貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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答え合わせの時間。


『未知なる道』

「すまないチケゾー。お前と一緒に必ずダービーを勝つって大口を叩いていたクセに……先輩が相手だからって、ほんの少しでも“もしも勝てなくても”なんて考えちまった……ッ! だがッ! オレはもう迷わないし、臆さないぞッ! チケゾーッ!! この模擬レース、勝つのはオレたちだッ!!」

 

「ト、トレーナーさん……ッ! そうだよねッ! みんな勝ちたくて、勝つためにたくさんトレーニングしてるんだもんッ! どんなレースだって本気で勝つために走らなきゃダメだよね……ッ! うぉぉぉぉッ!! 燃えてきたぁぁぁぁッ!! うんッ! このレースをォッ! 勝つのはアタシたちだぁッ!!」

 

 

「暑苦しい……。ま、チケットらしいと言えばらしいけど。アイツのことだから、負けても熱い勝負ができたから~とか言ってニコニコ笑ってそうだったけど」

 

「たとえ本人に悪気がなくても、負けたことをアッサリ認めるのはライバルとしては面白くないかい?」

 

「そりゃあ、ね。さすが、それと似たようなコト言って叱られてただけあって察しがいいじゃん」

 

「それについては本当にすまなかった。あんな不甲斐ない姿は2度と見せないって約束するよ。ナリタタイシンは強いだけじゃない、勝てるウマ娘だって堂々と宣言してみせるさ」

 

「コッチもコッチで暑苦しい……。別にいいけど」

 

 

 中央だけではない、トレセン学園なら日本各地はもちろん世界中のどこでも毎日のように当たり前に行われている模擬レース。

 しかしそれに参加するために筋肉をほぐして暖気運転を始めているウマ娘たちの瞳は、これから重賞レースに挑むかの如く熱と輝きに満ちていた。

 

 いや、正確に表現するならばそれは『怒り』に近い感情なのかもしれない。

 この場を用意した名物にして迷物トレーナーである彼が放った露骨な挑発を前にして滾らないようではトゥインクル・シリーズでライバルたちと競い合うことなどできないだろう。

 

 

 もっとも、挑発のための燃料にされたサイレンススズカ本人は周囲の変化など気にした様子はないのだが。

 それは別に彼女が他者からの視線に特別鈍いというワケではなく『そういう生き物』として認識されているためヘイトが向かないというだけの話である。

 

 

「おーおー元気なこって。さすがはウマ娘、模擬レースでも気合いは充分ってかぁ? よかったなハヤヒデ、これなら勝利の方程式を組み立てるための下準備にゃ困らねぇだろ」

 

「そのためにレース場を改造して、集まったウマ娘たちをわざわざ焚き付けるトレーナーなんてキミぐらいなものだろう。しかし……いいのか? いや、こうして環境を整えてくれるのはありがたいのだが、キミの見立てでは私は晩成型なのだろう? その」

 

「そうだな。ほかの連中、特に早熟型に近いチケットとタイシンとは相性が悪いだろう。いやホント、本格化の進行とアスリートとしての身体能力がイコールじゃねぇのはなかなか()()()()()だなと感心してるよ」

 

「フフッ……面白い、とは。なんとも頼もしい言葉を聞かせてくれるじゃないか」

 

 彼のルームに出入りするウマ娘の中では比較的新顔であるビワハヤヒデだが、強がりでも見栄でもなく本心から楽しんでいることは探るまでもなく読み取れる。

 それを不真面目、あるいは不謹慎として指摘する者もいることだろう。事実、ウマ娘のトレーナーという職業を名誉であると考える大人たちや中央トレセン学園に所属してトゥインクル・シリーズに挑むことを誇りとする学生たちの中には彼の勤務態度を否定的に評価している者はそれなりにいるのだ。

 

 

 とりあえずコックコートにトレーナーバッジをつけてコースに立ってるのだから勤務態度について反論する余地は無い。それはチーム・ポラリスの一員として黒のジャージを羽織っているウマ娘が全員同意する事実である。

 外部からカメラなどのメディアがやってくる式典やイベントのときはまともな服装であったり、そもそもルームに引きこもっているあたり、自分の立ち振舞いに問題があると自覚した上で好き勝手なことをしているのは明白なのだから嫌う者がいるのも当然だろう。

 

 それは現在こうしてアドバイスを受けているビワハヤヒデも同様で、以前の彼に対する評価は決して好ましいモノではなかったが──。

 

