貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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特に意味のない日常会話の時間。


『あるがまま』

 ミスターシービーは自他ともに認める『自由』を是とするウマ娘である。

 

 その在り方故にトレセン学園の教員や教官のほか、生徒会役員や風紀委員からなにかと小言を頂戴することが度々あった。

 しかしそれも過去の話。クラシック三冠ウマ娘として実力を示したミスターシービーに文句を言える者などそうそういるワケもなく……と、いった流れが自然なのかもしれないが残念ながらそんなことはない。

 

 小言が減った理由は至ってシンプル。ミスターシービー以上に自由なトレーナーが現れたからだ。

 

 最初は熱心なスカウトから逃げるためにお世話になり始めたはずが、メイクデビューを果たすころにはすっかり彼のトレーナールームに入り浸るようになっていた。

 とはいえ、それは彼と担当契約を結んだという意味ではない。ただちょっとだけトレーニングにアドバイスを貰っているだけである。結果としてクラシック三冠を勝ち抜いてしまったというだけで。

 

 あとはせいぜい、トレセン学園の外でも少しだけ関りがある程度のモノ。例えば、何人かのウマ娘たちと一緒に休日の早朝ランニングをしているときに突発的に“朝ラーメン”を食べたくなったときに案内してもらったりなどである。

 どうやって朝から営業しているラーメン屋を探そうかと相談を始めたところに「市場なら食事処もやってる」とスマートに案内してくれたおかけで無事美味しいアジフライ定食を食べることができたのだ。

 

 

 え? ラーメンはどうしたって? いやぁ、となりのテーブルでね、市場で働いているウマ娘のお姉さんがメンチカツサラダセットを食べているのを見たらみんな口がすっかり揚げ物になっちゃって。真面目にラーメンを注文したフラワーが「えぇ……?」って顔してたけど、それ見たトレーナーが自分も注文をラーメンに変えてフォローしてたから大丈夫だよ! 

 

 

 ともかく。

 

 本気でレースに臨み、本気で勝負を挑み、本気で走ることを楽しむことができる友人兼ライバルたちとの学園生活をミスターシービーは満喫している。

 そこに目を離さなくてもナニを仕出かすかわからない愉快なトレーナーが隠し味のスパイスをひとつまみ……いや、ひと握り? 大さじだと思ったらお玉山盛りのときもありまったく隠れていないときもあるが──ともかく彩りを添えて……添えて……うん! 添えてくれているね! じゃなくて、添えてくれているのだ。

 

 

 で。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「いやぁ、マルゼンのウマ娘カメラはなんにも参考にならなくて逆に面白いね! あぁ、でも自分の走りとは違うリズムのスピードを感じるのは思ったよりも楽しかったよ」

 

「ふふっ、ありがと♪ シービーのカメラもスリリングで楽しかったわ! 前を走ってる子を追い越そうとするときに、いろんな方向にまるでダンスをしているみたいに画面が動いたりとか……今度オフロード用の車種でも調べてみようかしら?」

 

 自分たちが活用するかどうかは別として。否、そもそもふたりの頭には「トレーニングに関することは取り引き中のプロフェッショナルに丸投げしとけば最善策」という前提があるため本当の意味で“お試し”でしかなかったワケだが、とりあえず楽しむことには成功していた。

 だがしかし。十中八九、彼女たちがもう一度自分たちの映像記録を確認することはないだろう。すでに()()()()スタイルは完成しているし、距離適性を広げるにしても肝心のトレーナーが“勝つための走り”よりも“そのウマ娘らしい走りで勝つには”という前提を当たり前のように絶対条件として設定しているので、いまさら意見を交わす必要がないのだ。

 

 とはいえ。

 

 後輩ウマ娘たちにとって憧れの対象であるふたりのウマ娘カメラによる映像記録は是が非でも体験したい代物であるのもまた事実。

 案の定というべきか、ミスターシービーもマルゼンスキーも自分の走りを体験したいというならご自由にどうぞどうぞと特に恥ずかしがるようなこともなく公開している。

 

