貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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お試し文章スタイルの時間。


『逸話』

「アイネスのお嬢ちゃんがspeedを抑えて後ろに入るのは予測していた。tensionのままに走りきるのもヤツの持ち味だが、アレでなかなかcleverな立ち回りができるからな。マルゼンのヤツについては……アレは単純に()()()()()()()()()()()ってだけだな。その証拠は後半のcrazyなexciteぶりが証明しているだろう?」

 

 

 多くのファンが待ち望んだスターウマ娘たちの勝負。ある意味では宝塚記念や有マ記念に匹敵する夢のレースとなったそれは、有識者を名乗る者たちが予測した「マルゼンスキーが先頭に位置取り、それにアイネスフウジンが追走する」という形とは大きく異なるスタートとなる。

 事前にトレセン学園でウマ娘たちへの取材を──あぁ、いや。オレはただの付き添いみたいなものだから半分ぐらいはプライベートな世間話に近い、他愛もない会話ではあったが……そこで“逃げて差す”という矛盾した作戦について聞いていなければ、やはり観衆と同じように驚いていたかもしれない。

 

 

 レース全体の立ち上がりは長距離レースとしてはやや速めといった程度、先頭を駆けるウマ娘もかつての菊花賞のときのように安定感のあるフォームで加速していた。

 続くアイネスフウジンとマルゼンスキーの走りにも乱れなどは一切見られない。いまだに逃げウマ娘や追込ウマ娘のことを王道の走りができないからだと否定的な言葉を発する者もいるが……彼女たちはもちろん、今後デビューする予定のウマ娘たちもまた、そうした評価を次々に覆すことになるだろう。

 

 

 焦りは見られない。そんなほどよい緊張感を最初に崩したのは先行の位置からアグネスタキオンであった。

 

 

「あー、アレはルドルフを狙い撃ちにしてたんじゃないかな。ワザと内側のラインを空けることで差しの位置から誘い出そうって魂胆ってカンジ? ペースを乱す、脚を消耗させる、とか? まぁそういう狙いもあったのかもしれないケド……単純に好奇心っちゅーか、挑発してみたかっただけじゃね? 『さぁ、こんな大舞台でも“皇帝”は挑戦を受けるのかい?』みたいな!」

 

 

 名門シンボリ家の出身、無敗でのクラシック三冠制覇、中央トレセン学園の生徒会長。初めて取材をお願いしたときには実に優等生という表現が似合っていたシンボリルドルフも、最近では学生らしく笑える程度の悪ふざけとアスリートらしい好戦的な気配をカメラの前でも度々見せてくれる。

 そんな彼女の態度の変化により、以前はうっすらと見えていたほかの学生たちとの間にあった壁が無くなったのはなかなかの皮肉だろう。だが、「皇帝として如何なる挑戦からも逃げはしない」と宣言したことで同期はもちろん後輩たちからも次々と勝負を挑まれる彼女は実に嬉しそうであった。

 

 

 故に、アグネスタキオンは挑発したのだろう。

 

 

「そうだなぁ……シービーやマルゼンとの勝負がどうこうっていうより、やっぱ単純にルドルフに勝ってみたいって気持ちは強いかな。先行も差しも選ばず王道の走り方を見せてやろうって態度がホラ、やっぱ真向勝負でブチのめしたいって思うじゃん? ハハッ、GⅠレースで1度も勝ったことないウマ娘がなにを偉そうにって思うかもしれねぇけどさ。アタシらのトレーナーの言葉を借りるなら『トレーナーが勝てるって信じてくれてるのに、それで自分の気持ちにウソをついたら意地張って勝負服を着てる意味がない』ってトコかな!」

 

 

 当然のことながら、シンボリルドルフは挑戦を受けた。内側に、そして前にと位置取りを進めるが──ここで周囲のウマ娘たちが動揺することなくペースを保ってたのは流石だとしか言いようがない。

 

 例外はふたり。ひとりは美人揃いのウマ娘の中でも特に見目麗しい芦毛のウマ娘であり破天荒な言動から子どもたちの人気者でもあるゴールドシップだ。

 桁外れのスタミナと圧倒的なパワーでレース中盤から()()を自由に使ったロングスパートはゴールドシップの代名詞となりつつある。黒ジャージ軍団に関するウマッターやウマスタグラムで『彼』と一緒に笑いを提供してくれる姿とは真逆の、どこまでも勝負を楽しみつつどこまでも勝負を求める鋭い微笑みは男女問わず多くのファンを魅了している。

