貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
最近寝不足なのも!
育成待ちのウマ娘が増えたのも!
全部! すべて! みんな!
なにもかも、Steamが“えいじおぶえんぱいあ”とかいうゲームをあなたにオススメ(セールで500円でした)してきたせいだ!
†前回のあらすぢ†
宿命のライバルであるソウラ礼とのカレー対決に敗北した戦士アバオ亜空は北海道西区発寒を経由し滋賀県にあるGカップ島で傷を癒しながら人類の進化を待っていた。
そんなある日のこと、最寄りの市役所に公共料金としてボソンジャンプ代4752円を支払うために立ち寄ったところ、財布の中に1万五千円しか残っていないことに気づく。
咄嗟の機転で自分は頻尿であるということを告白してその場を乗り切ったアバオ亜空であったが、その代償として草タイプのモンスターが闊歩する谷間を徒歩で通勤することになってしまう。
無事に職場にたどり着いたものの、集められた同人誌の表紙をフルカラーにするためには大量のビデオテープを加工しなければならない。果して戦士の戦いに終わりはあるのだろうか、孤独な夢を追いかける旅が新たに始まろうとしていた……。
(※BGM:金獅子姫戦のヤツ)
◇◇◇
日本文化を愛し、自らも大和撫子として恥じないウマ娘になるため日々の研鑽を欠かさないグラスワンダーにとって、伝統行事や神事への参加は望むところである。
山の神へ感謝を捧げるお祭りにて開催される奉納レース、それもポラリストレーナーにより結ばれた縁ある地域となればグラスワンダーでなくとも協力を申し出るウマ娘はそれなりの人数が集まった。
日頃あれだけ自由に振る舞っているポラリストレーナーであるが、どうやら彼の中ではこうした行事は特別らしい。トレセン学園でもターフやダートへ感謝の気持ちを、といった目的のイベントがあるのだが……それらに参加するときは別人のように雰囲気が変化する。
多少は見慣れた杖と和装の組み合わせのはずが、全く隙の見当たらない厳格で威風堂々とした立ち姿。戦国時代にウマ娘のトレーナーとして活躍した武将たちとはこのようなものだったに違いないと想像させるほどのオーラを纏っていたのだ。
感受性豊かな一部のウマ娘などは「なんかポラトレさんの後ろに学園で見たことない黒髪のウマ娘と金髪のウマ娘立ってなかった?」といったイメージまで見えていたらしい。
ともかく。
縋ることもなければ祈ることもしない、しかし敬意を払うことを忘れてはならない。そんな彼のスタンスを普段お世話になっているウマ娘たちが尊重したいと考えるのも不思議なことではないだろう。
なにより山間部に作られたコースは自分たちも練習に使わせてもらっている。最初はポラリストレーナーと数人のウマ娘たちで整備を始めたが、せっかく使うならと地元の皆さんも協力して走りやすいようにと環境を整えてくれたのだ。その恩返しと思えば祭事に参加しないという選択肢は無い。
ひとつ、残念なことがあるとすれば……縁を繋いでくれた本人が不在ということだろうか?
少々、いやだいぶお行儀と素行のよろしくない連中に目をつけられたウマ娘からの相談。本人はいたって真面目な子なのだが、真面目だからこそ警察などに相談して大事になれば大勢に迷惑になるのではと考えてしまっていた。
気持ちは理解できる。詳しい状況はわからないが、自分ひとりの責任で済むのであればともかく、もしも同期のみんなに迷惑が及ぶ可能性が高いとなればグラスワンダーとて冷静に一歩退くぐらいのことは……ぐらいのことは……できる、はず?
