貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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 フンギャロ・トゥワーイムッ!



『知らぬは本人ばかりなり』

 ウマ娘・マチカネフクキタルの朝は早い。

 

 ほんの軽い気持ちでご利益のお裾分けをいただこうとトレーナーと数人のウマ娘たちと一緒に日の出を拝むためトレセン学園の裏山に登ったところ、あれよあれよという間に早朝ランニングのメンバーとして選ばれてしまい友人からのモーニングコール等で起こされるからである。

 きっかけを作ってしまったのは自分であり、早起きに巻き込まれることになったルームメイトも「お〜! いいですねぇ、早寝早起きは健康の基本中の基本ですし、一日の始まりに皆さん一緒にむんっ! とお日様に手を合わせるのもよろしいんじゃないですか〜?」と乗り気であることからも“参加しない”という選択肢は無い。

 

 

「ふふ……いまはまだ流浪の身、だが同志と過ごす臥薪嘗胆の日々はやがて王の旗揚げと共にトゥインクル・シリーズに蹄跡を刻むための────」

 

「別に担当契約無しでも出走できるしすでにそれで成果を出しているウマ娘も大勢いるのに流浪もクソもないでしょう。そもそも至れり尽くせりの状況でトレーニングしておいて臥薪嘗胆とかなに言ってんだ四字熟語辞典使ったことあるのかお前」

 

 

 日の出マラソンの参加者は地味に増え続け、いまでは高等部も中等部も関係なく色んなウマ娘が仲良く山道を走り、普段あまり交流がなく遠目に見ていたときとは少々……いや多少……うん、まぁ、それなりに……? とにかく、なんとなく硬い雰囲気だと思っていたウマ娘たちも意外と親しみやすい性格だと知る機会になったので良しとしよう。それがマチカネフクキタルが出した結論である。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 普段の学園生活とは違う空気の中で、高等部の先輩と中等部の後輩が仲良く会話をしながら並んで走る。その光景を後ろから眺めていたとあるウマ娘がホラー映画に登場する吸血鬼のように太陽光で浄化されサラサラと灰になりそうなのもいつものこと。

 正月に見る初日の出でもあるまいに……と、最初はそれほど乗り気ではなかった何人かのウマ娘たちも、いまでは今日も良い日になりますようにと手を合わせるくらいには楽しんでいる。それをムフーと満足そうに確認したマチカネフクキタルはそのまま寮に戻って着替えを────する前に必ずトレーナーが待っているであろうルームに立ち寄ると決めていた。

 

 

「よう、おつかれさん」

 

 

 別にこちらからなにかを頼んだワケでもなく、もちろん相手からなにか特別な指示があるワケでもない。だがトレーナーは朝早くからすでに学園にやってきて、ウマ娘たちが走っているのを確認すると朝食の邪魔にならない程度に軽く食べられる物を用意してくれるのだ。

 

 それはお味噌汁やポタージュのようなスープ類だったり、マフィンやチュロスのようなお菓子だったりとその時々で内容は違うが、共通しているのはそれら全てが“トレーナーの手作り”ということだろう。

 ウマ娘たちと一緒に出かけるときは普通に買食いを許しているし、トレーナー自身もそれを楽しんでいるが、それはきっとしっかりと栄養管理の知識と技術を身につけているからに違いない。

 

 食べたいものを食べたいときに楽しく食べて、それ以外の場面で調整すればいいというスタンスはヒト一倍美味しいもの好きなウマ娘にとっては非常にありがたい。

 なにより「いくら身体作りに必要だからって、口に入れるモンが不味かったらダメに決まってンだろ」というこだわりには称賛の言葉しか出てこない。美味しいは正義、家庭の味こそ頂点、B級グルメ万歳。たぶんスーパークリークやヒシアケボノも一度くらいは言ってる。

 

