貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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 いうて社会人になるとマニュアル通りに『余計なことをしない』人間のほうが欲しくなる場面がそれなりにあるっていうね。



とききざむ こうそくの せんとうみんぞく。

 正義のヒーローが存分に輝くためには悪役もまた相応の実力者でなければならない。そんな信念と矜持を胸に腐れ外道トレーナーとして己を完成させるため日々の努力を欠かさない貴方は教科書通り、あるいはマニュアル通りと軽んじられる方法が実は有効的であることを知っています。

 貴方の弟のひとりも「学校のテストなんて教科書丸暗記して先生の話聞いてりゃ100点クソ余裕なのフツーじゃね? つーかそんなもん自慢するヤツよりウサギ小屋の掃除を真面目にするヤツのほうが100倍クソ偉いのフツーじゃね? オレはやんねー手伝わねーだけどな、だってお花係の仕事あるし」と言っていたように、教科書とは必要な知識をわかりやすくコンパクトにまとめた素晴らしい道具なのです。

 

 この名門出身だという新人トレーナーの育成プランは表面的な部分こそ独創性で飾られているようにも見えますが、根底の部分は基本に忠実であり汎用性に優れていることがわかります。

 サイレンススズカのために調整されていながらほかのウマ娘にも適用できるということは、それだけ拡張性のある育成プランということであり成長の余地があるとも言えるのです。

 

 上機嫌の貴方はこうした新人トレーナーの評価ポイントを見逃すことなくしっかりと褒めることにしました。この育成プランを読み込む限り基礎の大切さをしっかりと理解しているようだ、さすが名門というだけあって身の丈に合わない冒険などしない堅実なスタイルが得意なのは悪くないとニッコリ微笑みます。

 

 

「────ッ!? と、当然ですね! ウマ娘の怪我ひとつがトレーナーとしての育成評価に大きく影響するのですから、リスクマネジメントは当然考慮しますとも! 勝てるレースを確実に勝つ……ウマ娘の能力に相応しくない重賞レースに出走させるなんて現実の見えていない愚か者の選択ですよ、えぇッ!」

 

 

 ほぉ、若さ故の熱量に身を任せることなくトレーナーとしてウマ娘の安全を考えることができるとは本当に優秀な新人じゃないか。なるほどこれなら周囲の同期が夢を熱く語るようなタイプであれば話が噛み合わないのも仕方ないだろうと貴方は納得します。

 そして同時にこのスタンスもまた自分と新人トレーナーのプロ意識の違いをウマ娘たちに知らしめるチャンスだと気がつきました。貴方はチート能力で怪我のリスクは丁寧に潰していますが、その事実を知る者がただのひとりとして存在しないのですから利用しない手はありません。

 

 貴方は新人トレーナーの意見を全面的に正しいと肯定した上で言葉を続けました。心の在り方や決意、それに競技者としての矜持やトレセン学園の制服に袖を通したときの想いはウマ娘本人にしかわからない。お前の言う通りトレーナーとして正しい姿は常に現実的な判断を選ぶことにあり、社会的な評価を最優先として考えるならば無謀な挑戦に意味など無いと同意の姿勢を見せます。

 徹底的に新人トレーナーの価値観を称賛したところで、次は自分のスタイルが欠点だらけであることをアピールすることにしましょう。その上で自分は他人の評価など蹄鉄に挟まった砂の一粒ほどにも価値など感じていないこと、故にウマ娘たちが勝率など無視して上を目指し這いつくばるようにコースの上にしがみついていても全く気にしないこと、そもそもの前提としてリスク回避こそが最善だと謳うのであれば勝負の世界になど飛び込まずに安全な観客席から出なければいいと断言しました。

 

 あまりにもトレーナーという肩書きを侮る考え方を聞かされたせいか、新人トレーナーは言葉を失い呆然としている様子。

 

 そしてミスターシービーなどは貴方のあまりの愚かぶりに嘲笑うかのような声が漏れていますし、偶然通りかかったエアシャカールは訝しむような表情を隠そうともしませんし、大福を食べていたハルウララの口元にハンカチを当てていたキングヘイローからは「なに言ってんだコイツ」という無言の声が聞こえてきそうですし、マヤノトップガンはいつものコメ顔をしているので効果は抜群でしょう! 

 

 

 さぁ、ここまでくればあとは最後の仕上げを残すのみ! 自分がウマ娘のことはもちろんトレーナーとしての責任ともなにひとつ真面目に向き合っていないことを自信満々に喧伝した貴方は、穏やかな微笑みを崩さないまま新人トレーナーへ歩み寄り「別に先の俺の言葉は覚えておく必要もなければ気にかける必要すらない。危険な冒険より安全で安定した評価が大事なお前には意味のない価値観だろう?」と優しく語りかけました。

 

 

 これだけわかりやすく格の違いを見せつけたのだから、安心してサイレンススズカがスカウトされるところを眺めることができるだろう。その瞬間を今か今かとワクワクして待っている貴方。

 しかし名誉ある中央トレセン学園に救いようの無いレベルで残念なトレーナーが在籍していたことがよほどショックだったのか、期待の新人トレーナーは全身から不機嫌さを撒き散らしながら立ち去ってしまいました。

 

 そうか、安全であることを重視しながらトレーナーとしての評価を上げるという向上心もある彼はより素晴らしい育成プランを組み立て自分に叩きつけることでスカウトを確実にするつもりなんだな! と結論づけた貴方はサイレンススズカがどのような反応をしているのか確かめるために振り向き────真剣な表情で観光マップにボールペンで書き込んでいる様子から「あ、もしかしなくてもコイツさっきのやり取りなにひとつ聞いてなかったな?」と察するのでした。

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