 憧れ云々は別にしても、追込の位置から前を走るウマ娘たちの挙動を確認できるミスターシービーのウマ娘カメラは非公式チーム・ポラリスの自称メンバーにとっては立派な教材として扱われていた。

 単純に、差しや追込で走るウマ娘から見た逃げ・先行組の様子というのは得るものがたくさんある。自分ではそんなつもりはなかったのに、レース中に何度も何度も後ろを確認するせいで加速が不充分であることを自覚したり……など、問題点が洗い出されるからだ。ポラリスの他称トレーナーによって。

 

 

 そして。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ふ~ん、私の真似をする後輩たちが増えている……ねぇ。言われてみれば“自由”って単語を楽しそうに呟いてた子たちがいた気がするかも。んー、ここは消しちゃえ」

 

「チッ! 嫌なタイミングでやりやがる……。十中八九そいつらのことだろうな。俺もシチーから聞かされるまで正直どうでも──いや、まぁ、似合わねぇ追い込みやってるヤツいるなとは不思議に思ってたが。ここだッ!」

 

「おや、こうきましたか~。別に私のウマ娘カメラの映像を見たいっていうならご自由にどうぞ、ってのは変わらないけれどね。彼女たちが私の走りに憧れるのも、それを真似してみるのも自由なんだから。ここで4列どーん!」

 

「くッ! 棒ブロック如きに……俺は認めんぞ……ッ! まぁそりゃそうだ。仮に自由だ自由だっつって、それで授業サボって成績落ちたとしてもそいつらの自己責任だし、それでお前に文句言うのはお門違いってヤツだ。でもバンブー辺りは頭抱えてるかもしれねぇから話ぐらいは聞いてやれよ」

 

「それぐらいならお安いご用だよ。というか、何人かの子たちから言われてるんだよね。ほっといていいんですか~って。別に私が困らされてるワケでもないし、楽しんでるところをわざわざ水を差す必要なんてないじゃない? ……お、Tスピンダブル~からの~トリプル~♪」

 

「バカなッ! 消しているハズだッ! 相手の画面からお邪魔ブロックが逆流して──ぐぁぁぁぁッ!?」

 

 

 この呆れるほどに見慣れた光景についてポラリストレーナーのルームに出入りしているウマ娘たちは口には出さないものの全員が同じことを考えていた。

 こうした頭を使うタイプのパズルゲームなどでミスターシービーに3桁を超えるほど完全連敗しているのに、どうしてトレーナーはいつも無駄に自信に満ち溢れて勝利宣言という名のフラグを立てるのだろう……と。

 

 どうせならカードゲームなど運要素が絡む勝負を挑めばいいのに。ポラリストレーナーの幸運体質は筋金入りであり、とあるカードバトルのイベントにて強さではなく自分の好きなカードでデッキを組んだ小学生が本気の大人にバカにされながら追い詰められ泣きそうになっているところをスッ……と静かに手札を奪い「ここからは俺のターンだ」と宣言してからの鮮やかな無双ぶりは冷えきっていた会場を熱狂と大歓声で満たすほどであった。マナーに関する問題はそれはそれとして丁寧にロジカルな戦術を組んでいるデュエリストは泣いていい。

 

 

 さて、もちろん最も付き合いの長いミスターシービーはトレーナーがとってもラッキー男であることは知っている。知っていて、無謀な戦いを挑んでくるトレーナーの姿を眺めるのを楽しんでいるのだ。

 

 

 毎回言い訳もできないレベルできっちり負けているはずなのに、常に自分の勝利を疑わない自信に満ち溢れた態度はどこまでも『自由』であった。

 中央トレセン学園には良くも悪くもマイペースなウマ娘は大勢いるが、自分らしく人生を楽しむという意味では彼に勝てる者はいないだろう。

 

 ダートを走るウマ娘たちがたまには気分を変えて練習したいなんて迂闊なことを言ってしまったせいで、トレセン学園にメイダンレース場が再現されたときなどはちょっとしたお祭り騒ぎになっている。

 

 

「……。フッ、この俺をここまで追い詰めるとはな。さすがは三冠ウマ娘だと褒めてやろう」

 