なんにせよ。
「どんな世界にも秩序があり、越えちゃならねぇラインってモンがある。ギリギリの見極めに失敗したなら、それ相応のペナルティを支払うのがルールってモンだ。なぁに、前にも少しばかりトラブルがあったが『いいだろう、全員まとめてかかってこい。そんなにヤンチャがしてェなら、ひとり残らずお尻ペンペンしてやる』ってよ? 小学生が棒キレ振り回すみてぇにナナハン担いでやがったからな。みぃ~んな背筋を伸ばしてイイコになってたぜ?」
「マジか。まぁいつものことだけどよ、相変わらずトレピのヤツは簡単にヒトミミ辞めてんな。本気でドロップキック食らわせたらコッチの蹄鉄が砕けんじゃね?」
そのお仕置きに使ったというななはん? という道具がどういうものかは知らないが、アウトロー気質でお馴染みのナカヤマフェスタが問題ないと言い切るぐらいだ。どんな手順や手段で解決するのかはともかく、少なくともウマ娘たちにとって最良の結果になるように動いてくれることだろう。
◇◇◇
巫女の役目を完璧に遂行したマチカネフクキタルが「あれは本当にフクキタルなのか?」「URAで働いているという姉とすり変わった?」「まさか山の神の祟りか!?」などと好き勝手に言われてフンギャロした以外は特別なにかトラブルなども起きず、奉納レースは無事終了した。
日本の伝統に触れる貴重な体験、それはもちろんグラスワンダーにとってはとても喜ばしいモノではあるのだが──それはそれとして、地元の皆さんが振る舞ってくれるという料理に興味がないワケではない。まだまだ成長期のアスリート女子学生、やはり美味しいものを食べたいという自分の心を偽ることは容易ではないのである。
少し走ればコンビニやホームセンターがある文明感、しかし田畑が段々と広がる自然の豊かさも共存している。先入観と指摘されればそれまでの話だが、この“いかにも”な自然の中で育まれた食材となれば期待もしたくなるというものだ。
「おめぇさんだぢみでぇな若ェ娘っこさ食わせんのもどうがって話もあったんだげどよ、これも貴重な経験だってあのトレーナーさんがら言わってっから。さすがの中央トレセン学園でも猪肉なんてそうそう食えねぇってな! ──うん? いやいや、鉄砲だど火薬の音と臭いで山の動物だぢが全部逃げちまうがらよ、こう……真っ直ぐ突っ込んできたどごろば横さよげでな? 指先ばグッ! と入れで紐ばプツンッ! と切ればよ? さすがに熊なんがはオレも年取ったから狙うのはちと手間だげんと、猪ぐれぇどうってごどねぇべ」
紐を切る、とは猟師が野生の獲物を仕留めるための罠かなにかのことだろうか? 正直それにも興味はあるのだが、まずは調理を手伝うことを優先する。
地元の皆さんはトレセン学園からきたウマ娘たちのことをお客さんとして迎えているため、まさか奉納レースを走らせておいて……などと遠慮していたが、それはそれ。猪肉を、いわゆる“牡丹”を使った料理ともなれば下拵えひとつ取っても気になるというものだ。
まずは猪肉を洗うために果汁を絞るところから。ウマ娘パワーの前では柑橘類などマシュマロと大差無く、甘酸っぱい香りの前に葛藤する一部のウマ娘以外はサクサクと天然物のフルーツジュースを量産する。
これでお肉を洗うというのだからなんとも贅沢な下拵えである。当然お肉の臭みが溶け込んでしまったフルーツジュースは全て破棄されるとのこと。野生動物が臭いに誘われて縄張りを越えてこないように、と説明されればもったいない精神も本日ばかりはお休み願うしかない。
大量の牡丹をジュースで揉んでいる間に、今度はニンニクをアルミホイルで包んで焚き火で焼いておく。よほど奉納レースを催すことができたのが嬉しいのか、ご年配の……つまりはお爺さんたちがソレをつまみ食いしながらすっかり鼻先を赤らめて大笑いしていた。
比較的若い世代はその様子に「お客さまが、それも学生さんたちが大勢協力してくれているのに!」と呆れている。だが、説教を始めるよりも早くお婆さんたちに「みっともない姿なのはその通りだが、今日だけは見逃してくれないか?」と優しく──そして、ほんの僅かに寂しそうに頼まれたのでは強く言えないようだ。
