貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
「お~じゃまするよ~? たづなちゃんから今回の交通うんぬんの書類をあ~ずかってるから、オジサンが若人にお届けにき~たよってぇ……あ~らら、うら若き乙女がそろってトコロテンとは、こ~れも風流ってヤツなのかねぇ?」
誰よりも合宿先とトレセン学園を往復している貴方は現在トレセン学園のルームにて細々とした作業を行っています。
合宿先でのトレーニングについては学園側で全てのお膳立てがなされていますが、体験組は1週間ほどで戻ってきます。そうなれば取引ウマ娘たちのために貴方は合宿による僅かな変化も考慮してトレーニングプランを再構築する必要があるからです。
今回の夏合宿全校生徒体験大作戦に関してウマ娘だけでなくトレーナーや各部門のスタッフも問題点や改善点を報告するよう協力を求められていることは貴方も知っていますが、ウマ娘たちのためにと張り切ったもののハードスケジュールの前に体力を使い果たしたトレーナーたちに代わり送迎等の雑務を引き受けていたために完全に後回しになっていました。
もちろん代役を引き受けたのは善意などではありません。一時的なもの、短時間とはいえ自分のような悪役トレーナーに大事なウマ娘たちを預けなければならないという大失態を深刻に受け止め、今後のスケジュール管理に是非とも活かしてほしいという高度で緻密な計算によるものです。
しかし、それはそれとして夏合宿に関するレポートのことを忘れていたのはいただけません。それで自分自身の評価が下がるのは望むところですが、そのせいで今後のウマ娘たちの夏合宿参加が滞るのは隠れウマ娘ファンである貴方としても面白くないからです。悪役トレーナーとしては好ましい態度ではありませんが、素直に頭を下げてお礼を述べるのも仕方のないことでしょう。
「い~ってこ~とよ~。俺とキミのな~かじゃな~いの~? 若いトレーナーたちが頑張ってるのに、オジサンだけ年齢を言い訳にしてサボるわ~けにはいかないでしょ~? こんなんでもチーム抱えてるBランクトレーナーだもんねぇ。……で、若人よ。どう思う?」
のんびりした口調から急に真面目なトーンになりましたが、話題が夏合宿の交通問題に切り替わったことなど貴方にはお見通しです。
ウマ娘たちのトレーニングに関わることですので、さすがの貴方もヘイトコントロールを控えることにした様子。こちらも真面目に「理想はともかく現実的ではない」とハッキリ言いました。
仮に全校生徒の夏合宿参加を実行するのであれば40人規模のバスでも60台近く、学園を出発するときに1分単位でズレが生じただけでも到着時刻が最初と最後で1時間も違います。極端な話になりますが、なんらかのトラブルでそれぞれのバスが5分停車することになれば最後のバスが到着するのは5時間後となるでしょう。
もちろんここまで大袈裟な誤差など数学の文章問題の中でくらいしか見かけることはありませんが、2000人規模が1度に移動するとなれば似たような状況が起きる可能性について無視することはできません。
「だよね~。いや、オジサンもね? ウマ娘たちを全員合宿に参加させたいって、やよいちゃんの気持ちもわ~かるのよ。ただ現実的な問題はど~にもならんでしょ。それでも……やっぱりトレーナーとしては協力したいって気持ちがあるから、今回の実験にもみんな積極的に参加してるんだろうけど、ねぇ」
夏合宿は身体能力の向上以外にもモチベーションの管理と維持にも関わってきます。これはウマ娘やスポーツ業界に限らず、ありとあらゆる分野で必ず直面する問題と言っても過言ではありません。
常に悪役トレーナーとして追放されるために理想の自分を追い求め続ける貴方には未来永劫無縁である要素かもしれませんが、思春期にしてアスリートというメンタル影響部門の欲張りセットであるウマ娘たちのことを思えば黙っているワケにはいかないといったところ。
さて、どうしたものかと貴方は考えます。
やる気を引き出すために変わったトレーニングを行うだけなら難しいことではありません。つい先日も肺活量とリズム感、そしてステップワークを鍛えるために『ダンススタイルMCバトル』でウマ娘たちが激しい競り合いを繰り広げる様子を眺めていました。
しかしそうしたイロモノトレーニングは貴方が追放されるまでしか活用できません。持続的にウマ娘たちのトレーニングに彩りを添えてくれるシステムを、自分の手柄にならない形で考案する必要があるのです。
貴方はなにか面白いアイディアが転がっていないか、前世の記憶を遡ることにしました。アプリやアニメはもちろん、競馬に限らずさまざまなスポーツで実際に行われている取り組みまで含めてヒントを漁っていたところ……そういえば、と。競馬に限らずレースの分野では定番であるが故にすっかり見落としていたことがあると気がつきます。
そしてルームでは都合よくエアシャカールとビワハヤヒデという頭脳ウマ娘コンビが、貴方が自作したレース場の模型を使い戦術研究をしている真っ最中。
「アァン? ……ハッ! テメェにしちゃずいぶんマトモなこと言い出すじゃねェか。ついに暑さで頭がイカれたか? まぁいい。どうせテメェのことだ、必要なモンはすぐに揃うんだろ? 仕方ねェから協力してやンよ、なかなか面白いデータも集まりそうだしなァ……!」
「ふむ……。それには過去のレース映像からシチュエーションを再現する必要が──いや、単なる模倣では意味がないか? いっそのこと脚質や得意とする作戦、本格化の段階を含めた能力を考慮してレースを設定するだけでも……フフッ、実に興味深い実験になりそうじゃないか……!」