貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
扇風機氏、続投が決定!
「まだまだ日中の気温が上がる日もありますし、屋内では熱がこもることもあるでしょう。ですがパソコンの冷却は僕の役目とは違うと思います」とやる気に満ちた前向きなコメント。
この世界では貴方の存在はオカルトに該当します。
それは別にきまぐれの暇潰しに貴方の頭の中を覗き込んだ旧い神の如き上位存在が実際の言動と比較してしまったことで「……安定の狂気?」と宇宙猫状態になってしまったこととは無関係であり、単純に前世の記憶を持つ転生者という意味です。
貴方は基本的に悪役の矜持として神頼みはしませんが、他者の信仰を否定するほど頑固だったり狭量だったりはしません。なのでウマ娘たちがテストの前に神社でお祈りをしたり、パワースポットを巡るという名目で外出した先でアレもコレもと食べ歩きを始めたとしても穏やかに微笑みながら見守るというスタンスを貫いています。
「勝負に“勝つ”でカツサンド! 発想としてはベタでありきたりかもしれませんが、このベッタリと塗られたソースとカツの飽きたりしない美味しさはお惣菜パンの勝者かもしれませんね〜」
なので光栄で三国が無双しそうな出で立ちのウマ娘像が祀られている観光地にて、茶屋の前で赤い敷物の長椅子に座る貴方はマチカネフクキタルと並んで揚げ立てホクホク歯を立てサクサクのカツサンドの味を楽しんでいたとしても不思議しかありません。
もちろんこれは絆を深めるウマさんぽには該当しないので心配は無用です。いまは私服姿ではありますが、トレセン学園に戻れば元気に黒ジャージ姿でターフやダートを走るウマ娘たちがほかにも複数名同行している集団行動ですので貴方の中ではセーフ扱いされているのでしょう。
この場にいるウマ娘たちは“レースには本気で挑戦するつもりではいるが、使命感とかそういう話は別”というスタンスのウマ娘を中心に、占いなどのオカルト或いはスピリチュアルな娯楽を好む者ばかりです。
世の中には覚悟が伴わなければ本気ではない、と主張する人がいることも貴方はもちろん知っています。ですが貴方は声の大きい者というのは大抵の場合無関係な物知らずであることが多いと考えていますので、そうした雑音に惑わされるつもりはありません。
しかし残念なことに育成評価の高い一流、あるいはエリートと呼ばれるようなトレーナーたちからはエンジョイ勢のカジュアルプレイヤーとして扱われているのも事実です。使命感に燃える彼ら彼女らにしてみれば、貴重な休日にこうしてパワースポット巡りをするようなウマ娘などスカウト候補にすらあがらないことでしょう。
アスリートたるものストイックさも必要だが、彼女たちは青春を謳歌する権利を持つ学生でもある。
大人としてそれを忘れてはならないと考える貴方は、いつの日かマチカネフクキタルを含むこの場にいるウマ娘たちの在り方をありのまま受け入れ学生生活もレースも丸ごと楽しみついでにこうしたスピリチュアルな娯楽にも理解を示してくれるトレーナーが現れてくれることを願うばかりです。
とはいえ。
願うばかりで彼女たちの才能を埋もれさせるワケにはいきません。悪役トレーナーとしてはあまり好ましくない選択ではありますが、いずれスカウトされたときに備えて可能な範囲でマチカネフクキタルたちを鍛えておく必要があると貴方は判断してしまいました。
もちろん上位存在が肝試し感覚でチラ見を試みるほど常人離れした頭脳を持つ貴方は、案の定今回も悪役トレーナーとして勝算ありとして引率役を引き受けています。
信頼とは簡単に得られるものではなく、これまで丁寧に丁寧に積み重ねて育てたヘイト山脈の頂点に屹立する追放フラグが倒れることなどありえないと確信しているのでしょう。
実に素晴らしい根拠と自信、まさに動かざることまな板の上のアタリメの如し! 自身に危機が迫っていることを正しく理解して最後まで暴れ抵抗することを選べる鯉が知性の優れた生物であることがよくわかりますね!
貴方の頭の中身が塩辛なのか鯉こくなのかはどちらであったとしても今後の追放計画に影響が及ぶことがありませんが、マチカネフクキタルたちの今後については河豚の肝の取り扱いよりも慎重かつ真剣に考えなければいけません。
トレーニング計画を完璧に管理している貴方は彼女たちが決してトゥインクル・シリーズを侮ってなどいないことを知っています。なので模擬レースなどで結果を示してしまえば評価も変わるだろうと信じていますが、思い込みによる先入観を崩すことが難しいことも理解しています。
一度でもこれが正しいと認識してしまったモノを客観的に分析して再評価するのは容易なことではない。ほんの数秒でもいい、先入観を捨てて事実だけを見ることができれば……と。どうすればひとりでも多くのウマ娘たちがスカウトされるか考えながら、貴方は危機感の欠片もないのほほんとした表情のマチカネフクキタルが差し出したほうじ茶を受け取るのでした。
スピリチュアルに該当するかはわかりませんが、実家が米農家の作者は休日の朝に炊きたての白米に生タマゴをからめて明太子を乗せマナーも気にせず本能のままにかきこみお味噌汁(あさげ)をすすると「地球上のどんな大富豪よりも、いま自分は幸福で満たされている」と感じます。