貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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 答え合わせの時間。



『あなたのために鐘が鳴る』

「……ねぇ、お姉ちゃんステイヤーだって言ってたよね?」

 

「う、うん……。自分ではまだよくわかってないけど、トレーナーさんがライスの適正距離は3000ぐらいだって」

 

「ふーん……。じゃあさ、デビューして、クラシック級になったら菊花賞に出て──ううん、菊花賞で一着になって一番強いウマ娘になってよ」

 

「えぇッ!?」

 

「なんでおどろくの? だってお姉ちゃんがあたしに言ったんじゃん。がんばれば、努力を続ければきっと夢がかなうって。だったらさ、努力すればなんでもできるんだってコト、菊花賞でしょうめいしてよ。ちゃんとステイヤーの意味ぐらい知ってるし、ダービーにも勝ってなんて言わないから」

 

「え、えぇと……その……」

 

 

 もしも、と考えてしまう。

 

 もしもこのウマ少女に声をかけたのがミホノブルボンであったなら、きっと自信を持って勝つと言ったはずだ。三冠ウマ娘になるという夢のために厳しいトレーニングをずっと続けているのだから。

 もしもこのウマ少女に声をかけたのがメジロマックイーンであったなら、きっと当然のように菊花賞は通過点でしかないと言ったはずだ。メジロライアンがそうしたように、メジロ家の誇りに誓い天皇賞を勝利してみせると常日頃から宣言しているのだから。

 

 

 だけど、そうはならなかった。なぜなら交流会のイベント会場で落ち込んでいた女の子に声をかけたのが……ライスシャワーだったから。

 

 

「……わかってるよ。約束なんて、できるワケないよね? だって努力だけじゃどうにもならないことってあるし。レースで一着になれるのはひとりだけだし、トレセン学園だって……調べたもん。中等部も、倍率がスゴくて……調べたんだよ、本気で入りたかったから、タイムとかも……試験のこと、調べたんだよぉ……」

 

 言葉が出なかった。誰かに夢を与えられるようなウマ娘に憧れて今日までトレーニングを続けてきたはずなのに、現実は夢を否定されて泣きそうになっている女の子ひとり励ますことができない。

 やっぱり自分じゃ無理なのか……と。弱気で臆病なライスシャワーというウマ娘ではみんなを笑顔にできるようなヒーローにはなれないんだ……と。悔しさと悲しさで、いっそのこと無責任な発言を謝罪して逃げてしまいたいという思いさえ抱いてしまった。

 

 だが。

 

 

(…………あ)

 

 

 視界の端に、建物の陰に、トレーナーがいる。

 

 もしかして、頼りない自分の代わりに女の子を慰めてくれるのでは……と一瞬だけ期待するが、その考えはすぐに消えた。確かにトレーナーは基本的にはとても優しいヒトだが、同時にとても厳しいヒトでもあることを知っているからだ。

 だがそれは、ウマ娘のことを信じているからこそ無闇に甘やかさないのだ。だから、なにもしない。それがウマ娘が自力で乗り越えることができる壁だと判断すれば、成長を信じて見守るのがトレーナーの信念であることをライスシャワーは──いや、ポラリスに所属しているウマ娘たちは知っている。

 

 自分だけの勝負服を手にしても、その上に誇らしげにトレードマークの黒ジャージを羽織り続けるウマ娘たちがそれを証明しているのだ。

 

 

 だから、逃げるな。

 

 だから、考えろ。

 

 

 本当に、いまのライスシャワーではこの子になにもしてあげられないのか?

 本当に、この子は努力が実を結ぶことへの約束なんてどうでもいいと考えているのか? 

 

 違う。本心から夢を諦めているのであれば、こんなに悔しそうに泣くのを我慢したりしない。

 

 なら、どうする? メイクデビューすらしていない自分だからこそできることはなにがある? トレーナーならどうする、担当契約すらせずに『取り引き』と言ってウマ娘たちが夢を追い続けることができるようにしてくれるトレーナーなら────。

 

 

「あ、あのッ! 約束は……約束は、できないけど。その代わりに“取り引き”でもいいなら、ライスが菊花賞で一着になってみせる……よ?」

 

「……取り引き? それって、約束となにがちがうの?」

 

「えっと、なんて説明すればいいのかな……もしも取り引きをしてくれるなら、ライスは今日から菊花賞で一着になるために頑張ってトレーニングをするから……そう! トレセン学園に入学するためのトレーニングも諦めずに続けてほしいの!」

 

「だから、それはお姉ちゃんが菊花賞に勝ったら」

 

「違うよ? それはね、取り引きじゃないの。だってライスだけが頑張るのは不公平だから。ライスだけが夢を追いかけるんじゃなくて、一緒に夢を追いかけてくれないと取り引きにはならないよ? お互いに欲しいものを交換するのが取り引きだから」

 

「お互いに……」

 

 

 ……ちょっと。いや、だいぶ強引過ぎたかな? 

