貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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こもりうた。

 エアグルーヴの目標レースは阪神ジュベナイルフィリーズに決定しています。それは別に問題ないのですが、時期的な都合により生徒会の仕事が増えてしまうのもまた事実です。

 もちろん貴方はそのような事情に配慮などするつもりはありません。悪役トレーナーらしく「夜なら時間があるだろう。走れ」と必要なトレーニングは夜間練習で補うことにしました。

 

 時間的な問題が解決するのはもちろんのこと、夜間練習にはさまざまなウマ娘が参加しているため併走相手にも困らないというメリットがあります。

 特に説明することはない未来のGⅠウマ娘ふたりのほか、アイネスフウジンなどのアルバイト帰還組、追試や補習などで放課後まで頭を抱えていた頭バクシン教徒たち、日中に用事が重なったため充分な練習ができなかった不完全燃焼ランナーズ、単にウマ娘たちの走る姿を見て興奮している変態など、実にバラエティー豊かなメンバーが揃っています。

 

 ほかにも真面目に練習するのはダサいと悪ぶっていたもののクラスメイトたちに模擬レースで大敗するという当然の結果を叩きつけられ焦った不良ウマ娘たちに泣きつかれたシリウスシンボリが、担当する老婦人トレーナーの許可を得て参加していました。

 アプリではそうしたサボり組をタマモクロスが気にかけるイベントなどもありましたが、この世界では「のっぴきならん事情があんならともかく、走れるのに走ろうとせん連中をなんでウチが面倒見てやらなアカンねん。そないなヒマなんぞあるワケないやろ、重賞やないオープン戦ですら肝っ玉冷えるような走りしてくるヤツおんのに」と自分のことで精一杯の様子。

 

 日頃は悪のカリスマのように振る舞っておきながら助けを求められたら結局手を差し伸べてしまうシリウスシンボリのお人好しぶりを嘲笑いつつ、貴方はいつものようにウマ娘たちの走りを見ながらトレーニングプランを臨機応変に修正しつつ指示を出しています。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ウマ娘の人数が増えたことによるリスクなどを考慮してけっぱり運輸とカワイイ宅配便を筆頭とする指定輸送業者たちに早目に特殊貨物を託した貴方は、トレーニングプランの細々とした調整をするためにルームへと戻っています。

 消灯時間までまだまだ余裕があることから何人かのウマ娘たちが残っていますが、仮に彼女たちの帰りが遅くなりペナルティを受けることになったとしても悪役トレーナーである貴方には関係のない話です。そもそも寮長のひとりであるヒシアマゾンがこの場にいるので貴方が注意する必要性がありません。

 

 ソファーの上でゴロゴロしながら「トレーナーく~ん、紅茶を淹れてマッサージをしておくれよ~」とのたまうウマ娘に脇に抱えていたピンクボムをブン投げた貴方は早速作業に取りかかりました。

 

 

 そしてしばらく。

 

 

「おい」

 

 適当に後始末を済ませたエアグルーヴが“今日はもうこれで終わるから修正したトレーニングプランをよこせ。寝る前に頭の中に叩き込んで明日のトレーニング開始までイメージを作り上げておく”といった表情でやってきます。

 もちろんチート能力をフル活用し日々の自己研鑽を怠らない貴方はその程度のことなど簡単に読み取ることができますが、担当契約をしているワケでもないのにウマ娘側に気遣う理由などありませんので無言のまま手渡して終わるだけです。

 

 

 ですが凡庸なトレーナーと違い閃きに優れた貴方は「もしかして相手が弱っているタイミングで攻勢をかければ効果的なのでは?」という素晴らしく画期的な戦略を思いつきました。

 

 

 レースまで多少の時間的余裕があるいまだからこそ、暴言のひとつやふたつ叩きつけたところで出走までメンタルを整えることなど容易いことでしょう。

 なにより相手はエアグルーヴです。これから様々なレースで活躍する可能性を秘めた『女帝』なのですから、自分程度の言葉にいちいち反応して動揺するようでは困ると貴方は考えているようです。

 

 エアグルーヴがプランを受け取る直前にヒョイッと引き戻した貴方は「次のレースはギリギリの勝負になる。泥臭い競り合いにこだわらず、潔く敗けを認めるのも姿勢としてはアリだ。お前の目標はあくまでオークス制覇なんだろう?」とわざとらしい挑発をしてみせました。

 

 もちろん貴方はエアグルーヴのレースに挑む姿勢を理解していますので、このような諦めを前提とするかのような提案を彼女が受け入れるはずがないと確信しています。

 ですが心情がどうであろうと余計なひと言が神経を逆撫でするのは紛れもない事実です。このような下らない言葉でも自分のような悪役トレーナーであれば相乗効果でさぞかし相手を苛つかせるに決まっていると盲信しています。

 

 

 案の定、エアグルーヴは一瞬だけキョトンとするとこれまたわざとらしく深い溜め息のあとに「下らん質問をするな、たわけ」と言いながらジト目で貴方から改良トレーニングプランを奪い取りました。

 

 

 その態度から新たな戦略がヘイトコントロールに有効であると判断した貴方は上機嫌となり、ヒシアマゾンがウマ娘たちのために用意していたであろうサンドイッチをひとつ強奪して「エアグルーヴの阪神ジュベナイルフィリーズはしっかり見ておけ。いずれお前も勝つ予定だからな」と適当にプレッシャーを与えることも忘れません。

 悪役トレーナーとしてまたひとつ武器を増やしてレベルアップしたこと、そしてサンドイッチの中身が偶然にも食べたいと思って呟いていたモノと一致していることに大満足の貴方は今夜もぐっすり眠れることでしょう。




次回は賢さGとエアグルーヴにメイクデビューで勝利した新人コンビ視点です。
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