「さぁて! 下拵え完了だよ! いやぁ、手伝うつもりが逆にイロイロ教えてもらっちまったよ。忘れちまわないよう、学園に戻ったらさっそく試してみないとねぇ!」
「ヒシアマ先輩、コレ写真とってもいい? お土産の代わりに見せてあげようと思って☆」
「お土産って……奉納レースとか楽器鳴らしてるところじゃなくて、こんな山盛りにされた生肉をかい? 料理されたヤツならともかく、こんなものいったい誰に見せようって────あ」
日本文化を愛するグラスワンダーとしては囲炉裏を使った食事も体験してみたかったのだが、帰りのことも考えれば時間がかかりすぎると諦めるしかなかった。
しかし、ガスコンロであろうとも目の前に土鍋がふたつ並べば気持ちもしっかり切り替わるというもの。少量のこめ油に浮かぶトウガラシとネギからパチッ……パチッ……と音が聞こえ始めれば、胃袋はすっかり食事気分に高まっていた。
「えぇと、このネギを使って油を全体に塗ればいいのよね……。ふふん! この程度、茹でタマゴを完璧に作れるキングにとっては造作もないことよ! グラスさん、そちらの鍋をお願いしてもいいかしら?」
キングヘイローに渡された菜箸を受け取り、油を吸って香ばしい色合いで装飾されたネギを摘まむ。お肉を焼くための下準備、ただそれだけのことなのに心が弾むのを恥じる──のは、美味しいものを食べさせたいという心遣いに対して失礼だと自分に言い訳をしながら。
お味噌で下味をつけられたお肉を鍋肌に張りつけるようにして焼き始めれば、網焼きやホットプレートとはまた趣の違う音が耳に届き心と食欲をくすぐってきた。
それにしてもお肉に植物の名を冠することは知っていたが、改めて向き合うとそういう部分はやはり日本ならではだと感心してしまう。ほかにもそのような呼び名のお肉があるのだろうか。……なんとなく深く考えるのはあまり褒められた行為ではないと頭の中で理性がささやいてくる気がして、グラスワンダーはお肉に意識を戻した。
両面を丁寧に焼き、ひと口。
第一印象の素直な感想としては、予想していたような臭みが無いということ。しかし市販の豚肉とはまったく違う、独特のクセはある。
否。これは単なるお肉の種類としてのクセではなく、野生の……厳しい自然の中で生きてきたが故の味わいなのかもしれない。
牡丹の味とはこういうものかと、それを堪能すれば次に口の中に広がるのはお味噌の味。
塩とも、ソース類とも違う、柔らかく広がる風味は例えるならば先行を得意とするステイヤーだろうか。
黒糖と味醂によるトロリとした甘味と、丁寧に加熱したことで辛味が無くなったニンニクの香り。そこに油に溶け込んだネギの清涼感とトウガラシの刺激が少しだけ顔を出す。目の覚めるような驚きとは違う、ひと口でなるほどと納得させる旨味。
これを白米で受け止めること、なんという充実感だろうか。ハンバーグやカツレツのように華やかな肉料理と比べると、穏やかに空腹が満たされていくような気さえしてくる。ご飯とお味噌汁だけでも食事として完成する和食の世界で、お肉を具材とした味噌料理はやはり格が違うということなのだろう。
さて、これだけでも充分なご馳走として完成しているのだが……鍋は、もうひとつ存在する。
お醤油の味わい、ハッキリとした輪郭が見える香り。それをひと口食べた瞬間、口の中を縦横無尽に駆け抜ける旨味はさながら追込のスプリンターが最後の直線で見せる最高の加速を彷彿とさせる。
こちらは白米で迎え撃つ、とでも言えばよいだろうか。お行儀の良し悪しという意味ではあまり褒められた行為ではないのだが、お肉から滴るタレの雫がポタリと彩ったご飯にお肉そのものを乗せて頬張った瞬間の“してやったり”という感覚は何度体験しても飽きることがない。
お肉と、ご飯。
言葉にすればあまりにも飾り気のないシンプルな食事かもしれないが、それがさまざまな創意工夫と食材の調和により実に文化的なモノへと昇華しているのだ。
そして。
「ン~♪ このワイルドなお肉の美味しさ、まさに世界最強たるエルに相応しい料理で──アレ? セイちゃん、どうしたんデスか?」
「ん~? ま~ホラ、焼肉もいいんだけど、ここで食べ過ぎると次のお楽しみが減っちゃうかなと思いまして」
