貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
ウマ娘とは、トレセン学園の生徒とはアスリートでもあります。つまりは激しいトレーニングを行うことも彼女たちにとっては当たり前のことであり、どれだけ安全面に配慮したところで細かなキズ等が生じるのは防ぎようがありません。
それは貴方も承知していることではあるのですが……それはそれとして、サンドバッグを吊るした特製コースを嬉々として走るウマ娘が多いのはさすがにどうなのかと首をかしげたくなる気持ちは別物なのでしょう。
学園関係者から『おやっさん』の愛称で呼ばれている年配の整備スタッフとエアシャカールが嬉々として改造を施していたサンドバッグの群れは、特にレース中に混雑が起こりやすい先行と差しを得意とするウマ娘たちに大好評といったところ。
混戦から抜け出して充分な加速と共にラストスパートに挑むために必要な技術が身につく、という理屈はもちろん貴方も理解しています。
ですがそれはそれとして、ウマ娘たちがターフでもダートでも景気よくコースの外へ弾かれる光景を見ていると「お前らもっと普通のトレーニングやれよ」とうっかり口出ししそうになるのも仕方のないことかもしれません。
ほっぺたに芝の破片や砂粒をつけたまま、擦り傷に絆創膏をペタリと張り付けて脚質が近い者同士で意見交換をしている姿は『年頃の乙女』よりは『空き地で遊ぶヤンチャ坊主』といった雰囲気であると貴方が微笑ましくウマ娘たちを見守っていると、ひとりの新人女性トレーナーが近づいてきました。
初めましてと丁寧に頭を下げて挨拶をする姿は周囲の目には好印象に映ることでしょう。
しかしその程度の振る舞いで貴方の気配察知能力を欺くことなど不可能というもの。悪意とは別物ですが、明確な敵対心のようなモノを腹の底に潜ませていることなどお見通しなのです。
悪役トレーナーといえど疎かにしてはならないと挨拶だけは真面目に応え、ひと言ふた言のテンプレートめいた会話を済ませると、貴方はさっそく新人女性トレーナーに本命の用向きがなんなのか尋ねました。
「では、単刀直入に申し上げます。トウカイテイオーとマヤノトップガン、このふたりのウマ娘をスカウトにきました。別に先輩と担当契約しているワケではないのですから、もちろん問題なんてありませんよね?」
いまの貴方の心情を表現するなら「この瞬間を待っていたんだッ!!」といったところでしょう。どちらも類稀なる才能の持ち主でありながら、どういうワケなのか誰ひとりとしてスカウトに動いたトレーナーがいませんでした。
一応、貴方も取り引き相手であることから最低限のケアは行っていると自負している様子。トレーニングの手伝いのほか、ゲームセンターやボードゲームカフェに同行したりルームに置く小物やソファーカバーを一緒に買いにいったり尻尾のケア用品の専門店まで車を出したりたまにはカフェテリアのにんじんハンバーグとは違うお洒落なものを食べてみたいという要望を聞きつけたスイープトウショウとビコーペガサスもオマケで引き連れ隠れ家的洋食屋さんにてマスターの「こんな素敵なレディが4人もいらっしゃったのでは、いつも以上に気が抜けませんな」という言葉に「よろしく頼みます、なにせコイツらは未来のGⅠウマ娘ですから」と軽い調子で答えてみたりと雀の涙ほどには面倒を見ているつもりになっています。
それが今日からは担当トレーナーによる丁寧な指導を受けることができるようになるのかと、貴方はトウカイテイオーとマヤノトップガンがターフの上で活躍する姿を想像するだけでワクワクが止まりません。
ついでに匂いにも気を遣っているところがポイント高めといったところ。新人トレーナーの中には中央トレセン学園に勤務できるという名誉にちょっぴり浮かれてしまったのか、前日に嗜んだお酒やタバコの残り香を漂わせている者がいたりいなかったりします。
しかし、この新人女性トレーナーからはそうしたウマ娘たちのストレスに繋がるような類いの匂いは一切しないのです。
ちなみに貴方からはルームに出入りしているとあるウマ娘から得られた「苫小牧ではラードで炒めたモヤシをカレーラーメンに乗せて、ライスと目玉焼きを一緒に食べるお店があるんですよ!」というメニューを味見をしてもらいつつ再現して食べたことによる、すれ違った職員たちの夕食から選択肢を消し去り一部のウマ娘たちから集中力を奪うレベルの美味しそうな匂いが漂っています。
とにかく、これでトウカイテイオーとマヤノトップガンのトゥインクル・シリーズは心配無用というもの。貴方が視線を合わせただけで呼んでいることを察してスパッ! と駆け寄ってくるほど鋭い感性を持つ天才ウマ娘ふたりを、この新人女性トレーナーがどうやってスカウトするのか特等席で楽しむことにしましょう!