貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
ウマ娘たちがターフの上を走る。
それはトレセン学園であれば中央に限らず日本各地、そして世界各地で見慣れた光景かもしれません。
しかし、ターフを走るウマ娘たちがとある摩訶不思議アドベンチャーに登場する戦闘力などを計測できそうなアクセサリーを身につけているのは貴方の縄張りである第9レース場ぐらいなものでしょう。
「主観視点のリプレイ……データとしてはオモシレェが、コイツの扱いはさすがのテメェも骨が折れるンじゃねェか? もちろんオレはしっかり有効活用させてもらうがな」
「ふむ……。いや、自分の走りを冷静に分析するのに役立つのは確かなのだろうが、なんというか、その……アレだな。これをほかのウマ娘に見られるのは……仮に相手がチケットやタイシンだとしても恥ずかしいというか」
思いつきで始めたジョッキーカメラならぬウマ娘カメラですが、反応としては『面白い派』と『恥ずかしい派』のふたつに分かれている様子。
これは貴方にとっても思いがけない収穫となりました。思春期の乙女に対するデリカシーに欠いた行い、これまで行ってきた数々の悪行と比較してもトップクラスにウマ娘たちに嫌われること間違いなし。一流の悪役トレーナーとしての誇りが胸から溢れんばかりといったところでしょう。
もっとも。
「わかりましたッ! みなさんのお手本となるような走りを心がける、まさに学級委員長に相応しい役目ですッ! さぁみなさん、遠慮なんて必要ありませんよッ!」
「は~ッはッはッはッ!! このボクの美しい走りを体験したいということだねッ! いいともッ! ライバルたちの放つ煌めきが強ければ強いほど、ボクの強さと美しさもより磨かれるというものさッ!」
一部のウマ娘に関しては、声をかけた覚えがないにも関わらず積極的に参加しています。さすがの貴方もどうしたものかと一瞬だけ悩みましたが……ウマ娘たちが目立てば目立つほど、この実験が効果的だと判明したときに自分の功績となる可能性が低くなるのでヨシッ! としたようです。
◇◇◇
「ん~。自分の走りを自分の視点で、それをこうしてソファーでくつろぎながら見るのもなかなか新鮮だけれど……やっぱり私は自分で走るほうが好みかな?」
案の定、夏合宿を終えて中央トレセン学園に帰ってきたウマ娘たちも主観視点によるレース中の映像記録に興味を持ちました。そして真っ先に録画を実行し、真っ先に飽きたのがミスターシービーです。
もちろんそのことについて貴方は特になにも言いません。誰よりも自由であることを愛するミスターシービーが、映像記録という空間に閉じ込められ不自由の極みにある走りを楽しめるワケがないと予測していたからでしょう。
「中距離や長距離はスタイルが完成しているし、さすがに欲張って短距離まで走ろうとは思っていないし、マイル用の調整なら録画なんかに頼らなくても心配いらないし。そうだね、もしも参考にしたいって子がいるなら別に見せちゃってもいいよ。それで私の、ミスターシービーの走りを真似してみたいっていうのも……その子の『自由』だからね」
ミスターシービーに限らず、シニア級を走っているウマ娘たちの反応はボチボチといったところ。とはいえ、これは貴方の追放計画としては悪くない状況です。
このままレースの役に立たないお遊びとして評価されれば貴方の無能ぶりが広まりますし、ここからウマ娘たちが有益な活用方法を編み出せば彼女たちの手柄になるからです。
全ては我が手のひらの上、単なる思いつきで始めた行動ですら勝利への道しか見えていない己の策士ぶりに喜びを通り越して呆れそうになっていたある日のこと。
「トレーナーさん。シービー先輩の録画したヤツ、VRゴーグルごと借りてもいいですか?」
担当ではなく顔見知りという距離感による微妙に丁寧な言葉遣いのゴールドシチーからの要望に貴方は首を傾げることになりました。
ミスターシービーの走りを参考にするにしても、ゴールドシチーでは脚質があまり噛み合っていないからです。距離の適性もそうですが、特に作戦に関してはまったくと言って良いほどズレが生じています。
アプリでミスターシービーが得意とする作戦は差しと追込、ゴールドシチーは先行と差しでした。しかしこの世界のミスターシービーの能力を貴方のチートアイで確認すると追込が『S+』で差しが『C-』となってしまっているのです。
担当トレーナーが不在のまま走り続けることになった悪影響により可能性が狭まるという悲しい現実について嘆くのは後回しにするとして、ともかくゴールドシチーがミスターシービーのウマ娘カメラの映像を体験しても経験値としては微妙な手応えしか得られないでしょう。
なので貴方はゴールドシチーに「お前自身が本気でソレを望むのであればモデル業とGⅠ勝利も両立できるだろうが、ミスターシービーを参考にするのは止めておけ」と、それとなく注意を促すことにしました。
「へ? あ、どうも……じゃなくて! クラスの子たちが、シービー先輩の走りを体験したいって言ってて。トレーナーさんは知らないみたいだけど、結構前からシービー先輩に憧れて真似してる子たちがいて──」
次回はシービー視点再びです。