貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
地域交流イベント当日。
全てをウマ娘たちに丸投げし、今回は最初から最後まで傍観者を気取り暗躍する黒幕系悪役トレーナーという役柄を楽しむことを決めた貴方はウキウキ気分で大正浪漫スタイルを着込んでいます。
もちろん万が一にも不埒な輩が乱入してきたときに備えて愛用の緋色金属の仕込み杖もバッチリ携帯していますし、物理的な干渉が難しい怪異が発生したとしてもオカルト専門の探偵業務のアルバイトをしていたときの経験を活かして御札的な物も懐に用意していますので問題ありません。
ひとり多目的特殊災害対策仕事人として気楽にイベント会場をフラフラと歩き回っていると、いつぞやのメジロ家とお友達関係にあるウマ貴婦人と、いつかの日に自転車の後ろに乗せて送り届けたご年配の和服ウマ婦人にばったり出会しました。
帽子を手に取り軽く会釈をしてから声をかけてみたところ、どうやらご婦人方はイベントの主催者側の関係者とのこと。なるほど、名門であるメジロ家とお友達関係になるような身分の方であればボランティア活動に積極的なのも頷けます。
そして話題は自然とレースの話になりました。何故かメジロブライトとメジロマックイーンの話題を露骨に推してくるふたりの様子に、黒幕系悪役ムーブ中である貴方は言葉の裏の脇道の先の空き地までお見通しの洞察力を発揮しました。
──この和服ウマ婦人も、メジロ家のお友達か……ッ!!
さて、こうなってくると困るのはメジロブライトとメジロマックイーンの評価をどのように伝えるかということです。
悪役トレーナーとしてはもちろん褒めるワケにはいかないが、かといってふたりの将来のことを思えば下手に扱き下ろすのもよろしくない。
いずれはどちらもスターウマ娘となる逸材だが、いまの時点では問題点を抱えた学生であることからマイナス評価の影響は軽視できない。
そこまで考え、ここは慎重に言葉を選ぶべきか……そう考えた貴方は自分自身のいまの格好を思い出します。最低評価のトレーナーバッジに身の丈に不相応の服装をした若造の言葉など、いったい誰が真に受けるのかと貴方は自分の考えが杞憂であると判断しました。
──己の言葉がウマ娘たちに与える影響などゼロなのだから、ここは好き勝手に言いたいことを言ってしまおう。
さっそく貴方は、まずはメジロブライトについて“穏やかな性格が目立つが闘争心が無いワケではなく、彼女なりのリズムを理解できる環境でじっくりトレーニングを続ければ必ず勝利を掴めると保証する”と評価しました。
次にメジロマックイーンについて“現在はフィジカルに多少の問題を抱えているが最強のステイヤーに化ける可能性を秘めているし、なによりメジロの誇りを体現しようと努力を惜しまないその精神性を見逃すようではトレーナーを名乗る資格は無い”と評価します。
唯一の懸念点はふたりともなかなか担当トレーナーが見つからないことですが、すでにメジロパーマー、メジロアルダン、メジロドーベルには担当トレーナーがいますので時間の問題でしょう。
もしかしたらトウカイテイオーとメジロマックイーンを同じトレーナーが指導することになる、というアニメ版のような流れになる可能性もあるかもしれません。天下の中央トレセン学園、天才ウマ娘をふたりまとめて指導できるトレーナーのひとりやふたりぐらいはいるだろうと貴方は疑っていません。
軽く世間話をしただけなのにやたらと上機嫌になって去っていったウマ貴婦人たちを見送る貴方は、自分のような小物相手でも上品な立ち振舞いを心掛け不愉快な思いをさせないという気遣いに感心しています。
きっと内心では担当契約すらできない最低評価のトレーナーがなにを偉そうに……と、絶対零度の視線でこちらを憐れんでいることだろう。そんなことを微塵も感じさせない、最後まで微笑みの仮面を崩さなかった姿勢にはチート転生者である貴方も今後の追放計画の参考にしようと気を引き締めました。
◇◇◇
人形劇については概ね成功と言える雰囲気です。フジキセキがリーダーを務めたコミカルなマリオネットの騎士物語も、スーパークリークが中心となって休憩スペースで披露した幼い子ども向けのパペット劇場も、どちらも反応は上々といったところ。
あとはトレーニングとして本当に効果があるのかの確認ですが……貴方のチート能力でステータスを確認したところ、賢さに一時的な成長ボーナスが付与されています。たぶん集中力を高めるという目的は達成されているのだろうと貴方は納得することにしました。
あとはこのまま平穏無事にイベントが終了すれば本日の追放計画も完遂されたことにされます。しかし残念なことに貴方の視線の先にはなにやら淀んだ空気を纏う小学生ぐらいのウマ娘とライスシャワー、そしてそんなふたりに声をかけるべきか悩んでいる女性の姿が見えています。
その女性が子どもたちを連れてイベントに遊びに来た児童施設の職員さんであることを知っている貴方は、念のためライスシャワーたちに聞こえないよう声を潜めて事情を尋ねました。
どうやらあの小学生ウマ娘はトゥインクル・シリーズで活躍するウマ娘たちに憧れてトレセン学園への入学を目標にしているのですが、決して身体能力は低くないのに走るのだけがあまり得意ではないとのこと。
そこまで聞けば人生経験が豊富な貴方であれば簡単に状況を察することができるでしょう。走るのが苦手なウマ娘、それも小学生となれば無邪気な悪意に晒されるのは避けられません。
本来ならばイベント会場にGⅠウマ娘を含む現役の中央トレセン学園生がいることは女の子にとっても喜ばしいことなのかもしれませんが、きっとそれすらも揶揄うための手段にされてしまったのでしょう。
そして、そんな状態の女の子にライスシャワーが接触を試みるとは意外と言うべきかなんというか……ただ、貴方にはきっと悪い結果にはならないという予感だけはあります。
さすがに職員さんとしては黙って見ているワケにもいかないのでしょうが、ここで貴方の頭脳を素晴らしい閃きが無慈悲に貫きました。そうだ、万が一のときは全て自分の責任になるよう誘導すればいいじゃないか! と。
丸く収まればそれでよし、もし最良の結果にならなかったとしてもライスシャワーのことを庇いつつ責任問題として非難囂々間違いなし。貴方は一切の躊躇い無しに「どうかしばらく見守って下さい。もしもあの女の子にとって不幸なことになるようであれば、中央トレセン学園のトレーナーである自分が必ず償うと約束します。トレーナーバッジに誓って」と女性職員の方に頭を下げました。