと頷くしかありません。

 

「ファインお嬢様……いや、ファインモーションのトライアルで段取りを整えたのも含めて優秀すぎたのさ、あのバァさんは。仕方ないから私が引き受けてやったワケだ。ちょうど有象無象どもが群がってきて鬱陶しかったからな。ま、そういうことだから『勝負』は当分お預けだ。──なんて、言うと思ったか?」

 

 ニヤリと笑いながらシリウスシンボリが取り出したのは1枚のコイン。なるほど、あの老婦人の担当ウマ娘としてトレーニングに集中するためにも今後は賭け事を控え目にするつもりなのだなと感心した貴方は二つ返事で勝負を受けることにしました。

 

 

「そうだな……オモテが出れば私の勝ち。ウラが出たらアンタの勝ち。私が勝ったらそのときは“貸しひとつ”だ。月並みな提案だが、アンタが相手なら充分に意味があり価値がある『賞品』になる」

 

 つまりその貸しひとつを消費して自分を中央トレセン学園から排除するつもりだな! と、貴方は表面上だけ普段通りに取り繕いつつも心の中では勝利確定の4文字が勢いよく空の彼方へと飛び立っていきました。

 どうやら“これならチート能力はもちろん小手先の技術を使って介入するまでもない。なぜなら自分のようなウマ娘たちの青春を邪魔するような腐れ外道に運命が味方するはずがない”と貴方は確信しているようです。

 

 しかし、結果が確定したとしても勝負そのものが不成立となってしまったのでは意味がありません。別に欲しいものなどありませんが、なにか適当なモノを要求する必要があります。

 

 

 ──どうせなら、嫌がらせを含めてとびっきり面倒なヤツを押し付けてやるか。

 

 

 嫌がらせは実行しなくとも口にしただけで相手を不快にさせるもの。こうした細かいところでも油断なくヘイトを稼いでこそ一流の悪役であると貴方は攻めの姿勢を崩しません。

 せっかくグローバルなウマ娘であるシリウスシンボリが相手なのだし、海を渡って海外に行かなければ解決しないぐらい容赦のない面倒事を……というところまで考えたところで、貴方はウマ娘の世界ならではの観光地がひとつ在るじゃないかと思い出しました。

 

 それの写真でも要求してみるのも面白い。あえて小物などのわかりやすいお土産ではなく写真を撮影させることで、平凡な構図で撮ってきた場合に盛大なタメ息のひとつでも吐けばイライラも倍増して効果抜群というものです。

 

 

 貴方はさっそくシリウスシンボリに提案しました。もし俺が勝ったなら、そのときは。メイクデビューを果たし、トゥインクル・シリーズで充分に賞金を稼いだ暁には……ちょっとヨーロッパまで遊びに行って、ついでに凱旋門でも土産に撮ってきてくれよ、と。

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