貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
(おめめグルグルとかげのコックさん)
最近大真面目に競走馬のデータを見ているときに「あれ? なんでオペラオーの主な勝ち鞍から日本ダービー欠けてんだ?」と本気で5秒ぐらい悩みました。これがゲーム脳か……。
(説明するまでもなく、1999年のダービー馬はアドマイヤベガです)
新人女性トレーナーはトウカイテイオーとマヤノトップガンにも一礼すると、まずはこれを見てくださいとメイクデビューまでのトレーニング計画をまとめた書類をふたりに渡す──だけでなく、貴方にも「確認をお願いします」と差し出してきました。
このふたりをスカウトするのであれば自分は関係ないだろうに、何故だ? と一瞬だけ考えそうになった貴方ですが、こうして下手に出ることでこの場の監督者が誰であるかというパワーバランスを崩さずに行動することでトラブル発生時の責任の所在が分散することを防ぎ悪役トレーナーである己を追放するための布石に使うつもりなのだろうと新人女性トレーナーの慧眼に感服しているようです。
肝心の内容についてですが……どうやらチート能力によりウマ娘たちのステータスを確認できる貴方から見ても悪くない出来映えのようです。
リアルタイムで変動するウマ娘たちの状態変化に完璧な対応をするなど本来であれば不可能であることは貴方も理解していますので、そこまで考慮すればトウカイテイオーとマヤノトップガンの才能を開花させるという意味では天晴れなトレーニングプランであると評価できるでしょう。
「メイクデビューのタイミングを調整すれば、ふたりとも気兼ねなくクラシック三冠ウマ娘を目指せます。いずれはシンボリルドルフやミスターシービーに並び立つスターウマ娘となることも決して夢ではありません」
「……並び立つ、ね。まぁ? 三冠ウマ娘はボクの目標だし、カイチョーのことは尊敬してるけど? ふ~~ん」
目標である三冠ウマ娘と憧れの対象であるシンボリルドルフの話を持ち出した点については、たしかにトウカイテイオーのスカウトには効果的かもしれません。
しかし、マヤノトップガンに関しては……案の定、空気を読んで資料に視線を向けているものの頭の中では「トレーニングが終わったら、今日は甘いアイスコーヒーでも飲もうかな」と考えていそうな雰囲気になっています。あとでマンハッタンカフェに上質なコーヒー豆が手に入ったことを囁いて誘導しておくことにしましょう。
早くも暗雲がチラチラ姿を見せているような気もしますが、トウカイテイオーだけでも悪役トレーナーである自分から奪還してくれれば儲けモノ。
なんなら目標達成率が50パーセントだとしてもチート転生者である自分は常に勝率が100パーセントなので合算すれば150パーセントとなりトウカイテイオーのスカウトが成功した時点で事実上は天下無敵の大勝利も同然と人類には高度な演算を済ませた貴方は安心して成り行きを見守ることにしたのですが──。
「ねぇトレーナー? トレーナーはさぁ、どう思う? ボクがカイチョーと同じように三冠ウマ娘になって並び立つことができるって、そう思ってたりするの?」
トウカイテイオーからの評価を得るのであれば、ここは優しく微笑みながら「きっとなれる」と頭でも撫でる場面なのかもしれません。
もちろん悪役トレーナーである貴方はそのような理解ある態度など見せるワケがありません。フッ……と鼻で笑って「そんなもん知ったこっちゃねぇわ」と容赦なく否定してみせました。
まさにウマ娘の心情を無視した、トレーナーバッジを着用している者としてあるまじきセリフです! これには新人女性トレーナーだけでなく、トウカイテイオーはもちろん周囲で聞き耳を立てていたウマ娘たちまでもが言葉を失ってしまうのも当然というもの!
マヤノトップガンは角度によっては「わかったから早く続きを言ってごらん?」とでも言いたげな表情にも見えますがきっと気のせいでしょう!
こうしてウマ娘に対して一切の配慮をしないという姿勢を見せたことにより、ここから先は言葉を飾らずとも簡単にヘイトを稼ぐことが可能になりました。
しかし常に勝利した自分の姿だけを見据えている貴方は“ウソのなかに少しだけ真実を混ぜると効果的”という話を思い出し、より決定的に悪役としての貫禄を見せつけるべく追撃を始めます。
下拵えとして貴方は淡々とした口調で「そもそも勝負の世界に対等はあっても平等など存在せず、並び立つと称賛した裏では誰もが心のどこかで優劣の決着を望んでいる」と現実を突きつけて場の空気をしっかりと冷やしました。
そして「ならばトウカイテイオーが選べる道も自然と限られてくる。憧れの生徒会長の背中を追い続けるか、それとも──」と語り、わざとらしく数秒の間を置いて人差し指をピッと立て、あえて優しい微笑みを浮かべてから「お前自身が唯一抜きん出て、その背中をシンボリルドルフに追わせるか。ふたつにひとつだ、好きなほうを選ぶんだな」と続けました。
前世の知識を持つチート転生者である貴方は知っています。いまは憧れの存在であるシンボリルドルフの背中を、やがてトウカイテイオーは越えるべく決意を抱くことを。つまりは選択肢があるというのは真っ赤なウソなのです。
しかし前世の知識を持つチート転生者である貴方は知っています。それはトウカイテイオーというウマ娘の可能性を無条件で信じ、その進化を支えてくれるトレーナーとの出会いがトリガーとなることを。つまり現状のトウカイテイオーにとってこの問い掛けはただの悪意でしかないのです。
これにて本日の追放ムーヴは完了しました! いつも通りのヘイトコントロールを意識した上質なコミュニケーション、あとは貴方の発言に怒ったトウカイテイオーが新人女性トレーナーのスカウトを承諾するのを見届けるだけの簡単なお仕事です!
マヤノトップガンの表情にさらなる慈しみが広がっている気がしますが、貴方が気づいていないのであればそれは気のせいなので気にしなくても大丈夫でしょう!