貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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にゃーにゃー。

 ウマ娘の価値をアピールするのであれば、実際に走る姿を見せるのが最も簡単で確実である。

 

 もちろん聡明なチート転生者である貴方はこの真理に気づいていますが、今回はいつものように突発的な模擬レースを開催して万事解決とはいかないことでしょう。

 ウマ娘たちがトレーナーにスカウトされるように、という目的そのものはいつもと同じ。しかし必要としているのはマチカネフクキタルたちの日常を含めて“そういうもの”と認めてくれるトレーナーであり、レースのためならプライベートをどれだけ犠牲にしても許される……などという極端な考えの持ち主では困るからです。

 

 ウマ娘たちを成長させつつ自身のヘイトを稼ぐ、という目的そのものはいつもと同じですが……今回ばかりは悪役トレーナーとしての日々の言動が枷となると貴方は頭を悩ませています。

 ウマ娘たちを利用することしか考えていない守銭奴トレーナー、しかも最後には責任などお構いなしにトレセン学園から追放されるつもりの自分がウマ娘たちのプライベートの重要性について語ったところで誰も耳を傾けることはない……と。たしかに言葉そのものよりも誰が発したかが重要という意味では貴方の考えはなにも間違ってはいません。

 

 

 いつの間にかマンハッタンカフェが用意してくれたコーヒーの位置を確認するまでもなく慣れた手付きで口に運んだそのとき、貴方の中の紳士が画期的なアドバイスを授けてくれました。逆に考えるんだ、特別な計画なんて作らなくってもいいさ……と。

 

 

 冷静になって考えてみれば、一流のトレーナーが休息やモチベーション維持のための娯楽を蔑ろにするはずがありません。

 ならば自分が選ぶべき行動はいつもの逆張り、すなわち“取り引きを利用してウマ娘たちの休日をほどほどに潰して嫌がらせしてやるぜ大作戦”を実行するだけでよいと貴方は気づきます。

 

 やるべきことが決まれば、あとは行動あるのみ。もちろん貴方は取り引き中のウマ娘たちのスケジュールはいつでも脳内のフォルダーに完璧に収納してありますのでパソコンなどの文明の利器に頼るまでもなく日程の調整が可能です。

 さて、いったいどんな珍妙奇天烈なトレーニングで中央トレセン学園に混沌を巻き起こしてやろうかと貴方がワクワクしながら頭の中で数十人ぶんのウマ娘たちのスケジュールを並行処理していたところ。

 

 

 

 

 

 

「お゛つ゛か゛れ゛さ゛ま゛て゛す゛ぅぅぅぅ…………」

 

 

 

 

 

 

 反射的に「この場にいる誰よりもお前のほうが疲れてるだろ」と言いたくなってしまうような様子のマチカネフクキタルがルームにやってきました。

 

 

「おほ〜、コーヒーの良い香りがしますねぇ……。カフェさん、もしも余っているようでしたら1杯恵んでいただけたりなんて」

 

「それは、構いませんが……ずいぶんと、その」

 

「おや、気になりますか? 聞いちゃいますか? いや〜ちょっと聞いてくださいよカフェさん、実は先ほどスズカさ」

 

「そうですかそれは大変でしたね……。ミルクと砂糖はどうしますか……?」

 

「えぇ〜? そんなイントロクイズの早押し対決じゃないんですから、せめて30秒、いえ90秒でいいので語らせてくださいよ〜」

 

「申し訳ありません、フクキタルさん……。その、走りに関することや、心霊現象が関わるようなことであれば……多少は、お力にもなれるかもしれませんが……珍獣ハンターは専門外ですので」

 

「いえいえ、初心者の方でもいつでも参加は大歓迎ですよ? とりあえずターフの上に誘き出してしまえば無害ですので、あとは適当なタイミングでいちご大福でも用意すれば捕獲もラクラクです! まぁ、捕まえたあとそのまま引っ張られて延々と並走させられたりもしますけど」

 

 

 どうやら貴方がアクションを起こすより先に、マチカネフクキタルは充填したはずのモチベーションを早くも使い切ってしまったようです。

 

 しかし、それも仕方のないことなのかもしれません。

 

 リハビリを頑張る妹にトゥインクル・シリーズで活躍する姿を見せるために張り切るアドマイヤベガとただ走りたいだけのサイレンススズカは夜間練習組の中でも屈指の実力者です。

 最近では貴方のストロング睡眠療法を回避するために、ふたりを中心に夜間練習組のウマ娘たちが間違いなくレースでは活用できないであろう3次元的なコンビネーションランで抵抗を試みるようになっているぐらいです。

 

 彼女たちこそ秘密のチーム・スリーピングしろフォレスト、今宵こそはトレーナーが狩られる夜だと意気込んでは返り討ちにされ回収しに来たルームメイトたちに「汗臭いから」と雑に台車に乗せられ運ばれていく姿も見慣れたものです。

 

 扱いがだいぶ愉快になっていることはそれとして。そのうち愛用している蹄鉄シューズがレガリアと呼称されそうなほどわんぱくな先頭民族と並走したとあっては、いくらスタミナに優れたマチカネフクキタルでも消耗が大きいのでしょう。

 本来であればヘイトを稼ぐ絶好の機会なのですが、さすがの貴方も疲労が蓄積したマチカネフクキタルに嫌がらせをしてまでヘイトコントロールを実行する気にはならない様子。追放計画についてはひとまず凍結とし、筋肉を揉みほぐすための蒸しタオルを用意することにしました。




 中央トレセン学園でもっとも濁点が似合うウマ娘、マチカネフクキタルッ!!
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