貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ふわぁ。

 コーヒーや紅茶などのオシャレな飲み物を提供するのは悪手であると判断した貴方は梅昆布茶を差し出すことでテクニカルに牽制しつつ何事を悩んでいるのか話すように促します。

 とはいえ、前世の記憶によりアプリの知識を持つ貴方にしてみればドーベルトレーナーの悩みなどお見通しですし、その解決方法についても心当たりがあります。

 

 案の定、という表現は真面目に悩んでいる相手に対して無礼千万なのは貴方も重々承知していることなのですが……やはり、メジロドーベルが他者の視線を気にしてしまい実力を充分に発揮できないことについて悩んでいるようです。

 

 加えて、この世界ではメジロライアンが菊花賞ウマ娘の称号を手にして春の天皇賞に向けて勝利宣言をしたことも影響している様子。

 

 ほかのメジロのウマ娘たち──メジロパーマー、メジロアルダン、メジロマックイーン、そして貴方の横で梅昆布茶とザラメ煎餅による甘さとしょっぱさの無限螺旋に心奪われているメジロブライトもまた、ステイヤーとしての適性を持っています。

 どうやらそれらの事情がよくわからない具合に絡み合った結果、メジロドーベルにはクラシック三冠ウマ娘の可能性という期待の眼差しを向けられるようになってしまったとのこと。

 

 

「ドーベル……まさかそんなことになってたなんて──うん? いや、その、私けっこう皐月もダービーもしっかり負けたはずなんですけど。ギリギリとかじゃなくて、アイネスにもタキオンにも普通に負けてて」

 

「う~ん……トレーナーく~ん……すき焼き味のわたあめはジンギスカン味のキャラメルに匹敵する甘味への冒涜でぇ……ふぇ? いま、誰か呼んだかい?」

 

「誰も呼んでないからそのまま夢の世界に戻って大丈夫なの」

 

「あはは……。いや、だからこそなんだと思う。非常にありがたいことに名門出身のエリートな先輩方にも色々と励ましのお言葉も頂戴していてね。ライアンが菊花賞を勝てたなら──オレが先生の指導を受けていたことと、秘蔵っ子として見られていたメジロ家のウマ娘のコンビなら、クラシック三冠だって取れるに決まっているってね」

 

「あぁ……そういう……」

 

 

 メジロドーベルの脚質ならばクラシック三冠よりもトリプルティアラを目指すべきなのでは? そんな疑問を抱きつつも、貴方はドーベルトレーナーが自分の敵対者として期待できる実力を持っていることを知れてウキウキ気分です。

 しかも話を聞けば名門出身のエリートトレーナーである先輩たちからも将来性を認められているとのこと。ルドルフトレーナーに次ぐ三冠ウマ娘トレーナー候補として注目されているとなれば、ドーベルトレーナーもまた優秀な正義感溢れるトレーナーたちの旗印として活躍してくれるかもしれません。

 

 そして同時に貴方はドーベルトレーナーが隠していた真意に気づきます。彼の目的は悩み事の相談などではないことに。

 

 

 

 

 ──この俺に、心理戦を挑むとはな。

 

 

 

 

 表面上は後輩らしく下手に出ているように見せかけて……その実は充分な後ろ楯を得ていることを示唆しつつ、自分を打ち倒すための準備は整いつつあるという宣戦布告を叩きつけることが目的に違いない。

 チート能力で実体化した毛布にくるまってソファーの上で寝惚けているアグネスタキオンとニコニコしながらザラメ煎餅を食べ続けているメジロブライト以外のウマ娘たちが一斉に己に注目したのも、とうとう年貢の納め時がきたようだなと哀れみの感情を向けているのだろう。

 

 してやられた、と。まんまと騙されてしまったことを反省しつつも、万能なチート能力を持つだけの紛い物では本物のトレーナーを出し抜くことなど不可能であると思い知らされた貴方は素直に喜んでいます。

 

 考えてみれば彼の悩み相談が巧妙な偽装であることなど簡単に見抜けたはずでした。何故なら貴方の中では“ウマ娘を支えたいと心の中で思ったのならそのときすでに覚悟は完了している”のがトレーナーという生き物であると定義されているからです。

 まして、担当トレーナーである彼は世界中の誰よりも──それこそメジロドーベル本人よりもメジロドーベルが強いウマ娘であるという事実を知っていて当たり前なのですから、己が果たすべき役目について迷いや揺らぎを抱くなどあり得ないと貴方は確信しています。

 

 

 

 

 ──小癪な真似をしてくれる。

 

 

 

 

 おそらくですが、メジロドーベルが周囲の視線に参っていることは事実なのでしょう。そしてメジロブライトが貴方のルームまで彼を案内したのも狙ったのではなく本当に偶然なのかもしれません。

 しかしドーベルトレーナーはそんなアクシデントを逆手に取って、こうして自分に圧力をかけにきました。状況に対応し有利に事を運ぼうとするその判断力と才覚は、チート転生者である貴方も認めるしかなく笑みがこぼれるのを我慢することができないようです。

 

 

 よろしい。ならば悪役トレーナーとして、望み通り吐き気を催す邪悪というものを思い知らせてやろう。貴様らが打倒すべき敵の正体をその目に焼きつけるがいい。

 

 

 貴方はドーベルトレーナーへ「お前の悩みが解決する保証はないが」と前置きをした上で、近々開催される模擬レースにメジロブライトが参加するので見学にくるように伝えました。

 当然ドーベルトレーナーは貴方の悪意ある誘いに対して警戒の姿勢を見せますが、ここで敢えて“強制はしないから好きにすればいい”と選択権を与えることで逃げ道を塞ぐことにしたようです。

 

 苦虫を噛み潰したような表情でこちらを睨むドーベルトレーナーに対し、これが心理戦の妙味であり駆け引きというものだと貴方は強者の余裕を見せつけるのでした。

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