これは、ただお肉を焼いて食べるだけの食事ではない。
ある程度食べ進めたところで追加のお野菜と一緒に運ばれてきたのはお味噌汁、ではなく鍋料理の本丸であるスープ。
お肉とお野菜をそのまま土鍋で炒め、そこになみなみとスープを注ぎ、蓋をしてしばらく待てば、さきほどまで焼肉だったモノが牡丹鍋へと進化する。
ただお肉だけを焼いているときとは違う豊かな香りが辺り一面に漂い始めた。滋味深い、山野の恵みによって織り成された食欲をそそる香りはトレセン学園のカフェテリアでもそうそう体験できるものではないだろう。
だが、忘れてはならないことがある。
お味噌仕立ての鍋はそれはそれとして──
主役となるお肉はもちろんのこと、そこに白菜、にんじん、ネギ、しらたき、焼き豆腐、椎茸などの追加の具材が投入される。
それはつまりこれからこの土鍋が『すき焼き』として装い新たに目覚めるということであり、味噌仕立ての牡丹鍋が完成するまでそれを食して待つということでもある。
贅の極み? 否。それは食材と真摯に向き合い最も美味であると断言できる食事のスタイルを突き詰めた結果に過ぎない。
善意によるおもてなしの心を、ただ贅沢だと評価するのは和の心に反するモノであると理想の大和撫子を目指すグラスワンダーは考える。
まぁ、少しだけ和の心とは別に……オーダーメイドのように馴染んだ作務衣姿ですき焼きの支度を手伝うスーパークリークとニシノフラワーを、人の物を欲しがることがはしたないと知りつつも羨ましいと思いもするが。
醤油の香りと共にふつふつと鍋が鳴き、すき焼きが食べ頃を教えてくれる。
すき焼きとは鉄鍋で調理するという先入観を真っ向から両断された、それだけでも価値があるが……やはり料理とは見た目だけで判断するのではなく味を確かめてようやく完成するもの。
カツカツとタマゴを解きほぐし、数瞬の逡巡を経て──グラスワンダーは猪肉と一緒にネギを摘まむことを決めた。すき焼きもまた焼肉と同じお肉を主役とする料理ではあるが、すき焼きは焼肉とは違いお肉だけで完結させてはならないのだから。
割り下とタマゴの甘味。
ネギのシャッキリとした歯応えと醤油の香り。
そしてお肉のどっしりとした脂の旨味。
さて、これを知ってしまったのなら誰が山盛りの白米をモリモリとかきこむスペシャルウィークを窘めることができるのだろうか?
和食のお肉料理は数あれど、すき焼きのご馳走としての佇まいとご飯のおかずとしての風格に勝るものはどれだけ存在するのか。
お肉から滴る卵黄と割り下が白いご飯をまだら模様に染め上げる様子はお世辞にも美しいとは言えないハズなのに、その部分を食せば幸せが必ず得られるという確信がある。
ちょん、と一度。ご飯を軽く蹴るようにして弾みをつけたお肉とにんじんを頬張り、それをタレが染み込んだご飯で追走すれば……期待した通り、いや期待以上に口の中でウイニングライブが開催されたのかと錯覚するほどに美味しい。
ご飯と、お野菜と、お肉。
これぞまさしく食事の三冠。
「おぉ~? こっちのお鍋のほうもイイ感じかなぁ~。どれどれ……んふー♪ 焼くのと違って煮込むからもっとクセがあるかな~なんて思ってたけど、これならセイちゃんも美味しくいただけちゃいますねぇ~」
「メインもお肉で汁物もお肉と考えると、美味しさやおもてなしとは別にカロリーも無視できないわね。もちろんキングは無様に贅肉を抱えるようなことはしないわよ! ……えぇ、まぁ、そうね。出されたものを残さず食べるのも礼儀というか、感謝の形というか」
「いいんじゃない? 少しぐらい体重が増えても、トレーナーさんがスペシャルなトレーニングプランでキッチリ絞ってくれるワケだし。あの短期集中鬼スパルタなトレーニングも外から見てるぶんにはイロイロと参考になるんですよ、コレが。参加させられるのだけは絶対にイヤだけど」
お野菜の甘味をたっぷり含んだ味噌味の汁をひと口すする。
意識したワケでもないのにほぅ、と吐息がもれる。
さすがにこれを一汁一菜と呼ぶのは破天荒が過ぎるだろう。ご馳走にご馳走を重ねるなど、普段の食生活であれば決して実行しない……というよりも考えようとも思わない。
