貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
天気快晴良バ場、中央トレセン学園模擬レース距離2000。参加するウマ娘は中等部を中心に12名であり、もちろんその中のひとりがメジロブライトなのですが……ざっとステータスを確認した限りでは、メジロブライトが勝てる可能性はほぼゼロであると貴方は予測しています。
なんなら入着することすら難しいぐらいですが、それも全ては予測の範疇でしかありません。なので貴方はメジロブライトへ今回の模擬レースでクリアすべき課題は『10着以内』であると伝えてあります。気持ち的に前に出たがるメイクデビュー前ウマ娘の中でも特筆に値するほど珍しいスロースターターである彼女には手頃な目標であると言えるでしょう。
そして肝心の貴方はどこから模擬レースを観戦しているかというと、いつもの壁際ではなく最前列で堂々と腕を組んで仁王立ちして眺めていました。
貴方の悪名はトレセン学園に知らぬ者無しと言えるほど広まっていますので、それはもう悪目立ちしまくっている状態になっています。
ウマ娘もトレーナーも至るところでひそひそ話に花を咲かせていますが、聞き耳を立てるまでもなくアンチ的発言で盛り上がっていることだろうと貴方はとても上機嫌です。
メジロブライトに施した細工も抜かりなく、ひとりだけトレセン学園のジャージではなく貴方が着用している物と同じデザインの黒ジャージ姿をしています。
いずれ花咲くのは間違いなしとはいえ、いまはまだ才能の片鱗すら見せていない状態。この模擬レースで好成績を残すことが難しいことを利用し“アイツのせいでメジロブライトは苦戦しているに違いない”という印象を強く刷り込むという目論見なのでしょう。
「ブライト~ッ! がんばれ~ッ!」
「落ち着いて──は違うか。えーと、え~と? 急かすのは差しだからそれも違うし、あれ? でも仕掛けるタイミングが遅すぎたら……う~ん?? と、とにかく頑張ってッ!」
貴方の隣で元気に両手をブンブン振っているツインターボと何故かぎこちない様子で声援を送るメジロライアンに背中を押されて、メジロブライトは勢いよくゲートから駆け出して──などということはなく、しっかり出遅れて最後尾からのスタートになりました。
とはいえ、あくまでスタートダッシュに必要な瞬発力が差し・追込向けに特化しているというだけというのがメジロブライトに対する貴方の評価であり、逃げや先行のウマ娘たちの速度に惑わされないのはスタミナの無駄遣いを防ぐという意味でも長所であると考えています。
ならば、スタミナの使いどころさえ上手にコントロールできれば勝機は……いまはまだ雀の涙ほどですが上昇させることができるでしょう。
そのためにもまずは貴方が指示を出すことで体験させる必要がありますが、レース中のウマ娘へ指示を出すとなれば当たり前ですが大きく声を張り上げなければなりません。
それこそが貴方の狙い目でした! 担当でもない外野も同然の身分でほかのトレーナーたちを押し退けるように最前列に位置取り好き勝手な言葉をレース中のウマ娘へ投げ掛ける──中央トレセン学園の模擬レースの最中というTPOを考えれば、まさにき◯この山とたけ◯この里の中身を勝手にすり替える行為に値する悪行そのものです!
仕事には手をつけず、責任は果たさず、給料だけはしっかりと受け取り、しかも野次ウマ根性丸出しで模擬レースに嘴を挟むという非常識極まった態度。
まともな感性を持つトレーナーであれば怒髪天を衝くレベルの悪役ムーヴ、これならばレース場のどこかにいるであろうドーベルトレーナーも己が愛バを守護るためにも義憤を抱き決意を新たにしていることだろうと貴方はニヤニヤが止まりません。
◇◇◇
「ブライトおめでと~ッ! 目標達成だもんッ! まぁ、ターボもたくさん一緒に練習したからな! この調子でメイクデビューまでには1着をとれるようガンバるぞッ!」
「そうですわね~。ターボさまやウララさま、それにほかの皆さまにもたくさん併走していただいておりますから~、いつかは1着をとれるように頑張りますわ~」
無事目標である10着になれて喜ぶメジロブライトとツインターボ。まさかヘイトコントロールに利用されているとも知らずに無邪気で哀れみすら覚えると、貴方は悪役としての自尊心が胸から溢れんばかりといった様子。
結果が奮わず悔しい想いが表情に出ているウマ娘たちもいる中でこの緊張感の無さ。それを当然のものとして肯定しやる気の無いヘラヘラした態度で褒める最低評価のトレーナー。
それを間近で目の当たりにして苦笑い程度に感情を制御しているメジロライアンの精神力の高さは称賛に値するものであり、これならば春の天皇賞で勝負することになるライバルたちとも互角以上の戦いができるだろう……と、楽しみが増えた貴方の心は春模様です。
さぁ、あとはさも勝者の如くゆるりと余裕の態度で帰るだけ──と言ったタイミングで。
「おいおい、アレが名門メジロのウマ娘だって? 一般の運動会やってんじゃないんだぞ? あのトレーナーはなにやってんだよ」
それはまさに貴方がいま一番欲しかった言葉でしょう! やはり常に勝利と成功だけを考えて綿密な計画のもとに行動しているだけあって、今回も望み通りに周囲の感情を支配できたようですね! もしかしたら貴方には緊急的に休息が必要な可能性が出てきました!
とはいえ、そこは心身ともに優れた中央トレセン学園のトレーナーたちと言ったところか、貴方を正当に評価しただけである若いトレーナーを嗜めるように動いている者が数人ほど確認できます。
しかし若手トレーナーもそう簡単には自身の正当性を曲げたりはしない強い心を持っているようです。中央トレセン学園に所属する者はトレーナーもウマ娘も大勢の希望者の中から選ばれたエリートであり、それに見合うだけの実力と結果を示すのは義務であると正論でベテランたちを黙らせています。
結構なことだ。かれもまた悪役トレーナーである自分を追放してくれる英雄候補として申し分無いと微笑みすら浮かべていた貴方でした……が。
「そもそもなんだよあのスロー過ぎる展開は。長距離走ってんじゃないんだぞ? ったく、いくらトレーナー側が一流だとしてもウマ娘どもがこの程度じゃあな。こんな模擬レースなんか見るだけ時間の無駄だったぜ」
さすがの悪役トレーナーである貴方もこのセリフを見過ごすワケにはいかない様子。自分への暴言はいくらでも許すことはできますが、ウマ娘たちの努力そのものを否定するような発言は若手の跳ねっ返りだからと許容できるラインを越えているようです。
周囲のトレーナーたちもやんちゃが過ぎる若いトレーナーを止めようとしているものの、いまひとつ動きが鈍いのはウマ娘たちが大勢いる前で乱暴な言動を見せるのは指導者としてどうなのかと躊躇っているからでしょう。
よろしい。ならばここは悪役トレーナーである自分が動いてやろうじゃないか。
周囲の評判を一切気にする必要がないという無敵の前提条件を持つ貴方は、得意気な若手トレーナーを超暴力的な意志を含めた眼光で容赦無く射貫きました。
久しぶりで少々加減を間違えてしまったのか、レース場全体が静まり返り、若手トレーナーも情けない悲鳴をあげてへたりこんでしまいましたが、悪役らしい乱暴な姿を見せることができた貴方はウマ娘たちを連れて悠々とレース場を立ち去りました。