貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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とききざむ おんそくの ひだりまわり。

「どうも、先輩。ご活躍については……まぁ、わざわざ語るまでもありませんか。社交辞令を好む方にも見えませんし。早速ですがこちらの育成プランをご確認下さい。もちろん貴方ほどのトレーナーであれば、ボクにスカウトされるウマ娘が誰なのか……わかりますよね?」

 

 

 挑発的な態度、大変結構。偶然立ち寄った食事処でふっくら白米と濃い目のタレがタップリ絡んだ焼肉の定食が出てきた腹ペコの個人貿易商人の如く「こういうのでいいんだよ」と心の中で呟いた貴方はタブレットを受け取り育成プランを確認します。

 よく研究して考えられている、サイレンススズカで東京優駿を勝つための育成プラン。取り引きの関係上、逃げを練習している姿しか見ることができないにも関わらず王道の先行を主軸としているところも貴方にとっては何気に評価点のようです。

 

 アプリの知識はあくまでアプリの知識であり、自分のような固定観念から抜け出せない──否、初めから抜け出そうとすら考えていないようなお遊び気分で日々を怠惰に過ごし先行プランなど試そうとも思わないトレーナーとはひと味もふた味も違うと貴方は考えている様子。

 

 もちろんサイレンススズカが先頭の景色にこだわりを持っていることは貴方もよく知っていますが、ウマ娘の能力を把握してより効率的な育成プランを組み立てる能力の有無は別の話だと判断したのでしょう。

 なにより前世の知識というチート行為により貴方は初対面からサイレンススズカの好む走り方が逃げであると知っていますが、そうでない普通のトレーナーであれば地道に交流を重ねてサイレンススズカというウマ娘のことを少しずつ知るしかありません。

 

 

 これだけ丁寧な育成プランを組み立てることができるのであれば、最初はともかくいつか必ずサイレンススズカの望む走りを理解してくれるに違いない。

 

 

 またひとり、悪役トレーナーの魔の手からウマ娘を救い出してくれるトレーナーが現れたと安心する貴方。

 ですが! ここで迂闊に新人トレーナーとサイレンススズカの仲を取り持つような判断ミスをする貴方ではありません! 

 

 とても利口で慎重な貴方はここでサイレンススズカを新人トレーナーに紹介するかのように振る舞えば、悪役ムーブの裏側で密かにウマ娘たちがトゥインクル・シリーズで活躍する姿を楽しみにしていると周囲に露見してしまうのでは? と警戒しています。

 

 明日にでも追放される最低最悪のトレーナーとして今日まで毎日コツコツとヘイトを稼いできたのに、このような計画性もなにもない突発的な行動で帳消しにしてしまうなど言語道断。

 これから貴方は悪役トレーナーとしての品格を保ちながら、この新人トレーナーの優秀さと熱意をサイレンススズカにさり気なくアピールする必要があるのです。

 

 

 現在背後のテーブルではダートで大活躍しそうなウマ娘がしゃい☆ と商店街から買ってきた新商品『にんじんイチゴ大福ホワイトチョコレート味』の試食会が始まっていますがそこは聴力に優れたウマ娘、ましてスカウトに関する話題となれば自然と耳に入ることでしょう。

 

 

 まずは小手調べ、貴方は新人トレーナーへ「サイレンススズカの能力をしっかりと把握してみせた観察眼は悪くない」と上から目線の褒め言葉を投げかけます。

 

 すると新人トレーナーは自信たっぷりといった口調で「彼女ほどスピードに恵まれたウマ娘を、どうして誰もスカウトしなかったのか理解できません」と笑ってみせました。

 

 

 よろしい、会話は成立している。今回も追放を希望する悪役トレーナーとしての勝利を確信した貴方は具体的なトレーニングの内容についていくつかの質問をしますが、待ってましたと言わんばかりに新人トレーナーは期待通りスラスラと答えてくれました。

 当然ながらこの問答はウマ娘たちにもしっかりと聞こえていることでしょう。その証拠に食べかけの大福を片手にサイレンススズカ────ではなくなぜかミスターシービーが心底楽しそうにニヤニヤと笑っているからです。もしかしたら彼女もサイレンススズカに相応しいトレーナーが現れる瞬間を楽しみにしているのかもしれません。

 

 

「フフッ……さすがは先輩、同期の連中よりはまともな意見交換が可能で安心しましたよ。ま、この程度のことは名誉ある中央トレセン学園のトレーナーであれば当然のこととは思いますが。あぁ、そういえば聞いた話では先輩は一般家庭のご出身だとか。きっとボクには一生理解できないような苦難の中でもがき続けた果てに身についた知識なのでしょうね? いやはや……なんと申しますか」

 

 

 なんと、この新人トレーナーはどこかの名門出身なのか! と貴方のテンションゲージは大きく上昇しました。そんな有望な人材、なんとしてでもウマ娘たちに興味を持ってもらいひとりでも多く担当契約をしてもらうべきではないかと貴方のやる気は絶好調です。

 さらにいくつかの質疑応答を重ねると、やはり貴方が期待した通り名門出身ならではのトレーニング方法がポンッと飛び出てきました。これはいい流れだ、新人故の経験不足を覆すほどの知識量をアピールさせることができればスカウトの成功率など予測するまでもないと大喜びです。

 

 

 ここはダメ押しの一手で一息に勝負をつけてしまおう。そう考えた貴方は自分を下げつつ新人トレーナーの有能さを強調するために「お前の知識量は本当に素晴らしい。新人でありながら教科書のように高い完成度の育成プランを提示できるだけのことはある。本当に、どれもこれも────サイレンススズカがサイレンススズカとして走る姿にしか興味のない自分には全くの無縁であり活用方法など考えようとすら思えない素晴らしい知識だ」と称賛しました。





←この辺にスズとスペ。
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