「面白ェさ。先人の知恵に倣うのも、試行錯誤の果てに組まれたテンプレに頼るのもトレーナーとして正しい姿なのは確かだよ。だが」

 

「せっかく冒険をするなら足跡の無い道を選んだほうが楽しめる、だろう? そして高山や海底、あるいは秘境に挑む者たちは無謀に見えて誰よりもリスクを恐れることができる……だったかな」

 

 それは友人にしてライバルであるふたりに誘われ試しに夜間練習に参加して、どうしても無難なトレーニングプランしか考えることができないとこぼしたときに言われたセリフであった。

 

 話してみないとわからないことがある。外から見ているときには、いくらウマ娘側が望んだからといって無茶なマネを了承するなどトレーナーとしてどうなのか? 本来ならば抑止する立場であるべきではないのか? などと考えていた。

 だがそれは──乱暴な言い方をするならば“その考え方は部外者による余計なお世話でしかない”と知るまでにそう時間は必要としなかった。夢のために、必要だから、危険を承知で。そして全ての責任は自分のモノであると堂々とした態度を崩さないトレーナーがいるのだからウマ娘たちが加減や遠慮などするワケがないのだ。

 

 

 そして、もうひとつ。彼のスタンスは“必要ならば無茶でも認める”というだけで、必要ないのであれば真逆のプランでも良いのであって。

 

 

「なに、オマエまで同じほうを向いて走るこたぁない。なにせオマエは『ビワハヤヒデ』なんだからな。教科書通りの普通の走り方しかできないのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それができないから誰も彼もが苦労するのだろうに……と、そう思いつつもその言葉をビワハヤヒデが口にすることはない。

 なにせ目の前にいる男性はどんなウマ娘のどんな走り方でも全肯定する良くも悪くも感性が歪んでいるトレーナーである、苦労を苦労と認識してくれることを期待するだけ無駄だからだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 主催者直々の「やっぱグランプリつったらオペラオーだべ」というご指名によりキレのあるポージングでテイエムオペラオーが出したスタートの合図で始まった模擬レース。

 参加するウマ娘はもちろん観戦している者たちも予想していた通り、まずはサイレンススズカが先頭を駆け出した。かつては目立ちたがり屋の一発芸と言われていた、しかし現在では追う者たちにある種の恐怖を抱かせる『大逃げ』の走りである。

 

 

(後ろに張り付くのは諦めた、か。ま、そりゃそうだ。加減が完璧なバカに鍛えられた加減を知らないバカの走りに真面目に付き合ってなんかられないって)

 

 追い込みの位置からじっくり全体を観察していたナリタタイシンは、サイレンススズカの後ろに位置取りを試みたものの数秒ほどで諦めてペースを落としたウマ娘たちを見て呆れたように微笑んでいた。

 気持ちは理解できる。速いウマ娘が前にいる、そのプレッシャーに耐えながら自分の走り方を冷静に続けるのが難しいのは『差し』や『追込』の脚質を持つ者ならば誰だって知っている。

 

 もっとも──何処かのバカに「お前は最後の直線だけレースしとけば勝てるから」と言われてからは、ナリタタイシンは無理に競り合いにいかずとも平常心を保てるようになったのだが。

 

 一瞬だけ、担当トレーナーと目が合う。

 

 新しい、自分だけのスタイルの試行錯誤は楽しいが……ただでさえ小柄な体格で不利だというのに、走り方に癖が付けばスカウトとは無縁のままメイクデビューを走ることになると思っていた。

 しかしどうやら物好きなトレーナーとやらは自分が想像していたよりも大勢いるらしい。あるいは、この模擬レースに担当ウマ娘を参加させているトレーナーたちは大なり小なりあの男の影響を受けた──その背中を追いかけてみたいと道を踏み外したのかもしれない。

 

 まぁ、なんにせよ。勝てるウマ娘だと本気で信じてくれるトレーナーと無事担当契約できたのだ、ささやかな恩返しの意味も含めて1着になるところを見せてやろうじゃないか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

(さて、なかなか厳しいレースになりそうだな。トレーナー君の言っていた条件がただのハッタリではないのがよくわかる。スズカ君の大逃げ……外から見ているだけとは大違いだ)

 

 観察し、判断し、組み直し、実行する。

 

 データはもちろん集めていたし、実際に同じレースで勝負をすることを想定したプランも複数用意してある。性格的な問題からリスクの高い選択肢を選ぶことができない自覚があるからこそ、リスクを最大限に潰すための努力を怠ったことなどない。

