貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
夢を笑われて塞ぎ込んでしまった……かどうかはわかりませんが、少なくとも落ち込んでいる様子のウマ少女。
自分の走りで誰かに笑顔と幸せを届けたいと頑張るライスシャワーが、そんな少女を励ましたいと思うのも自然なことなのかもしれません。
可愛らしい外見とやや臆病な性格のわりに言葉のナイフの斬れ味はなかなかのもので容赦なく正論の一撃を繰り出すことも稀にありますが、さすがに子ども相手にそんなことはしないだろうと貴方は信じることにしました。
しかし、仮にライスシャワーがウマ少女を優しく励ましたところで現実問題としてトレセン学園に入学できるかは別の話。一応、ハルウララという謎の前例があることから可能性がゼロであると断言することはできません。
ですが、もしもあのウマ少女が本気でトウィンクル・シリーズへの出走を目標にしているのであれば、中央トレセン学園へ入学することの難しさについて自力で調べて把握しているかもしれません。揶揄われたから、だけでなく事実を知ったからこそ落ち込んでしまったというパターンもあり得ます。
相手が子どもだからと軽んじて、薄っぺらい激励などしようものなら逆効果。言葉を飾るのは所詮は自分の見栄のため、相手のことを思うのであればむしろ余計な言葉を削る必要があるだろうと貴方は考えています。
追放計画を抜きにしても大真面目にライスシャワーがどうやってウマ少女を励ますのか気になり見守っていると、実に王道展開らしくウマ少女はライスシャワーがGⅠウマ娘になることを要求してきました。いわゆる“そんなに言うならお姉ちゃんが証明してみせてよ、そしたらわたしも頑張れるから”のパターンです。
表面上は感心したように慎ましく、しかし貴方の心の中は「勝ったなガハハッ!」と大笑い。まだメイクデビューすら走っておらず、本日のイベントに参加した中央トレセン学園所属のウマ娘たちと比較しても小柄なライスシャワーだからと無理難題を押し付けたつもりかもしれませんが……前世の記憶を持つチート転生者である貴方からすれば最初から勝ちが確定した賭けのようなもの。なにに対しての勝利なのかは気にしてはいけません。
もとより芝・長距離・先行の3つに高い適性を持つライスシャワー、お兄さまかお姉さまが彼女をスカウトするまでにA以上に育てれば勝ちは確定。貴方は中央トレセン学園に在籍しているウマ娘のステータスはほぼ把握していますので、ノリと勢いと好奇心さえ制御できれば「バカな……ひとりひとりがライスと互角、いやそれ以上……ッ!? 計算外だ、こんなウマ娘たちが担当も持たずに隠れていたなどと……ッ!!」といった具合にいきなりライバルが誕生することもありません。
◇◇◇
期待と不安が入り混じった瞳で一度だけライスシャワーへと振り返った小学生ウマ娘を見送ると、貴方はさっそく頭の中でトレーニングプランを組み立て始めました。
単純にライスシャワーのステイヤーとしての能力を引き出すこともそうですが、夢を手放しそうになっている子どものために走りたいというモチベーションは善なる心を持つトレーナーには効果抜群に突き刺さるはず。
小柄な体格に似合わずよく食べることからスタミナは充分にあるのですが、まだまだスピードとパワーが不足していることから模擬レースでの注目度が低くスカウトの声はありませんでした。盤外戦術だと後ろ指を指されるかもしれませんが、今後は健気に努力するウマ娘を支えたいという志を持つトレーナーへアピールがしやすくなることでしょう。
と。いつものようにカボチャの種を蒔きながらニンジン料理の準備をするが如く順調に追放計画を進めていた貴方にライスシャワーがポツリと弱音をこぼします。
もしも貴方がライスシャワーの担当トレーナーであれば“自分にあの子を励ます権利なんて本当にあるのか、ほかの誰かのほうがあの子の夢を後押しできるのではないか”という悩みに対して前向きな言葉をかける場面でしょう。きっと大丈夫だと、ライスシャワーというウマ娘なら必ずGⅠウマ娘になれると信じていると伝えて励ます場面です。
しかし貴方はライスシャワーの担当トレーナーではありません。いつの間にかルームに出入りし夜間練習等にも参加しているため成り行きで専用のトレーニングプランを渡したりしていますがそれだけです。一緒に画材の専門店に行ったり食事に出かけたこともありますが複数のウマ娘と一緒だったので貴方の中ではトレーナー行為にカウントされていません。
あくまでただの取り引き相手であり担当トレーナーではない。それは少なくとも貴方の主観では鯖の味噌煮と豚の角煮ぐらい違いますし、第三者視点から見ても鯖の味噌煮とサバを梅干しと生姜と一緒に味噌味で煮たヤツぐらい違って見えていることでしょう。
なので貴方はライスシャワーの弱音を否定せず、そのまま肯定します。弱気のままで、臆病なままでもいいだろう……と。自信に満ちたウマ娘ではなく、自信がなくても自分のために走ってくれると約束してくれたウマ娘をあの子は信じたのだからと事も無げに言いました。
そんな脊髄反射のように出てきただけの適当なセリフにライスシャワーは言葉を失っていますが、それで容赦するようでは悪役トレーナーは務まりません。貴方は続けて「お前が自分を否定して違う誰かになってしまったら、ライスシャワーを信じたあの子の夢はいったい誰が祝福してやるんだ?」と嫌味たっぷりの微笑みでライスシャワーの逃げ道を完全に塞ぐのでした。
次回はライス視点です。