貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ちくわ。

「そういえば、メジロ家のウマ娘たち──ドーベルさんだけでなく、アルダンさんとパーマーさんも担当トレーナーが決まったそうですなぁ。横の繋がりで名門どころの家からのアプローチをのらりくらりと躱していたメジロの御大が、よくまぁ新人トレーナーたちを簡単に認めたものだとウチの編集部でも話題になってますよ」

 

 男性記者が話題に出した新人トレーナーたちのことは貴方も把握しています。ドーベルトレーナーはもちろん、アルダントレーナーとパーマートレーナーも担当ウマ娘と一緒にメモ帳などを片手に鋭い目つきで貴方を監視しているからです。

 ときには取引ウマ娘たちからも積極的に情報を収集している様子が見られ、メモ帳の中には自分を追放するために必要な悪事の数々が余すことなく記録されているのだろうと貴方は3人の正義感溢れる仕事ぶりに感心していました。

 

 

 それはそれとして。メジロのウマ娘たちの心を射止めてしまった3人の男性トレーナーたちの将来について貴方は心の中で両手を合わせて「みんながんばれ。それはもうイロイロと」などとエールを送っています。

 

 

 さて、天皇賞ということでメジロの話題を出したのは想像できた流れですが……抜け目のない悪役トレーナーである貴方は、ここで新人トレーナー3人について厳しい意見を口にすることで、将来有望な新人たちの才能を理解できない節穴アイをアピールできるのでは? と思いついてしまいました。

 メジロライアンが菊花賞を勝利したことへの評価はもちろんのこと、月刊トゥインクルに所属している記者であればメジロのウマ娘たちの真価はその精神性にあることなど百も承知のはず。ならば、彼女たちが認めたトレーナーはそれだけで信用できることなど貴方がわざわざ説明するまでもないほどに熟知しているに違いありません。

 

 貴方は男性記者に対して、知ったかぶりな態度を演出するためにあくまで落ち着いた雰囲気のままに言いました。彼らはウマ娘たちのパートナーとしては優秀かもしれないが、トレーナーとしては足りないものがある……と。

 

「──ほぉ? トレーナーとして足りないものと仰いますと、やはり知識や経験といったものですかな? ま、URAがライセンスを与えているワケですから最低限のモノは身につけているのでしょうが、たしかに若手なのも事実ですからねぇ。豊かな才能が注目されていたにも関わらず、その気性から担当がなかなか決まらなかったウマ娘を格式の……あぁ、いえ。ファンがたくさん応援してくれる舞台であんなに“楽しそうに”走らせることができそうかと言われれば、なかなか難しいでしょうなぁ!」

 

 なんと、そんなことができるトレーナーが中央には存在していたのか! と貴方は内心で驚いている様子。能力が高いのに性格が個性的であるが故に苦労しているウマ娘にレースの楽しさを教えることができる、そんなトレーナーがもしもミスターシービーやマルゼンスキーのトレーニングをサポートしてくれていたのならば……と、追放のためにトレーナーたちとの交流を軽視していた己の迂闊さを悔やむ気持ちが芽生えているようです。

 

 ですがそれはそれ。いまの自分がやるべきことは過去の失敗を嘆くことではなく、未来のために──中央トレセン学園から追放されるために目の前の男性からヘイトを稼ぐことであることを見失う貴方ではありません! 

 

 イタズラ小僧のように楽しそうに笑いつつも、やはりその視線は超一流のジャーナリストらしく日本刀の如く鋭いままの男性記者に貴方は言いました。

 彼らに足りないものは知識や経験などという、時間さえかければ誰でも手にすることができるような簡単なモノではない。もっと単純で、最も原始的な部分で必要なモノが足りていないのだと。

 

 男性記者は実に興味深そうに続きの言葉を待っていますが、もちろん思いつきだけで語り始めた貴方に具体的な内容などあるはずがありません。

 しかしそこは“百戦百勝は善の善なる者に非ず”をある意味完璧に体現している貴方です。これはあくまで自分の評価を下げるための布石ですので、適当にそれっぽいことを話せば「コイツはなにを言っているんだ?」といとも容易く評価を下げることが可能だと余裕の表情を隠しきれていないようです。

 

 

 続く貴方の言葉は「慈悲深い三女神はレースに挑む全てのウマ娘たちを等しく祝福してくれるかもしれないが、嫉妬深い勝利の女神は浮気者にキスをしてくれるほど優しくない」というものでした。

 ウマ娘たちのレースに限らず、アスリート同士の本気の勝負には数々のドラマが存在するのは決して無視できない事実です。それをトレーナーという指導者の立場でありながら真っ向から否定することにより、男性記者に不信感を植えつけるという恐るべき作戦のようです。

 

「なるほど、なるほど! つまり今日の天皇賞を勝てるウマ娘というのは、ライバルの姿だったり、勝利の先にある栄光などではなく……どれだけ純粋に勝利そのものを渇望できるかで決定する、と。いいですなぁ、天皇賞のあとに関係者の方にお話の機会を設けていただいていますが、コイツは良い話のタネになりそうですよ! いやぁ~はっはっは!」

 

 なんということでしょう! どうやらこの男性記者は偶然にもレース関係者にアポイントメントを取っていたようです! 

 これなら鮮度抜群のヘイトを届けてくれるに違いない、そう考えた貴方は喜び倍増で天皇賞の始まりを待つのでした。




次回はレースに参加しているモブウマ娘たちのインタビューを含めた男性記者視点です。
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