だが今日の催しは神事であり地元の皆さんの喜びと感謝が形になったもの。日本の神様はお祭り好きな性分であるとされていることからも、こんなときぐらいは派手に楽しく美味しいものを食べるのが大和撫子としても正解なのだ。
それにしても猪肉とお味噌の相性のなんと見事なものか。豚汁の系譜、畜産業として肥育されている豚さんも始まりは野生の猪であったことは知識として知っていたが、こうして五感を通じて体験すると食文化の歴史がより身近に感じることができる。
ごぼう、にんじん、大根といった根菜類も最初に炒めたからか充分な歯応えを残しつつ、ちゃんと汁を吸っているため一体感も申し分ない。
不思議なもので、同じ煮込む料理でも小鉢として出される煮物のように個として存在感があるワケではないのに、このお野菜たちがいなければ鍋は完成しないのだろうと思わせる確かな魅力があった。
途中、葡萄酒を使用したというカブのお漬け物で気分を切り替えつつ2種類の鍋料理を存分に楽しめば──山盛りにされていたお肉もお野菜もすっかり綺麗に片付いてしまう。
祭事ならではの賑やかな食事もこれで終わり、と思いきや。
「こここここちら〆のうううどどんでごごございましゅ──ッ!!」
少々挙動不審で、しかし幸せそうなオーラに包まれたアグネスデジタルがざる盛りのうどんを運んでくる。
焼肉から始まり鍋に進化した料理は、うどんというパートナーの協力を得て不死鳥のように再び食卓の空を羽ばたくのだ。
◇◇◇
「……少し、だいぶ、かなり、食べ過ぎデ~ス。ちょっと、美味しいからってペースが乱れ──けふっ」
ご年配の方々の騒ぎぶりからよほど嬉しかったのは想像していたが、自分たちデビュー前のウマ娘だけでなく現役でトゥインクル・シリーズを走っているウマ娘たちまで動けなくなるほどのご馳走が用意されているとは誰も想定していなかったに違いない。
何人かのウマ娘たちは腹ごなしに走りに出たが、大半のウマ娘たちは自分も含めて座布団を枕に畳の上でゴロリと横になっている。
仮にも世間様からエリート揃いと認識されている中央トレセン学園に所属するウマ娘がなんという体たらく、とはもちろん声に出したりはしない。これはあくまで宴のあとの余韻であり、それを叱責するのは無粋というものだからだ。
もちろん大和撫子たるを信条とするグラスワンダーは自身のキャパシティに見合った量を美味しくいただいている。少々、多少、それなりに? 食べ過ぎた感がないかと言われれば完全には否定できないというだけで。
少なくとも食後のコーヒーをゆっくり楽しむだけの余裕があるのは事実。山で飲むコーヒーは特別であるからとマンハッタンカフェを中心にコーヒー派がブレンドして持ち込んだソレは実に絶妙なバランスに仕上がっていた。
初めて遠目で見かけたときは良く言えば物静か、悪く言えば近寄り難い雰囲気だった先輩ウマ娘だったが、ポラリスのルームにお邪魔したときに優しいメロディーを口ずさみながらコーヒーミルを用意している姿を見てからは臆することなく挨拶もできる。
そしてルームに用意したコーヒーにアグネスタキオンが角砂糖タワーを沈めようとしたところをメガホンを使い軽快な打楽器として扱った姿を見てからは、とりあえずポラリスのルームに出入りをしている中等部のウマ娘たちから怖がられることは無くなった。
「失礼。ちょっと写真、かまわないかい?」
今回のイベントに取材に来ているメディアが月刊トゥインクルの記者だけであることはウマ娘側も知っているのに、わざわざ名刺を差し出してきたのはこの男性記者なりの誠意なのかもしれない。
マナーの悪いメディア関係者のせいで夏合宿が邪魔されたという話は聞いている。それでマナーを守って真面目に取材をして記事を書いている記者たちまで巻き込まれるのは如何なものかと考えたこともあるが……そもそも礼儀正しい彼ら彼女らにとっては学園側の対応が厳しくなったところで仕事への影響など微々たるモノなのだろう。
「おやおや。こんなメイクデビューもまだの中等部なんか写真に撮るよりも、GⅠレースでバリバリご活躍中の先輩方のほうがイイ記事書けるんじゃないですかね?」