「お褒めの言葉、身に余る光栄でございますミスタートレーナー。じゃ、潔く敗けを認めたところで約束通り売店の限定プリン買いに行こうか? そういう()()()()だったからね!」

 

「いいだろう、そういう取り引きだからな。フッ……」

 

 だからなんで何度も何度も負けておごる側になってるアンタが得意気な表情してるんだ? そんなウマ娘たちの疑問もいつものことである。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 購買部に向かう途中、ふと外を見れば後輩のウマ娘たちがトレーニングをしている姿が目に入る。実にトレセン学園らしい光景ではあるのだが、どうにもトレーニングの動きが不自然と言うべきか……ミスターシービーの感性が歪であると告げていた。

 なんとなく、だ。根拠などは特にない、本当になんとなくそう感じただけ。だがどうしてもあのウマ娘たちにはもっと適した走り方というか、もっと自分らしい走り方があるのではないかと背中の辺りがザワついてしまう。

 

 はて、この違和感の正体はなんだろな? と自分の中に芽生えた疑問に対して好奇心のままに踏み込んでみれば──あぁ、そうか。アレが噂の真似っこウマ娘たちなのかと無事納得を得ることができた。

 

「トレーナー。ほら、アレ」

 

「あん? ……あぁ」

 

 予想通りの反応である。さきほどは似合わない走りなどと曖昧な表現をしていたが、彼の価値観を考えれば……苦虫を噛み潰したよう、とまではいかなくともやはり気分の良い光景ではないらしい。

 難儀なことだ。基本的にウマ娘側からのアクションがなければトレーナーは口出しをすることはほとんどない。まして、本人が楽しそうにミスターシービーを模倣しているのだから尚更だろう。

 

「いいの? ケガとか」

 

「……少なくともまだ。そもそも本当に危険なら俺よりも先に教官が止めるだろ。たぶん。あるいは、そーゆーのが切っ掛けでトレーナーからのスカウトにつながる可能性だってあるさ」

 

「誰も声をかけなかったら?」

 

「ハリセンでしばき倒して意識刈り取って先頭民族とフワフワ星人に『コイツらお前らの同類だから』って押しつける。大丈夫だ、問題しかないがマイナスとマイナスをかけ算すればプラスになるから」

 

 あとで追加の黒ジャージを購入することについて、たづなさんにまた相談する必要がありそうだ……とは当然声に出したりはしない。なぜなら黙っていたほうが面白いから。

 

(それにしても……ふ~む~?)

 

 人は人、自分は自分。価値観とは押しつけてはならないし、否定もしてはならない。そういうスタンスを大切にしているはずが、どうして自分を真似るウマ娘たちの姿に心がざわついたのか。

 

「しかし、アレだな」

 

「うん?」

 

「お前に憧れて真似をするのはいいが、あのウマ娘たちはそれで自分たちが自由になったと思ってンだろう?」

 

「らしいね。それがどうかしたの?」

 

「なに、自由を感じるためにわざわざミスターシービーの背中を追いかけなきゃならねェなんてよ。そいつは──」

 

 

 

 

 

 

「なんともまぁ、()()()()()()()どもだと思ってな」

 

 

 

 

 

 

「……なるほど!」

 

 言葉の説得力とは誰が発言したかで変わる。知識としては知っていたが、ここまでわかりやすい実例とはなかなか巡りあえないことだろう。




デュエリストの魂であるカードを奪い……ッ! 勝負の見せ場も奪う……ッ! まさに悪魔的所業……ッ! クズの発想……ッ!
SNSで拡散……ッ! 大炎上確定……ッ! アンチスレは盛況となり、とどのつまりトレセン学園からの追放は……加速……ッ! 確実……ッ! 悪魔的悪役転生者……ッ!


続きは雪の量が本格化する前に、次はエアグルーヴの未勝利戦→阪神ジュベナイルフィリーズまでの流れをおつまみ感覚でサクサク進行になります。

メイクデビュー? アプリをプレイしよう!
(雑な宣伝)
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