貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
収穫した旬のハルバードを新鮮なうちに斧槍の部分だけ衣をまとわせ串カツのようにじっくり揚げた物を想像してしまった人が周囲にいたら優しく教えてあげてください。ソースの二度漬けは禁止でも、バルサミコ酢ならかけ放題だと。
ある日のこと。
勤勉な追放系転生者としてヘイトを稼ぐヒントを得るためいつものように新聞などを超速度で読んでいるところに、いつの間にか持ち込んでいたらしいマイカップにココアを注いだケイエスミラクルが貴方に面白い情報をもたらしました。
「そういえば、いま百貨店で世界の絵本展っていうのをやっているそうなんです。もちろん買うこともできますし、その場で試し読みすることも──え? あ、はい。おれ、絵本とか好きで……えっと、前にも話したことありましたっけ?」
これが並のトレーナーであればただの世間話として処理されて終わっていたことでしょう。ですが貴方は天下御免のチート転生者、このような些細な情報からもトレセン学園から追放されるための道筋を見つけることが可能でした。
そう、絵本や童話に登場する悪党は必ず成敗されることになる、いわゆる『勧善懲悪』が物語の基礎となっている物がたくさんあるのです。創作物ではありますが、それらもまた悪役としてあるべき姿を自分に教えてくれる先生になると貴方は考えました。
そうと決まればいつものように即断即決即行動。さっそく貴方はその絵本展から学びを得るため出かけることにしました。
◇◇◇
イベントにやってきた子どもたちを大悪党トレーナーから守護るためでしょう、監視役として同行しているであろうケイエスミラクル、ライスシャワー、ニシノフラワーなどの数人のウマ娘たちに囲まれながら貴方はじっくりと絵本を選んでいます。
世界の絵本展というだけあってさまざまな言語の絵本が並んでいますが、もともとはウマ娘たちを利用して正攻法でお金儲けを企んでいたこと、そして現在は悪役として必要な教養として多言語を極めている貴方にはなんの問題もありません。
なかなか面白そうな絵本がたくさんありますが、素晴らしく賢い貴方は目的を忘れることなく悪党がきっちり成敗されていそうな絵本を探します。
ここまで狙いどおりだと上機嫌で絵本を手に取るその間もケイエスミラクルからは謎の視線を感じますが、恐ろしく賢い貴方はそれが警戒の意味合いが含まれているモノであると認識しているようです。
もちろんそれは貴方がケイエスミラクルからしっかりとヘイトを稼いでいるという自信があっての判断です。
頭を叩かれた回数を速さの証明のように語る夜間居残り組のように──特にスペシャルウィークやカレンチャンをリアクションに困らせているどこかの逃げウマ娘や追込ウマ娘ほどではありませんが、彼女もハリセンの被害者のひとりだからです。
追放ムーヴの中でさまざまな取引ウマ娘たちの姿を見てきた貴方はチート能力に頼るまでもなくウマ娘のコンディションをほぼ完璧に近いレベルで管理できますが、その領域に到達していない者から見れば病弱なウマ娘にハリセンを叩き込むゲス野郎でしかありません。
ケイエスミラクルのオーバーワークを的確に防ぎつつ評判も下げる。当然、本人からしてみればトレーニングを問答無用で邪魔をされているワケですから貴方への報復の機会を虎視眈々と狙っていることでしょう。
荷物のように雑に脇に抱えられて運ばれているケイエスミラクルの表情が少しだけ嬉しそうだとしても、角度的に貴方には見えていないので事実上の無表情であると分類できるので大丈夫です。
◇◇◇
絵本選びの最中に見知らぬ男の子から「これなんてかいてあるのー?」と質問され紆余曲折の果てにウマ娘たちを巻き込んで読み聞かせをすることになり店員さんや保護者の皆さんからぬるま湯のような視線を向けられることになってしまったものの、この程度の誤差は日本有数のダンジョン梅田駅から某電気屋さんを目指していたらついうっかりシチリアでチーズを削っていたぐらい良くあることなので追放計画に対する影響は見えなくても問題はありません。
そんなことよりも貴方が気にするべきは、これからちょうど昼食の時間になるということです。
貴方は彼女たちの担当トレーナーではありませんが、悪の美学に従い取り引きで手抜きをするなど言語道断というもの。絵本を抱えた何人ものウマ娘が入れるお店という前提条件で、いつかスカウトされることを視野に入れてアスリートに相応しい食事を提供してくれる場所を速やかに頭の中で検索します。
もちろん気軽に食事のできる施設やジャンクフードを否定するつもりはありませんが、そうした友人同士で気兼ねなくワイワイ食べられるものは自分のような邪魔物がいないときのほうが楽しめるだろうと配慮することにしているので却下です。
さて、なにか手頃なお食事処はないだろうかと考えていると……そういえば、と貴方は学生時代の後輩が総帥をしているグループが経営するホテルのレストランの招待状を持っていることを思い出しました。
「へぇ。あなたの知り合いが働いているレストランだなんて、なんだか面白そうじゃない? 下手なお店よりは期待できそう──は? なんで招待状なんてものが必要……な……の……よぉ……おっふ」
「ねーねー? キングちゃんそのキラキラしたカードなーにー? それでゴハンが食べられるのー?」
「まぁ、前にアンタに連れていかれたお店のハンバーグもそんなに悪くなかったし……アンタが! ど~してもアタシに食べてもらいたいっていうなら! 仕方ないから付き合ってあげてもいいわよ!」
念のためレストランに現役のトレセン学生が10人ほど一緒でも問題がないか確認を済ませて移動を始めましたが……さすがのチート転生者である貴方も、ホテル側から「可能であればウマ娘たちと一緒に新しくオープンする店舗のリハーサルに協力して欲しい」という申し出を安請け合いした結果、トレセン学園のルームで観戦する予定だった天皇賞を現地で見ることになるとは予測できなかったようです。
これで自然な流れで賢さGを京都レース場に移動させられるな! ヨシッ!
こいつの扱いクッソめんどくせぇなッ!