貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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 ボン・ヤスーミ? えぇ、もちろん知ってますよ。自宅の裏にある製作小屋にゴーレム工房を追加してくれる方ですね。まぁ作者は武器や楽器のほうに夢中になってましたが。



滅慈狼。

 ある日のこと。突然の雨天によりトレーニングを休んでいるウマ娘たちがわざわざルームにやってきて寛いでいることに疑問を抱きつつ、貴方がキングヘイローと一緒に戸棚に収納してあるお菓子類を賞味期限の近いものから順番に並べ替えていたところへ意外な来客がありました。

 

 やってきたのはメジロアルダンの担当トレーナー。ルーム内に設置してあるヨガマットの上で柔軟体操をしているメジロライアンとメジロブライトに用事があるのかと思いきや、なんとアルダントレーナーは貴方に頼みたいことがあってやってきたとのこと。

 どうやらメジロアルダンのトレーニングプラン、というよりも育成方針の全体的な方向性についてアドバイスを欲している様子。どう考えても相談する相手を間違えているだろう……と、貴方が困惑していることなど関係ないと言わんばかりにアルダントレーナーによる事情の説明が続きます。

 

 

 アルダントレーナー曰く、メジロアルダンというウマ娘の存在をファンの記憶に刻み込むために貴方が育てたウマ娘を参考にしたいのでトレーニングプランを見せて欲しいとのことでした。

 

 

 まず“貴方が育てたウマ娘”という時点で貴方にはサッパリ意味がわかりません。誰とも担当契約をしていない育成評価Gのトレーナーであることを誇りとしている貴方にしてみれば、アルダントレーナーの発言は完全に的外れであり優しく声をかけて退室と休息を促したほうが良いのでは? と心配になるレベルです。

 しかし本人は至って大真面目であり真剣な表情をしていますので、悪役トレーナーとして追放されることが目的の貴方としては、真っ当な正統派トレーナーの成長の機会を潰すワケにはいかないのでしょう。どうにかアルダントレーナーの意図するところを汲み取り、彼に必要なモノがなんなのかを察する必要があります。

 

 推理のポイントとなるのは、真剣な表情でアルダントレーナーが語る“いまという瞬間に全力で挑むメジロアルダンの覚悟に応えたい”という願いにあるでしょう。

 この世界でも彼女は脚に問題を抱えていますので、未来に夢を見るよりも現在に全てのリソースを注ぎ込みたいという考え方は貴方にも理解はできます。

 

 

 ヒントを元に砂漠で再会を夢見る白ゴマと黒ゴマを探すかの如く必死に彼が求める答えがなんなのかを考える貴方は、唐突にとある可能性にたどり着いてしまいました。人々の記憶に、ファンだけでなくトレセン学園はもちろん、もしかしたら世界レベルで記憶に焼き付くほどの強烈な輝きをターフに刻むウマ娘が存在するということに。

 

 

 まさか、と。

 

 そんなはずは、と。

 

 

 さすがにそれはないだろうと思いつつ、貴方はアルダントレーナーに確認することにしました。

 

 それはGⅠレースに勝利したから参考にしたいのかと問えば、アルダントレーナーは「それはもちろん意識しているが、レースの結果ではなく彼女の在り方こそがアルダンに必要だと感じた」と答えました。

 続いてメジロアルダンの脚質や性格からどんな作戦で走るべきか理解しているのかと問えば、アルダントレーナーは「先行で走らせるつもりであり、確かに彼女が得意とする作戦は違うが重要なのはそこではない」と迷いなく答えました。

 

 その返答を聞いた時点で貴方はとても渋い表情になってしまいます。せめて得意とする作戦が同じ先行であると答えてくれていたのなら、まだ違う可能性を信じることができたのに。思わず頭を抱えそうになるのをグッとこらえ、アルダントレーナーにひとまず今日のところは帰るようにと言い渡します。

 それでもアルダントレーナーは良い返事をもらえるまでは帰れないと食い下がろうとします。しかしそれを許してやるほどいまの貴方は甘くありません。あえて苛立ちを含ませるような演技をしながら貴方が「帰れと言ったのが聞こえなかったのか?」と凄んでみせることで、どうにかこの場は引き下がらせることに成功しました。

 

 

 ふと、周囲を見渡せば。先ほどまで適当にだらけていたウマ娘たちの表情がシリアスモードに変化しています。なんとなく最初に目が合ったミスターシービーにアルダントレーナーの言うことが理解できるのかと尋ねると。

 

「んー、そうだね……わからないことはない、かな? 真似しようとも思わないし、できるとも思っていないけど、ある種の憧れっていうのを感じてるウマ娘は……うん。やっぱりいるんじゃないかな」

 

 憧れ。よりにもよってアレにか。そんな貴方の呟きを聞いたメジロライアンがアルダントレーナーの頼み事に否定的なのかと質問をしてきましたが、貴方が一瞬の間も置かずに「俺が賛成するとでも思うのか?」と返答したことで気まずそうに視線をそらしてしまいました。

 

 

 その反応を見て貴方は自分の予測が当たっていることを確信します。レースの結果以上にその在り方で人々を魅了する、そして得意とする戦法は先行ではない、そのふたつの要素を満たしつつ貴方の周囲で確認できるウマ娘といえばひとりだけ。

 

 アプリの知識を持つからこそ、それは貴方にとって完全な想定外。アルダントレーナーは、メジロアルダンというウマ娘の輝きをターフの上に刻むために────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴールドシップの芸風を、継承させるつもりだ。

 

 この結論を導き出した貴方の表情は、まるで正義の味方に追い詰められている悪役のように張り詰めていました。





 正直、アルダンがセグウェイに乗ってすれ違いざまに「ご機嫌よう」とか言い出しても驚きませんけどね。

 たぶんやるよ、あのウマ娘は。
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