 あとは、まぁ……ちょっとした優越感を味わうために寄り道しているという部分もある。まともだったり愉快だったり様々なトレーニングをこなすことで数値の上では身体能力は向上しているものの、それでもシンボリルドルフの調整などに付き合ったりしていると成長を実感するタイミングというものがなかなか訪れない。

 だがこうして早朝ランニングのあとにトレーナーのところへ立ち寄れば、寮まで戻る体力と気力も怪しい中等部の後輩たちの姿を見ることで“もしかして自分で思っているよりはスタミナとか強化されてるのかな”と少しだけ得意な気分になれるのだ。下と比べても仕方がないと人は言うかもしれないがここは天下の中央トレセン学園、上と比べてたらキリがない。たまにはこうしてちょいと卑しく自己肯定したっていいじゃないとマチカネフクキタルは考える。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 さて、なんだかんだ友人たちのトレーニングに付き合い続けることで良くも悪くも変わったことがある。

 

 それは例えば教師の授業や教官の指導との向き合い方などだ。学園が教えてくれる走り方はあくまで基本でしかなく、ウマ娘の個性を考慮したものではないということが理解できるようになるとそれはそれで聞いていて面白いと感じるようになったのだ。

 なぜか自分が菊花賞を勝つ前提でトレーニングプランが組んであることについてはひとまず気にしないことにして。意識が変われば“差しの作戦が向いているウマ娘”と“マチカネフクキタルが差しの走りをする場合”の違いを比べるのが意外と楽しいのである。

 

 自分で考える、ということはとても大事なことだ。

 

 動くサンドバッグの間をぶつからないように走り抜ける、などわかりやすいものはともかく……逆立ちで競争したり水に浮かべたドラム缶の上で折り紙をしたりなどヘンテコでみょうちくりんなトレーニングを指示するときのトレーナーは基本的に説明を省く。

 故に、自分たちで考える。お前に向いている走り方はこうで、こういう長所があって弱点はこういうところだ〜といった部分だけは教えてくれるので、そこから逆算するようにトレーニングの意味を考えることでモチベーションを高めるのだ。

 

 そして、その経験は後輩たちとのトレーニングでも活かされることになる。

 

 自分のことを親しみを込めてフクちゃん先輩と呼ぶ後輩ウマ娘の人数もだいぶ増えましたねぇ〜などとのんびり構えつつ、10人と少しで簡単なレース形式で走って観察。

 最後尾からじっくりバッチリ後輩たちの走りの特徴をチェックしつつ、やはり後ろからだけでは充分なアドバイスができないので加速の練習を兼ねて直線でまとめて追い抜きつつ横からもフォームに乱れがないか気にかける。

 

 と、いったことを繰り返すこと続けて数回。トータル数十人を相手に見て考えて教えてを毎日のようにしているおかげで走りの質がじわりじわりと向上していることが実感できるようになり、案外本当に菊花賞を狙えるのでは? というささやかな自信も芽生えてきた。

 

 もっとも、アドバイスをするにしてもマチカネフクキタルとてデビュー前のひよっ子でありまだまだ経験不足のウマ娘。見逃している部分はトレーナーがサラッとフォローしてくれているので本気で自惚れるようなことはない。

 距離2000を数回連続で走る程度であれば後輩たちのように息切れで背中を丸めるようなことはないが、初期の頃からトレーナーの指導を受け続けているウマ娘たちと比べれば自分の強みなどせいぜいスタミナに余裕があることぐらい? というのがマチカネフクキタルの素直な自己評価だ。

 

 

 もちろんスタミナが豊富なほうがレースでは有利なのだろうが、それを活かすための速度と加速力がなければ意味がない。今日もパワーを鍛えるため、チーム・ポラリスに出入りするウマ娘の間ではお馴染みのタイヤ引きの始まりである。

 トレーニングの内容は至ってシンプル。能力に応じたサイズのタイヤを引きながら砂の上を走るというもの。マチカネフクキタルの場合は高さ3メートルほどの大きさのタイヤを専用? の器具で牽引し、指定された時間内に指定された距離をえっちらおっちら前に進むだけ。

