貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
妹であるナリタブライアンの暴力的なまでに力強い走りが未だにトレーナーたちの判断力に影響しているのかビワハヤヒデに声をかけるトレーナーがなかなか現れず、仕方なしの済し崩しで貴方がターフに同行しタイムの計測やドリンク類の準備やフォームの改善案提供や現時点での目標レースで勝利するための対策構築などのちょっとした手伝いをしなければならないという悲惨な状況にあります。
対してウイニングチケットとナリタタイシンはそうではありません。いつの間にか貴方の画期的悪役追放プランのひとつである“夜間トレーニング監督ごっこ”という恐ろしい取り引きの犠牲者の一部になっていましたが、現在ではそれぞれに真っ当で真っ直ぐな若き新人トレーナーたちと二人三脚でメイクデビューに向けてトレーニングに励んでいるからです。
そして担当しているトレーナーたちは若いだけあり柔軟な思考の持ち主なのでしょう。教科書通りのトレーニングを押し付けるのではなく、それぞれの持ち味を活かすためにはなにが必要なのか愛バと真摯に向き合ってクラシック三冠ウマ娘の称号獲得を目指している様子。
貴方は以前ウイニングチケットとナリタタイシンに「ホープフルステークスからシニア級の有マ記念までの適性距離のGⅠを全て勝とうとした場合たぶんこうなるんじゃないかな~」といった内容のトレーニング計画を戯れに1冊のノートにまとめてインスタントラーメンの調理中にでも流し読みしてみればいいと渡したことがありますが……そんな一晩で書き上げた適当なノートとは違うしっかりと使い込まれたモノを持ち歩いているぐらいには将来有望なトレーナーたちです。
彼らの所持しているノートのデザインが偶然にもウイニングチケットとナリタタイシンに渡した物と酷似しているなどという些細な違和感など万能チート能力を持つ貴方には関係のない話であり、いまはそんなことよりビワハヤヒデが単独出走でメイクデビューしてしまう可能性が高いことのほうが重要というもの。
とはいえ、ナリタブライアンの走りが目立つせいでビワハヤヒデの走りが過小評価されている……などと本人に伝えるワケにはいきません。
ナリタブライアンは純粋に勝負の世界を楽しんでいるだけであり、その姿に目を眩ませてビワハヤヒデの能力を見抜けないのはトレーナー側の能力の問題であると貴方は考えているからです。
そこまで考えた貴方は現状を打破するための簡単で効果的で実にウマ娘的な方法があることに気がつきます。
そうだ、下らない先入観のせいでビワハヤヒデの強さを理解できないのであれば、否応なしに理解できるような場を整えてやればいいじゃないか。
活躍するウマ娘が現れるたびに有識者や専門家を名乗る素人どもが御託を並べるが、ウマ娘にしろ人間にしろ本気になって取り組んだ物事は他人が言語化などできるワケがない。
なんといってもここは中央トレセン学園。さまざまな理由で勝負に挑むウマ娘たちが集い、そんなウマ娘たちの走る姿に魅了されたトレーナーたちが集う場所。
参加者を集めるための手段にしても、悪役トレーナーとして蓄積した手札を駆使すれば模擬レースのひとつやふたつなど容易く開催できることだろう。
あとは距離をどうするかという問題ですが、当然ながら菊花賞の距離を設定することはできません。以前ミスターシービーの菊花賞トレーニングのためにセルフ菊花賞を開催したことがありますが、アレは都合良く条件が揃っていたから可能でした。
長距離レースは単純にウマ娘たちの脚に大きな負担をかけてしまいます。普段から悪役トレーナーとして傍若無人な振る舞いをしていたにもかかわらずマチカネフクキタルやライスシャワーの調子が絶好調という幸運を引き寄せることができたのは奇跡も同然であり、そのようなご都合主義などそうそうあるものではない……と、貴方は考えているようです。
ならばビワハヤヒデに相応しい模擬レースの条件とはなにか? もちろん転生者である貴方は、それは『宝塚記念』であると瞬時に判断することができました。
ついでにサイレンススズカも一緒に走らせておけば気分転換もできて好都合というもの。担当トレーナーが見つかるまでと思い早朝5時開始のランニングに付き合っている貴方ですが、毎朝のように準備する音で起こされるのが少し……とスペシャルウィークに相談されていたので丁度いいかもしれません。
そうと決まれば善は急げ。宝塚記念が開催される阪神レース場を模した練習場は中央トレセン学園にも存在しますが、ウマ娘たちを娯楽目的の道具として扱っている自分に使用許可など出るはずがないと貴方は信じて疑っていません。
無いモノは作ればいい。勝手に縄張りとして悪用している第9練習場を阪神レース場と同じ条件に改造すれば万事解決。貴方は「コースを宝塚記念用に改造して勝手にグランプリ始めっぞオラァッ!!」と気合いを入れ、なんとなくその場の勢いでゴールドシップとマーベラスサンデーを担いでルームを飛び出しました。