 

 正直に言ってしまえばライスシャワーにも約束と取引の違いなんてよくわかっていない。そもそも取り引きと称してトレーニングの面倒を見てくれているトレーナーからなにかを要求されたことがない。

 なにやら先にデビューしたウマ娘たちの中にはそれらしきモノを聞いたことがあるウマ娘だったり、見返りらしきナニかを渡したことがあるウマ娘もいるらしい、という話は聞いたことがあるが詳細はサッパリわからない。

 

 だがしかし、ここまできたら取引の意味が何処かの誰かのせいで行方不明だろうと関係ない。このまま勢い任せに押し切らなければ勝ち目(?)がないことをライスシャワーは理解していたし、なにより自己評価の低さに反して一度やると決めたときの行動力はトレセン学園でも屈指の実力者である。開き直って本気になれば、小学生ウマ娘のひとりぐらいは────。

 

 

「……うん、いいよ。お姉ちゃんに菊花賞を勝ってもらうかわりに、トレセン学園に入るのをあきらめない。こうしょうせいりつ、だね」

 

 

 ライスシャワー、心の中で渾身のガッツポーズ。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「流れとはいえ、まさか菊花賞を勝つって宣言するとはなぁ。いやぁ、ミホノブルボンだけじゃねぇ、ほかにもデビュー時期が重なる強力なライバルが大勢いるってのに大した自信だな? こりゃ俺もしっかりトレーニングプランを組み立てないとイカンよなぁ? カッカッカ!」

 

「うぅ……」

 

 顔から火が出るとはこういう状況を言うのか。

 

 ミホノブルボンと競い合うことに関してはライスシャワーに思うところはない。真剣勝負だからこそ友達に負けたくない、友達が相手だからこそ泣いたり笑ったり結末がどうなるかわからなくても全力でぶつかるのがレースだと学んだからだ。

 しかし……いくら落ち込んでいる女の子を励ますためとはいえ、よりにもよって“一番強いウマ娘が勝つ”と言われている菊花賞の勝利宣言はどうなんだと冷えた頭が訴えかけてきた。違う、違うよ? ちょっとその、どうにかしてあげなくちゃって気持ちが強くなりすぎて熱くなっちゃっただけでそんなつもりは。

 

「なんで、なんでライスなんだろう……。だってね? せっかくの交流会のイベントなのに、楽しそうじゃなかったからって、気になって声をかけたのはライスだけど……ほかにもトレセン学園のウマ娘はたくさん参加してるのに……本物のGⅠウマ娘だっているんだよ?」

 

「ほかの連中なら、もっと巧くやれたのに……ってか」

 

「うん……」

 

「さて、そいつはどうかな。それが親切心だとしても、真心を込めた言葉だったとしても、すでに成功してしまったヤツの言うことは素直に受け取りにくいモンだったりするぞ」

 

「でも」

 

「子どもは大人が思う以上に賢い。いや、理屈で自分を納得させてしまう大人よりも感性が瑞々しいと言うべきか。あの子がお前の提案を受け入れたってことは、求めていたのは理屈による納得じゃないってこった。いいんじゃねぇの? 弱気でも、臆病でも構わない、自信に満ち溢れていなくたっていい、ただひと言だけ真っ直ぐ『大丈夫だよ』って言ってくれる誰かを信じたくなるときもある」

 

 そんな大げさなことをしたつもりはなくて、とにかくなんとかしなければと半ばがむしゃらになって取り引きという形で力尽くで説得しただけなのだが。

 そう思っていても、無条件でその『大丈夫だよ』を言いまくっているトレーナー相手に反論できるだけの度胸をライスシャワーは持っていない。なにせ聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフを堂々と口にする相手だ、勝ち目がゼロの勝負を諦めるのは『臆病』ではなく『慎重』であると自信を持って言える。

 

「本当に、いいのかな……? 弱虫なライスがあの子の夢を背負って走っても、本当に大丈夫なのかな……?」

 

「お前以外に誰がいる。どんだけお前が自分を否定したとしても、あの子が“信じたい”ウマ娘はライスシャワーなんだよ。もうお前以外にあの子の未来を祝ってやれるヤツなんかいねぇ。諦めて事実を受け入れろ。たったひとりしかいなくても──あの子はお前に“勇気をもらったファン”なんだからな」

 

「────ッ!」

 

 

 いつの日か、誰かに勇気を与えることができるウマ娘になりたいと思っていた。レースを見てくれた人たちに、キラキラとした夢を与えられるような走りができたらいいなと思っていた。そんな未来を信じてトレーニングを続けていれば、いつかきっと弱虫な自分でも自信いっぱいのヒーローになれると思っていた。

 

 でもその考えは間違いだった。『いつか』『きっと』『なってみたい』などという曖昧な覚悟ではダメなのだ。あの子には、最後に一度だけ心配そうな顔で振り返ったあの子にはヒーローが必要なのだ。周囲がどう思おうとも関係ない、自分自身の弱音を無理やり押し込んででも、()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(そうだよね……だって、これはあの子とライスの取り引きなんだから、ちょっとぐらい怖くても、本当は自信なんかなくても、ライスはヒーローなんだって堂々と走らなきゃダメなんだよね……ッ!)

 

 今日この日、ライスシャワーの“ヒーローになりたい”という想いは“ヒーローになってみせる”に切り替わった。それはきっと、祝福されるべきことなのだろう。

 ただ……あえてひとつだけ、彼女が理解できていない事実を指摘するならば。あの小学生のウマ少女にとっては挫けそうになっている自分に声をかけてくれて、少し頼りない様子でも一生懸命になって励ましてくれたライスシャワーはすでに“ヒーローになっている”ことだろうか。




 ビコーペガサス以外でこんなヒーローを多用する文章を書くことになるとは夢にも思いませんでした。最後に見た夢は追跡者ことネメシスさんに追いかけられながらフライロッド片手に渓流で川の主釣りをしている夢でしたね。なんで?


 続きはお盆休みとかいう異世界日本の行事が始まる前に、次のヘイト稼ぎ目標ウマ娘はメジロアルダン(とアルダントレーナー)になります。

 アルダントレーナーをアルトレと略してアル・ト・レって表記するとちょっと強そう。
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