貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
次のオマケ、ブライアンに肉を食わせるか否か。それが問題だ。
競技者たるもの、集中力のトレーニングは必要不可欠です。
スタートダッシュの出遅れを防ぐスキルの話ではありません。スポーツはもちろんのこと、将棋やチェスなどの盤面遊戯やポーカーなどのテーブルゲーム、果ては発想次第で俺のターンが延々と続くデュエルに至るまで、競技の世界では必ずと言ってよいほど集中力が求められます。
もしも貴方が真面目に担当契約を結んで真っ当にウマ娘を指導する立場であれば、正攻法で集中力を高めるトレーニングを実行することができたかもしれません。
しかし現実の貴方は泣く子も黙って苦笑いする稀代の悪役トレーナー、取り引きをしているウマ娘たちに成長を期待していることを悟られないようにカモフラージュする必要があります。
「オイ見ろよ。5メートルはある竹竿の先端で頭にバケツ乗せたポラトレさんが爪先立ちしてるぜ」
「相変わらず素晴らしいバランス感覚ですわ。絶対トレーナーの業務に必要ないでしょその能力」
「そもそもどうやってあのポジションまで持ってったんだろね? その瞬間見てみたかったな〜」
自分のことを中央に勤務できるトレーナーライセンスを所持しているだけの一般人だと認識している貴方がパッと思いつく集中力トレーニングとなると、やはり座禅のような普通のトレーニングになってしまうようです。
ヤエノムテキやバンブーメモリーのように本人の資質、あるいは気質が合致しているのであれば効果的なのは確かでしょう。中央トレセン学園でも武道系統のクラブ活動は存在しますので、それらに在籍しているウマ娘であれば特に問題もありません。
ですが、悪役トレーナーである貴方がウマ娘へ向かって「集中力を高めるために座禅を組むぞ」などと口が裂けても言えるはずがありません。
第三者の視点からはもちろんのこと、当事者であるウマ娘にもトレーニングだと気づかれないように。可能であれば無駄に遊んでいると勘違いしてもらえれば理想的でしょう。
さて、なにかいいアイディアはあるだろうかと貴方が真面目に追放計画を考えているところに……なにやら大きめの広告のようなものを両手で持ったライスシャワーがやってきました。
「なぁ、誰かポラトレさんがどうやって降りたか見えた?」
「知らん。なんか消えたと思ったらライスの前にいた」
「当たり前のようにバケツの水はこぼれないのね」
「これから外国の人に日本に忍者はいるのかって聞かれたら、中央トレセンにひとりいるって教えることにするわ」
どうやら以前、絵本の展覧会をしていた百貨店でお人形さんの展示と販売のイベントが開催されているようです。格式あるアンティークドールのようなものから、子どもが気楽に遊べるヌイグルミのようなものまで様々な種類が展示されているとのこと。
中には人形劇に使えるパペットやマリオネットなども展示されているようです。一瞬だけ貴方の脳裏に修行時代にとある事件に巻き込まれたときに共闘した外国人の青年の姿が思い浮かびましたが……あんな物騒な代物が一般販売されるはずがないと、突拍子も無いことを考えてしまったことに思わず笑ってしまいました。
さて。わざわざライスシャワーがこうして意思表示をしてきた以上、貴方としては彼女の希望を汲み取らねばなりません。
こうしたささやかなリクエストも、否定された側の心には大きな棘として刺さり続けることでしょう。いつかライスシャワーがスカウトされたとき、担当トレーナーとのコミュニケーションに不具合が生じてしまうようでは困ります。
まぁ……普段の悪役ムーブでヘイトの残高は充分過ぎるほどあるだろうし、少しぐらいウマ娘の都合に合わせたところで──と、そこまで考えたところで貴方は閃きます。これは、ウマ娘たちの集中力のトレーニングをするついでに追放計画にも使えるかもしれない……と。
日頃から積極的に仕事なんてしないぜアピールをしている貴方は、働いていないという事実に説得力を重ねるためちょくちょく地域交流のボランティア活動に参加しています。そこでちょっとした出し物をする予定がありましたが、それをウマ娘たちによる人形劇にすればいいのでは? と考えました。
5分程度の短いストーリーなら練習のために勉強の時間を圧迫することもなく、糸で操るマリオネットの操作は集中力を高めるトレーニングにもうってつけ。仲間内ではなく観客の前で披露することで、レース中にファンの視線を気にして実力が発揮できなくなる……などということがないように度胸を鍛えることにも繋がります。
まさか、ボランティア活動への参加が能力強化に利用されるなどとは夢にも思うまい。どのみちスーパークリークを始め手の空いているウマ娘たちは誘わなくても勝手についてくることですし、ライスシャワーも得意の交渉術で誑かして人形劇に参加させてしまいましょう!
そうと決まれば早速準備開始です。小さな子どもたちも観客に含まれることを考えるなら、ストーリーは絵本をそのまま利用したほうが理解しやすく楽しめるはず。
ゼンノロブロイとケイエスミラクルあたりを連行すれば巧くまとめてくれるだろうと判断した貴方は、手早く鍛錬の道具を片付けライスシャワーを小脇に抱えて人材確保に動き出しました。
「ちょ、いま。バケツと竹竿が一瞬で消えて」
「忍術だろ」
「忍術ですね」
「忍術でしょ」
「忍術ですわ」
「忍術だな」
「そっかぁ……忍術ならしょうがねぇか……ポラトレさんだし……」
作者はね、なんと申しますか……チェーン店じゃない食事処でたまに見かける『定食』ではなく『カツライス』や『ショウガ焼きライス』って響き弱くてね……。
うまく言葉にできないけれど、真っ白なお皿でライスが出てきたときに、小学校の帰り道でとてもキレイなビー玉を拾った時のようなくすぐったい嬉しさを感じるんだ……。
つまりなにが言いたいのかというと、ライスは良い物ということさ……。