貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
私はマーベラスサンデーに一票ですかね。
孤高の悪役トレーナーである貴方には一切関係の無い話ではありますが、真面目に活動しているトレーナーたちの中には担当ウマ娘だけではなく後輩トレーナーたちを導くことにも積極的な者の姿も少なくはありません。
つい先ほども、貴方の夜間練習に参加していたウマ娘たちを複数人スカウトしていった評価Cの中年男性トレーナーが、若手のトレーナーふたりから指導を頼まれて引き受けていました。
彼は決して戦績のほうは優秀ではありませんが、チート転生者である貴方の洞察力はそのような上辺だけの情報で誤魔化すことは不可能です。
例えるのであれば、彼は静かに燃える熱血漢という評価が適切だと貴方は考えているようです。どこか飄々とした立ち振舞いでありながら、その胸の内に灼熱の輝きがしっかり宿っていることはウマ娘たちにも若手トレーナーたちにも見抜かれていることでしょう。
それは彼に弟子入りを頼み込んでいた若手のトレーナーたちが、男女どちらも名門と言われるような流派の出身者であることからも明らかです。兄弟子や姉弟子といった身内ではなく、担当しているウマ娘たちの走りに感動したという理由で中年トレーナーの指導を受けたいと頭を下げていたことから若手トレーナーたちの本気の度合いが読み取れます。
これでまた己のような悪役トレーナーと取引中のウマ娘たちの中から救済される者が出てくるのだなと貴方は身を隠していた木の上でひとりほくそ笑みを浮かべていました。
レースの格付けは所詮部外者が定めたモノに過ぎず、勝敗とはただの結果でありそれ以上でもそれ以下でもない。ならばトレーナーの役目とは、コースの上をどれだけの輝きで満たせるかに意味があり価値がある。
真面目に仕事をするつもりがなく、そのような気楽な考えを持つ貴方からしてみれば、実績など関係なく担当ウマ娘たちから煌めきを引き出している中年男性トレーナーは間違いなく一流の中の一流。そしてそれを見抜き指導を願う若手ふたりもまた一流トレーナーとしての一歩を踏み出していると評価できるのでしょう。
名門出身の若手たちに先生と呼ばれた男性トレーナーは、自分がGⅠレースで担当ウマ娘を活躍させられていないことや、そもそもの勝率が低いことなどを理由に断ろうとしていましたが……それを承知の上で男性トレーナーが育てたウマ娘たちの走りに魅了されたのだと力説されたのでは折れるしかなかった様子。
男性トレーナーは了承したあとも渋々といった態度が続いていましたが、貴方に言わせるならば当然の帰結としか言いようがありません。どれほど己を偽ろうとも根底に揺るがぬ信念が存在するならば、やはり似たような強い意志を持つ者には容易く見破られるに決まっているからです。
これが常人とチート転生者の違い。刹那ほどの隙間も見せることなく悪役トレーナーとして活動している自分ならば簡単に断ってみせたところだが、その場の思いつきだけで否定的な態度を見せるしかなかった男性トレーナーでは所詮その程度。
結局のところ彼は後輩トレーナーたちを導かずにはいられないのだろうと、貴方は通りすがりのミスターシービーからの「さてはまたなにか面白いこと見つけたな?」といった様子で見上げる視線も気にせず木の上でニヤニヤしています。
◇◇◇
学生とはひと味違う若手トレーナーたちのアオハルぶりを堪能した貴方ですが、今日は珍しくもまともな用事があるために勝手に縄張りとして活用している第9レース場に向かっています。
労働意欲が皆無である貴方は詳しい事情を把握していませんが、一部のトレーナーたちからウマ娘たちの自主練習のために第9レース場を使わせてほしいと頼まれているためです。
悪役トレーナーとしては断るのが正解──というのはあまりにも浅はかな考えです。自主練習ということは担当トレーナーたちは同行しないということであり、その場合トラブルが起きれば全ての責任は監督者である貴方が引き受けることになるでしょう。
そもそも第9レース場の所有権は学園にあることを忘れるほど貴方は自惚れてはいません。意味もなくルールを無視するのは悪役ではなく単なる愚者であり、ルールを理解した上で意図的に破ってこそ悪の美学であると考えているようです。
唯一危惧するべきは、自主練習に励むウマ娘たちの監督を引き受けてしまったことによりプラス評価が発生してしまうことですが……日頃の行いがこの程度で帳消しになることなどあり得ないと貴方は全く気にしていません。
仮に多少のプラス評価を押しつけられたとしても大丈夫! 貴方の比類する必要が無い叡知を以てすれば失ったヘイトを再び稼ぐことなど豆乳の角に頭を叩きつけるように容易いことだからです!
さすがに怪我だけは注意する必要がありますが、ノーリスクでヘイトコントロールができる絶好の機会です。本日もしっかりとウマ娘たちと溝を深めていきましょう。