 

 もうひとりはゴールドシップの同期であり同じ芦毛のウマ娘、これまた小柄な関西弁のツッコミキャラが子どもたちの心を掴んでいるタマモクロスも追込の位置から消えていた。

 静かに、そして『白い稲妻』という二つ名に恥じない鋭いステップワークで前に出た。アスリートとして、レースを走るウマ娘として不利だと言われていた小柄な体格を自虐的な方向の笑いで掛け合いをする姿はファンなら見慣れたものである。そして彼女はそのハンデをまったく……少なくともオレが取材したときには気にした様子はなかった。彼女にとって小柄な体格は弱点ではなく武器に昇華していたのだから当たり前だと言われればそれまでだが。

 

 

「勘違いしているヤツが多いがゴルシは単なるイロモノウマ娘なんかじゃない。スタミナを爆発的に燃焼させてワープしたかのように最終直線で並んでくる規格外、つまり化け物なのよ。そしてタマのヤツは選べる作戦の幅広さがある意味でゴルシよりも厄介だ。……そうだな、以前は本人も身長を気にしていたよ。だがわざわざ説明しなくてもアンタほどの記者なら理解してるんだろう? あの野郎が好き勝手に煽ってくれたおかげで、タマの脚捌きは関西弁ツッコミキャラとは裏腹に洗練された美技だ」

 

 

 ターフの外側から『見る』のと、ターフの上で『感じる』のではよほど勝手が違うのだろう。観客はレースに動きが現れたことで盛り上がっているが、ウマ娘たちは膨れ上がった覇気の影響を無視することはできなかったらしい。

 どちらも普段はコミカルなキャラクター、しかしレースの最中は彼女たちもまるで餓えた猛獣。カメラマンたちがその横顔を求め昂る神経を理性で捩じ伏せてシャッターチャンスに備えているであろうことは容易に想像できるぐらい纏う雰囲気がガラリと変わるのだ、至近距離ですれ違い追い抜かれたウマ娘が動揺してしまうのも無理はないだろう。

 

 

「同じ追い込みでもここまで違うのか、ですか? フフッ……♪ いえ、たしかに言われてみれば記者様の仰有る通りです。わたくしも、レースの作戦というものは逃げ、先行、差し、追込という4つの枠だけでしか考えることができませんでしたし、それはわたくしのトレーナーも同じこと……。えぇ、記者様もご存知の通りわたくしの担当トレーナーは歴史のある名門出身の方なのですが、対策をお考えになっているときも実に楽しそうでしたよ? そういうモノもあるのか、そうでなくては面白くない、と。そういう意味では──シービー様は自由な気風でありながら思いの外辛抱強い方なのだな……と、わたくしは常々思っております」

 

 

 大舞台でもレースを楽しむため先頭を譲り“逃げて差す”走りを試さずにはいられなかったマルゼンスキーとは逆に、ミスターシービーの走りはどこまでも追込ウマ娘らしい丁寧なモノであった。

 レースに対しては誠実だから? ウイニングライブを気分じゃないからと逃げてしまおうかなどと冗談を口にした瞬間出走したウマ娘たちに取り押さえられステージに運搬された実績を持つ彼女に誠実という言葉が似合うかどうかはファンの判断に委ねるとして、たしかにミスターシービーは彼女なりのスタンスでレースには本気で向き合っているし、ライバルたちと競い合うことを真剣に楽しんでいるのだ。

 

 もしかしたら、だからこそミスターシービーは追込を好んでいるのだろうか? ウマ娘たちが全力で、真剣に、勝負を楽しんでいる光景を見るために……いや、これはさすがにオレの主観が過ぎるな。

 ジャーナリストとしてウマ娘たちのイメージを“大事に扱う”のは当然のことが、イメージ通りの彼女たちの姿を“求める”のはファンに許された特権でありオレたちメディアの姿勢としては論外だ。

 

 

 そんなミスターシービーも、最終コーナーではもちろん前を目指して加速する。同じようにスタミナやパワーに自信のあるウマ娘たちがその勢いに逆らうことなく集団の外側を、距離のロスなど関係ないとコース全体を横に広がるつもりかと言いたくなるようなスパートを始めたのだ。

 

