貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
日本ダービー初勝利とか、初代クラシック三冠ウマ娘は誰なのかとか、ぶっちゃけ完全に忘れてます。
「ぐわぁぁぁぁ……ッ!! なんで、私は、あんな、ことをぉぉぉぉ……ッ!?」
「ライアンく~ん? いい加減に立ち直りたまえよ~。あれから何日経過したと思っているんだ~い?」
「普段真面目なだけに、ああいうマイクパフォーマンスをテンション任せにやるとはこのアイネスの目をもってしても見抜けなかったの」
貴方は自身が所有するチート能力が完全無欠にして最強の力であることを確信していますが、油断も慢心もしない転生者として日々の鍛練を怠ることはありません。
たとえ斬魔の領域にある銘刀であろうと使い手が未熟であればナマクラ以下の長ネギにも劣る。超一流の悪役トレーナーとしてチート能力を自由自在に扱えるよう自己を高め続ける必要があるのです。
と、いうワケで貴方の本日のお楽しみはルームにて菊花賞の映像を鑑賞し分析するという内容になりました。
すでに何度も見返している映像資料ではありますが、そこから得られる情報はまだまだたくさん残されていることでしょう。むしろ、ヒントを得られる限界とはすなわち鑑賞する側の分析能力の限界であると貴方は考えています。
取り引きをしているウマ娘たちの能力は千差万別。それぞれのトレーニングに有効活用するための情報もまったく違うモノが必要なワケですから、それぞれのウマ娘たちを成長させるために視点を変えればいくらでも新しい発見を手にすることができるのです。
案の定、貴方の意思とは無関係にミスターシービーやトウカイテイオーやマヤノトップガンやキングヘイローやスーパークリークやマチカネフクキタルやライスシャワーやトーセンジョーダンやゴールドシップやダイタクヘリオスやセイウンスカイやビワハヤヒデやエアシャカールなどのウマ娘たちがソファーや畳スペースなどで好き勝手にくつろぎながら同じモニターを眺めていますが、鍛練の邪魔になることもないので放置することにしたようです。
ちなみに、メジロライアンが頭を抱えて悶えているのは菊花賞に勝利後のウィナーズサークルのインタビューにて「最も強いウマ娘が勝利すると言われている菊花賞でメジロライアンが勝ったのは偶然などではない。春の天皇賞でそれを証明し、ファンにもライバルにも今日の結果は必然だったと納得させてみせる」といった内容の発言をしたことについて羞恥のキャパシティが耐えきれなかった結果によるものです。
あるお屋敷では一組の夫婦がメジロライアンの勝利宣言を聞き大喜びで秘蔵のシャンベルタンの封を切り日も沈まない明るいうちから品格を損なわない程度にテンション高めで祝杯を楽しんでいたりもしますが、そちらに関しては一切無関係である貴方のトレセン学園追放RTAのタイムに与える影響は無いものとして計算しておけば特に問題はないということにしておきましょう。
◇◇◇
「やはりクラシック三冠における最大の難関は菊花賞だろう。ダービーで圧勝したアイネス君が入着すらできなかったのだからな」
「最後に追い上げてきた連中の末脚がイカれてたのもあるだろ。ギアが落ちたアイネスだけじゃねぇ、好走してたタキオンでさえ4着で終わってンだ」
「う~ん、スタミナを温存しておいてラストスパートでズバッ! と引っこ抜いて1着っていうのもカッコいいんだけどな~。でも王道の先行で堂々と勝ってこそトウカイテイオー様の実力だって感じも出るし~」
「なるほどなるほど~? やっぱり長距離を逃げきるには色々と仕掛けが必要みたいですね~? バカ正直にスタミナ勝負したんじゃあ、スペちゃんやエルのほうが有利だろうし……さて、どすれば勝てるかにゃ~」
ウマ娘たちがそれぞれに思考を巡らせていますが、とりあえずアイネスフウジンが入着すらできなかった理由の真実については貴方はしっかりと把握しています。
長距離適応のためのトレーニングを仕上げるときに、アルバイト先でスタッフのひとりが家族の看病のために急遽休むことになってしまい、そのヘルプを引き受けたことで準備不足のままレース当日を迎えてしまったのです。
もちろんアイネスフウジン本人はそのことを理解していることでしょう。そして本来ならば正式に担当契約をしているトレーナーが激励する場面なのかもしれませんが、模範的悪役トレーナーである貴方がそんな手ぬるい対応などするはずがありません。
気まずそうに苦笑いをする彼女に対し「お前が敗けたのはお前自身の弱さのせいだ。ほかに理由など存在しない。反論したければ結果を出すことだな」と追い討ちをかけることでヘイトコントロールを完璧に遂行してあるのでご安心ください。
いつものように悪役ムーブが絶好調の貴方は、当然の権利のように菊花賞の話題で盛り上がるウマ娘たちから嫌われるための手段をすでに思いついている様子。
狙い目はどうやらクラシック三冠を目指すプランについて語るビワハヤヒデに定めたらしく、菊花賞を鬼門だとする彼女に向かってこう言いました。
ビワハヤヒデが菊花賞を勝つのは難しくない。だが、ウイニングチケットとナリタタイシンのふたりが同期として出走する以上、皐月賞と日本ダービーを勝てる可能性は恐ろしく低いだろう……と。