貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
(なおその場合の食料消費量)
「そういえば、貴方のエアグルーヴ──あぁ、失礼? 貴方が取り引きしているウマ娘のひとりよね、フフッ♪ えーと、それで。メイクデビューでエアグルーヴに勝ったウマ娘ちゃんと新人くんいるでしょう? アレ、放置していいのかしら? 良くも悪くも絶好調みたいだけれど」
ある日のこと、ルームにやってきたミホノブルボンとサクラバクシンオーを担当する女性トレーナーから貴方へ向けてこのような発言が投げかけられました。
彼女のように真っ当なトレーナーが悪役トレーナーである貴方のルームにいったいどんな用事があって足を運んだのかというと、担当するウマ娘たちの脚質改善のためのトレーニング相手に最適なウマ娘たちを誘うためです。
ミホノブルボンの併走相手はもちろんライスシャワーが引き受けます。特になにかを取り引きした覚えはないライスシャワーですが、思いつきという諸事情により豊富に蓄えられている海外の絵本がお目当てでルームに出入りしてるようです。
本好きでお馴染みのゼンノロブロイはもちろんのこと、エイシンフラッシュやグラスワンダーなどの協力を得て物語を読み解く作業のついでに貴方が監督するトレーニングにも参加しているため、ライスシャワーを探すのであれば貴方のルームを覗くのが一番効率的なのでしょう。
サクラバクシンオーの併走相手は現在はタイキシャトルがメインのようです。中距離路線の前にマイルで結果を残してから徐々に適性を高めていく方針とのこと。
もちろん貴方はタイキシャトルとも取り引きをした記憶が存在しませんが、お肉を焼くタイミングでいつの間にか参加しているのを放置しているうちにこうなってしまった様子。しかし彼女は集中力に課題がありますので、飽きればそのうち自然と離れるので問題ないと貴方は考えたようです。
つまり、この女性トレーナーが悪役トレーナーである貴方のルームにやってくることは不自然なことではありません。視界の隅っこで今回の話とは特に関係のないシャドーロールの怪物が勝手に戸棚を探ってビーフジャーキーを取り出しているのもいつものことなので気にしなくて大丈夫です。
と、いうワケで。エアグルーヴに勝利したコンビの話題に戻りますが、物事には『波』というものがあるのだから勝ちの勢いに任せて調子を上げるのは決して悪いことではないのでは? というのが貴方の素直な感想です。
「そうね、本来なら微笑ましい光景なのかもしれないわ。でも『勝ちウマ娘の走り方をコピーすれば楽に勝てる』なんてこと得意気に言いふらすのはお行儀が悪いと思われても仕方ないのではないかしら?」
それはそれでかなりの努力が必要だろうに……と思いつつも、たしかにそれを聞かされた周囲のウマ娘たちはリアクションに困りそうだと貴方は問題点を理解しました。
実力者の模倣はトレーニング方法として真っ当な手段であり、それはミスターシービーの真似をすることを自由に振る舞う免罪符にする行為とはまるで意味が違うことでしょう。
しかし、結果を出すことができたからといってその方法を盲信するのはあまり褒められたものではありません。なにより、そのウマ娘が本来持っているはずの魅力がファンに伝わらないという致命的な欠点が存在します。
とはいえ。勝ちたいから手段を選ばないという気持ちは理解できるものの、他者の走りを真似ることへのウマ娘たちの感性について貴方は詳しくありません。
以前にも別のウマ娘の走り方を真似して重賞レースをいくつか勝利したにも関わらず歯を食い縛り窮屈そうに走り続けているウマ娘がいました。
どうして苦しそうな思いをしてまでそんな走り方を続けるのか気になった貴方は興味本位で「心を濁してまで誰かを演じ続けて駆け抜けたゴールの先にはどんな景色が見えている? それはお前が自分自身の脚で最初の1歩目を、夢を見てトレセン学園にやってきたときと同じモノなのか?」と聞いたことがあります。
残念ながらそのウマ娘から返答は得られませんでしたが、ある日突然なぜか結果を出していた芝のマイルからダートの中距離へと路線を変更。もちろん大きく勝手が変わりますので戦績は目も当てられないほどボロボロになりましたが、それと反比例するかのように砂と泥で汚れた顔は活力で満ち溢れています。
知りたかった情報は得られなかったものの、貴方としては嫌われ者である自分ではウマ娘の心情を聞き出すことなど望めないと諦めていましたし、そのウマ娘が自分らしく楽しそうに走る姿を確認できたので脳内では事実上目的が達成されたことになっているようです。
日頃の行いの悪さ故にそのウマ娘の心の声を聞くことは叶いませんでしたが、代わりにウマ娘たちの走ることへの信念を知ることはできました。
結局のところ、目先の目的のために表面的な部分を偽ることはできても己の在り方を定める心の芯を裏切ることはできないのでしょう。
もちろん貴方はそのことについて迂闊に声に出すようなことはしません。
悪役トレーナーとしての在り方を常に心がけている貴方は、どれほど些細なことであろうともウマ娘に対して前向きな発言をしてはならないと誓いを立てているからです。
貴方は女性トレーナーにひと言「言葉を選ばなくても、走りで示せることもある」と適当に誤魔化すことにしました。
雑な手段で会話を切った貴方の態度に女性トレーナーは呆れたように苦笑いを、ウマ娘たちは荒唐無稽な発言で逃げる様子を見てニヤニヤしているのでした。