 

 初めてソレを見るウマ娘、あるいは未だに見慣れぬ様子のウマ娘たちがポカンとしているのも身に覚えがある光景だ。確かにここまで大きなタイヤを必要とする車両など日常生活で目にする機会などまずないだろう。小学生の男の子たちに見つかったらほぼ確実に秘密基地に改造されるかもしれない。

 

 フンギャロほんぎゃろと気合とともに歩を進めれば、恐らく世界中を探しても他ではやっていないであろうパワートレーニングに勤しむウマ娘たちの姿が目に入る。

 水で濡らした和紙の上を、力の流れをコントロールすることで破ることなく移動するというこれまた不思議なトレーニングだ。どれだけ加速力を鍛えたとしてもその使い方を間違えれば意味がないという考え方には共感できるのだが、そこからこんなトレーニング方法に辿り着くトレーナーなんて絶対に彼だけだと断言できる。

 

 水で濡れて脆くなった和紙、そしてウマ娘のパワーによる踏み込み。普通なら誰もが「そんなんできるかッ!!」と文句のひとつでも飛び出るところなのだろうが、発案者であるトレーナーが実演してしまえば負けず嫌いたちに引き下がるなどという選択肢はあり得ない。

 そしてこちらのトレーニング、マチカネフクキタルは少しだけ得意だったりする。実家で身につけた神楽の動きを応用すれば、遠心力を利用して思いの外スイスイと前に進むことができたのだ。なるほど実際にトレーニングをしてみれば左右移動のパワーロスが減っているような気がするし、同時に足首の負担も減っているような気もするのできっと効果はあるのだろう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 いつものようにまるっと一日、摩訶不思議なトレーニングをマイペースに済ませたマチカネフクキタルは居残り組ではないので素直に寮へと帰ることにしている。ハリセン? いえ、知らないお役目ですねぇ〜。

 

 

「フクちゃん先輩、お疲れ様ですッ!」

 

「フクちゃん先輩、今日もありがとうございましたッ!」

 

「フクちゃん先輩、占いの結果バッチリでしたッ!」

 

「フクキタル、明日の朝一番で生徒会室だ。逃げるなよ」

 

「ようフク助ッ! トレピと出かけた山で珍しいヘビっぽいナニかの抜け殻らしきモンを見つけたからオメーにプレゼントしてやるぜッ! トレピのヤツなんつったっけかな……がらー、じゃら? とかいう名前のレア物らしいぞッ!」

 

 

 様々な縁による交流を楽しんだり楽しめなかったりしつつ、本日の営業は無事に終了。寝る前にのんびりストレッチで身体を解し、明日の準備をしっかり整えシラオキ様に祈りを捧げればそこから先は夢の世界である。

 姉のように、という憧れはあるものの……確固たる意思やら断固たる決意のようなモノとは無縁の自分。明るく楽しく、但し常に全力で本気の走りを。エンジョイ勢にはエンジョイ勢なりの生き様があることを証明できればそれで充分だろうとスヤスヤ寝息を立てるのであった。

 

 

 普段は明るくて優しくて楽しい先輩だがトレーニングの内容と走りの質はエグいほどガチの実力者でやっぱりあの人もポラリスのウマ娘なんだ……と、噂されているウマ娘の正体が自分であることをマチカネフクキタルが気づく日が来るのかは────シラオキ様だけが知っているのかもしれない。





 最近の若い衆はファイアボール・ドロッセルとかは知らなかったりするのかな、とメカウマ娘を見てなんとなく思いました。


 続きはバター入りの豚汁で暖を取ってから、次はサイレンススズカの周囲で名門出身のエリート新人トレーナーがスカウトのために自慢の先行プランを引っ提げて色々動きますがスズカ本人がそれに気がつくかは別の話です。
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