貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
フルアーマーフクキタルがいるならフクキタルアサルトバスターとかウイングフクカスタムとかあってもよくない?
貴方の首から上が脳髄を中心にご機嫌なのはいつものことですが、最近では取引ウマ娘をスカウトしたいという熱心な新人トレーナーが増加したことによりその影響は表情筋にまで侵蝕しています。
それは数学の文章問題的に表現するのであれば「1時間に1リットルの水が出る水槽に蛇口から1時間に3リットルの水が注入されています。さて水槽が空になるのは何時間後でしょう」という状態であり、常に自分が求めている結果だけを見据えている貴方にはすでに枯れ果てた水槽の姿が見えているので問題ありません。
スカウトされていったウマ娘たちがそれまで自分が着用していたモノと同じデザインの黒ジャージを注文して次の世代にプレゼントしていることはいまさら貴方の追放計画に影響することはないのでラチの外に置いておくとして。
「これが……いまの自分が考えられる、最高の育成計画ですッ!!」
現在、眼の前には緊張した面持ちの新人トレーナー(♂)が、貴方の手元にはとある取引ウマ娘の3年分のトレーニング&出走予定が綴られたノートがあります。
新人とはいえ流石は天下の中央トレセン学園に合格したトレーナー、満点ではありませんが合格点のプランを組み立てているところは素直に評価できるポイントです。
さて、天下が御免と視線を逸らす悪役トレーナーである貴方の手に掛かればこの育成プランに口出しするのは簡単なことです。完全無欠のチート能力を躊躇うことなくフル活用して鍛え上げた知識と経験があるので当然のこと。
しかしその手法は一歩間違えば“新人の育成プランにアドバイスをして成長を促す先輩”などと勘違いする頭がハッピーセット状態の何者かが現れないとは限りません。少なくとも現在のトレセン学園にはひとり近しい該当者が存在しますので、全くの杞憂だと言い切ることはできないでしょう。
そこで貴方は考えました。育成プランそのものに口出しするのがリスクマネジメントの観点から難しいのであれば、それ以外の視点からケチをつければいいじゃないか……と。
貴方は眼の前で緊張した様子の新人トレーナーに「育成プランそのものの出来は良いが、そこから先にお前がスカウトしたいと言っていたウマ娘の走る姿が見えてこない。これなら作戦と脚質さえ同じなら誰でもいいだろう?」という理不尽な難癖を言い始めます。
趣味でトレーナーに擬態しているだけの貴方と違い、真面目で指導熱心なトレーナーらしい丁寧な育成プランであることを逆手に取ったヘイトコントロール。これは勝利をただの結果でしかないと考えそれぞれのウマ娘らしい走りが見たいだけの貴方にしか言えないセリフですね!
唖然としたままの新人トレーナーに育成プランを返却した貴方は「プラン自体は問題ない。だが自分のトレーナーとしてのセンスを試したいだけならひとりのウマ娘に拘る必要もないだろう。それでもお前がたったひとりの未来が見たいと言うのであれば、いますぐコースに行って“ウマ娘の”走りを目に焼き付けてこい」と吐き捨てます。
自分がなにを言われているのか正確に理解できていない様子の新人トレーナーですが、ここで丁寧に説明するのは悪役トレーナーのやることではありません。先輩という立場を最大限に利用して有無を言わせぬほど鋭く響く声で「駆け足ッ!」と怒鳴りつければ、一瞬だけ驚いた新人トレーナーは威勢の良い返事と同時に一瞬だけ姿勢を正してから全速力で駆け出しました。
チート能力に頼るまでもなく、新人トレーナーの纏うオーラが弱々しいながらも迷いの薄れたモノに変化した様子を見て貴方はスカウトの成功を確信します。
ついでに偶然近くにいた駿川たづな理事長秘書に早ければ今日の夕方、遅くとも明日の朝には契約用の書類が必要になるだろうと伝えておきましょう。新人トレーナーに対する傍若無人な態度、事務員を便利屋のように扱う無礼さ、この合せ技によりクールに立ち去る背後では親の仇を見るかのような表情で自分を睨んでいるに違いないと貴方はとてもご満悦です。
このように順調に取引ウマ娘たちがスカウトされていくのは貴方にとってとても喜ばしいことなのですが、だからこそなかなかトレーナーたちがスカウトに来ないウマ娘たちのことを気にしてしまうのも仕方のないことなのかもしれません。
具体的にはルームメイトであり友人でもあるスペシャルウィークと北海道の観光スポットや走って楽しい絶景スポットについて雑誌をめくりながら楽しそうにしているサイレンススズカに声をかけるトレーナーが現れないことが貴方には不思議でしょうがない様子。
自分のような悪辣な人間と取り引きするというアプリ以上に過酷な環境、真っ当な価値観を持つトレーナーであれば殴り込んででもサイレンススズカを引き取ろうとする気概を見せてくれるはず。
大いなる北の大地を走って移動する気まんまんのサイレンススズカをどうするべきか、それともこの世界のウマ娘の脚ならそれもアリなのだろうかと貴方が考えていると────またひとり、自信に満ちた様子の新人らしきトレーナー(♂)が現れて話しかけてきました。
北海道旅行は大真面目に計画的に日程を組まないと移動距離が……次のイオンまで100キロメートルなんて看板は他県では珍しいのではなかろうか?