「そっちは頼れる部下に任せているから問題ないさ。それに、こうして早いうちに未来のスターウマ娘に覚えてもらうことで今後の取材もスムーズにできるだろう?」
「フッフッフ……。さすが月刊トゥインクルのジャーナリストさん! 選抜レースを見るよりも早く、世界最強のウマ娘・エルコンドルパサーから溢れるオーラに気づいてしまったようデスね……!」
「でもいいのかしら? せっかく写真を撮影するのならトレーニング中とか、食休みでリラックスしているタイミングよりも走っている最中のほうが良いものが撮れると思うのだけれど」
「まぁね。でもそういう“画”はわかりやす過ぎて面白くないだろう? いまのキミたちは……こういう言い方は失礼だが、どこにでもいる学生ウマ娘の集まりにしか見えない。
名刺を取り出したときの真面目な表情とは真逆。きっと宝探しに夢中の男の子とは誰もがこんな顔をしているのか──あぁ、いや。トレーニングでも模擬レースでも、自分たちが走る姿を見てこんな顔をしているトレーナーがひとり身近にいた。
ならば断る理由もない。もとより月刊トゥインクルは記事も記者も評判が良く安心できるジャーナリストだと有名であるし、トゥインクル・シリーズを走る以上はメディアとも無関係ではいられない。こうして丁寧に対応してくれる相手で経験を積むのも悪くないだろう。
もちろん取材を受けると決めたからには全力で挑まねば無作法というもの。ジャージ姿ならばジャージ姿なりに身だしなみを整え、スペシャルウィークの立ち位置について全員で慎重に検討する。
「さて……そうだな、とりあえず普通の集合写真っぽい感じで1枚。それから、ちょっと強気な表情で何枚か頼むよ」
◇◇◇
「うん……うん……よし。いいね、ありがとう。満足のできる写真が撮れたよ。記事ができたらどうしようか? 学園にはもちろん許可を取るとして、キミたちも確認するかい? 中には出版されるまでお楽しみでよろしく、なんてウマ娘もいるけれど」
自分のことが書かれる記事、それも日本全国で発売される雑誌となれば気になるのも当然のことではあるが──。
お互いに顔を見合わせ、こくりと頷き合う。
「えっと……その、私たちも発売されるまで楽しみにしたいと思います!」
「ほぅ。理由を聞いても?」
「もちろん事前に確認をして、お互いに納得のできる記事が雑誌になったほうがいいのかもしれませんけど……でも、先に答えがわかっちゃうのって
「……くくッ。あっはっは! いいねぇ、メイクデビューもまだのウマ娘が言ってくれるじゃないか。いやまぁ、そんなキミたちに写真撮らせてくれって頼んだのはコッチなんだけど。任せてくれ、これでも長いこと業界でメシ食ってるプロなんだ」
生意気なことを言っている自覚はあるが、こればかりは本当にどうしようもないのだ。
先が見えないことなどお構い無しに、心のまま走りたい方向へどこまでも自分勝手に走り続ける先輩たちの姿を見てしまえばこうもなる。
勝ちたいという気持ち。
勝たねばならないという決意。
勝ちを譲るような甘い走りなど論外であるという覚悟。
だが、それ以上に──勝てるかどうかなどと考える余裕も無いほどの熱いレースを好敵手たちと繰り広げる、先の展開など予測できない最高の勝負を全力で楽しむ先輩たちの姿を見ていれば。
「そういえば記者さんは、なんでまた私たちにお声をかけられましたんで? 言っちゃあなんですけど、メイクデビュー前のウマ娘にしても高等部にいくらでも面白そうなウマ娘がいると思うんですよね~?」
「うん? そりゃ簡単な話だ。ちょいと顔見知りのトレーナーさんと今日のことでお話しする機会があってね。そのときに言われたのさ。キミたち5人が揃った写真には、黄金と同じくらいの価値があるってね」
ちなみに作者は翌日の朝に温めなおしたすき焼きを卵かけご飯に乗せて食べるのが好きです。七味唐辛子もふりかけちゃったりして☆
続きは他作品の更新をある程度進めてから、次のヘイト稼ぎ目標ウマ娘はナリタブライアンになります。
一応、来シーズンで高等部ウマ娘メインの話は区切りになる予定です。
中等部ウマ娘がメインになったあとも高等部ウマ娘たちの様子は書くつもりですが。