 それでも。どれだけ可能性を考慮してプランを組み立てても、リアルタイムで変化するレース運びを全て予測するなど不可能である。ならばどうするか? 答えは至って単純、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 故に、勝利の方程式。どのような状況でも1着という答えを導くことができる、理屈屋の自分だからこそ使いこなせる万能ツール。

 

(ある意味、これはこれで楽な作業なのだが。スズカ君もそうだが、皆それほど臨機応変な走りなどできないからな……)

 

 ポラリスのメンバーにはタマモクロスやマヤノトップガンなど自由な位置取りで走れるウマ娘は何人かいるし、アグネスデジタルあたりはターフとダートの両方に連れ出されているようだが……大半のウマ娘は、自分に適したスタイルを徹底的に磨くパターンが多い。

 つまり、ライバルたちが隠している切り札がなんなのかを見抜いてしまえば、あとはそれらを方程式にはめ込んでしまえばいいだけ──などとサラッと言われたときには軽く目眩がしたものだが、すでに充分なデータが存在しているのに『できるワケがない』と諦めるほどビワハヤヒデは退屈なウマ娘ではなかった。

 

 

 なにより、ほかのウマ娘たちにそうするように『お前ならそれぐらいのことはできる』と自信満々に言われたのに引き下がるようではウマ娘としてのプライドに関わってくる。

 

 

(問題は、未完成の方程式でどこまで勝利に近づけるのか。そもそも私の思考速度がレース展開に本当に追いつけるのか。まだまだ解決しなければならない課題が山積みだが……ここはひとつ、私を信じるトレーナー君を信じるとしようッ!!)

 

 リスクを嫌うビワハヤヒデだが、自分のためにレース場まで改造してみせたトレーナーの言葉を疑うほど薄情者でもなければ臆病者でもない。

 勝利の方程式を証明するよりも先に、まずはビワハヤヒデが強いウマ娘だと断言してくれたことが間違いでないと証明するために。

 

 ターフを蹴る力に、意志の力が宿り。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉッ!! 燃えてきたぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『え゛』』』』

 

 

「チケットッ! 前に出過ぎ──いやッ! そうじゃないッ! 担当ウマ娘の力を信じるのもトレーナーの役目だろうがッ! がんばれチケットォォォォッ!! オマエがナンバーワンになるんだぁぁぁぁッ!!」

 

 

「おやおや……。トレーナーくん、アレ、大丈夫なのかい? 彼女の脚質は『差し』がメインなのだろう? スズカ君の大逃げと競り合うのは怪我のリスクを考えるのであれば、あまり好ましくないと思うのだがねぇ」

 

「うん、まぁ……うん。俺の見立てでは怪我する可能性はゼロだから……。いや、マジかぁ。なぁタキオン、もしもチケットの勝負服が完成したとして、それ着てテスト受けたらアイツ満点とるぞって言ったら信じるか?」

 

「…………。…………。…………驚きの、ウマ娘の神秘だねぇ」

 

「ま、まぁ、掛かりまくってはいるけど、チケットは先行もいけるから……その、ギリギリ大丈夫と言えなくも……うん。これビワハヤヒデ含めて取引中のウマ娘、トレーニングプラン組み直さないとダメかもなぁ……」

 

 

 燃え上がるテンションに背中を押されて前に出たウイニングチケット、そして想定外の競り合いにますます速度を上げるサイレンススズカ。

 このままでは様子見している間にふたりがゴール板を通り過ぎてしまうと否応なしに加速させられるビワハヤヒデとナリタタイシンを含む模擬レース参加中のウマ娘たち。

 

 本来であればレース展開がメチャクチャであると頭を抱える場面だが、観戦しているウマ娘たちはもちろん、若手トレーナーたちもベテラントレーナーたちもお構い無しに声援を送り続けている。

 この程度のハプニングで驚くようではこれから先のトゥインクル・シリーズで生き残れない、彼ら彼女らの中にはそうした意識が芽生えているのだ。

 

 そして、そんな様子を満足そうに見守りながら理事長である秋川やよいは……にやける口もとを扇子で隠すのであった。




BNWでミックスデルタを使うなら、ハヤヒデが『天』でタイシンが『水』でチケットが『火』でしょうか。エフェクトでいえばダークエターナルのほうが好きですけど。


続きは雪見だいふくをココアに浮かべる準備が整ったら、次の登場ウマ娘はメジロブライト等になります。
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