 中にはここが1着になるための最後のチャンスとなるウマ娘もいるだろう。それは以前の常識では考えられないことだが、直線よりもコーナーの走りを得意とするウマ娘たちにはオレも何度か話を聞かせてもらったことがある。

 彼女たちは自分が取材されること、いや注目されることがイマイチ理解できていない様子で恥ずかしそうに「自分たちにはコレしか勝ち目がないから」と語っていた。

 

 こういう言い方は大真面目にトレーニングに励むウマ娘たちに失礼なのだが、ハッキリ言って彼女たちは天才に挑みすぎたせいで感覚がすっかりバグっているようだ。

 注目しないワケがない。最終コーナーという限定された数秒間だけとはいえ、ミスターシービーが追いつけず、シンボリルドルフが追い越され、マルゼンスキーが迫られる光景は、レースを見ている者たちに「もしかしたら」と思わせるには充分すぎる。

 

 

「ん~? 正直、そのへんの感覚はよくわかんないかなぁ? とりま、トレちゃんから渡されたトレーニングプランやっとけばいっか~ぐらいしか考えてなかったし。や、そりゃ普段もキュー場で併走とかはしてるケド……う~ん、なんて言えばいいのかな~? ワンチャンあるならそれでよくね? みたいな? それにトレちゃんがものごっつ楽しそうに言ってたもん。なんだっけ、たしか『1度も負けたことがないということは、1度も格上に挑んだことがないのと同じ』みたいな? つまりチャレンジャーとしては負け負けなウチらのほーが勝ち勝ちのビー太郎やマルマルよりレベル高ぇってことでぇ~……うん? あはッ♪ オジサンごめん! なに言いたいのかわかんなくなっちゃったからイイ感じにフィーリングで理解しといて♪」

 

 

 折れるほどに強くなる、それを綺麗事ではなく事実として彼女たちは実践している。さて、オレもジャーナリストとしてレースにはそれなりの時間関わってきたが、長距離レースである春の天皇賞の最終直線で集団が割れることなくラストスパートとなる光景など見たことがあっただろうか? 

 それでも現実は無情だ。やはりGⅠウマ娘たちが、その中でも特別な輝きを感じるウマ娘たちがどうしても抜きん出て前のほうに集まった。以前と違うのは遅れだしたウマ娘たちから勝負を諦める気配を感じないことだろう。レースが終わり結果が確定する前に勝利を手放すようなウマ娘に未来はない、その教えはしっかりと受け継がれているのか、それとも新しく芽吹いたのか。

 

 

 そして。

 

 

「遠慮とか、そういうのは無かったよ。もちろん有名な話だし、知らない子はいなかったと思う。でも、それで手加減というか、本気で走ることを躊躇うような子なんているワケないっていうか……だって、勝ちたいのはさ? レースで勝ちたいのはみんな同じなんだから当たり前だよね? だけど、そうねぇ……性格的な問題、っていうと悪いふうに聞こえるけど、普通の優等生でしかなかったころなら私でも勝ってた自信あるのよ。負け惜しみに聞こえる? なら、次は秋の天皇賞に出てくるだろうし、そのときに証明してあげるわ。悲願がどうだとか、ドラマ性がなんだとか、そんなのセンターを譲る理由にならないもの。ま、それはそれとしてね? せっかく宣言通りに1着になったんだもの、ちゃんと主役らしく格好良く宣伝してあげてよ? ジャーナリストさん!」

 

 

 実に()()()()のある依頼だが、なんとも悩ましい問題がある。

 

 

 あの日、大歓声の中で、握り拳を天高く掲げるメジロライアンの姿を。果たして文字と写真だけで伝えることができるような記事を、オレの能力で書けるのかどうか。

 ひとりのウマ娘ファンとしてレースを楽しんでいるときはともかく、仕事となると非公式チーム『ポラリス』の存在は本当に厄介だ。駿川さんや秋川理事長にお願いして、どうにか正式に取材する機会を用意してもらえないものかねぇ?




年末の投稿が遅れたのは単純に積みゲーにしていたゴーストリコンに手を出したのが理由であり、特になにか事情があったワケではないです。
キリのいいところで一年を終えて別作品の更新を始める予定でしたが、悔しいのでしばらく本作の更新を続けることにしました。よろしくお願いします。


続きはかまぼこと栗きんとんを堪能してから、次は賢さGが夏合宿に少しだけ参加させられそうになるかもしれない話になります。
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