貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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とききざむ しんそくの あたますずか。

「よぉ〜しッ! 今日もみんなでトレーニングの始まりだもんッ! ちゃんとターボについてくるんだぞッ!!」

 

「いよっ、待ってましたよターボ先生ッ!」「今日もみんなのお手本になる走りをお願いしますターボ先生ッ!」「相変わらずチョロくてカワイイねターボ先生ッ!」「でもなんだかんだペース配分を覚えたのは偉いぞターボ先生ッ!」

 

「えっと、あの……どうして私はロープで繋がれているのかしら……?」

 

「トレーナーの指示だぞ! こうしないとスズカは勝手にどっかにいっちゃうから! 今日はスズカもターボと一緒に走る日だぞ!」

 

「私は別に、自分のペースでちゃんとトレーニングを……」

 

「ダメッ! トレーナーが言ってたもんッ! この重りとバネがついたれっぐがーど? とかいうヤツを使ったトレーニングは、ターボたちの脚を頑丈にしてレースでケガをしないようにするためだって。だからスズカもサボらずにちゃんとやらなきゃダメなんだぞッ! ふふーん、ターボ師匠は弟子を甘やかしたりしないからなッ!」

 

「そうだぞたまには大人しくしろこの頭スズカ」「お前ただでさえ負担の大きい大逃げなんだから気をつけろよこの頭スズカ」「そもそも中等部の子に正論言われて恥ずかしくないのかこの頭スズカ」「そんなんだから頭スズカって言われてんだぞこの頭スズカ」

 

「え、ちょっとまってその頭スズカってどういう意味で使われてるの?」

 

 

 この世界のサイレンススズカは黒ジャージ姿で毎日王冠を悠々と逃げ切ったあと秋の天皇賞で春秋連覇を期待されていたトーセンジョーダンに大差をつけて勝利する未来がとある自称守銭奴トレーナーがトレセン学園から追放される程度の期待値で確定していますが、そんなことはお構い無しに貴方はいつの日かサイレンススズカがスカウトされるときに備えて今日もしっかり彼女を走らせています。

 

 特注のレッグガードを装備した集団の後ろを自転車で追いかけている貴方。荷台では髪の毛がチェーンに巻き込まれないよう上でまとめたゴールドシップが背中合わせに寄りかかり口笛を吹きながら中等部のウマ娘たちのトレーニングプランを片手でルービックキューブをカチャカチャと弄りながらチェックしています。

 ヒマならお前もトレーニングしろよ、と思っていてもそれを貴方が口にすることはありません。このまま大人しくしていてくれるのであればエアグルーヴに「さっさとなんとかしてこいたわけ」と無言で顎で使われることもないからです。なによりゴールドシップを捕獲する様子から“もしかしてあの黒ジャージの男が担当トレーナーなのだろうか”などという頓珍漢な勘違いをされても困ると貴方は考えているようです。

 

 

 背後の器用なひとり四重奏の口笛を聞きながら、貴方は先日やってきた名門出身という新人トレーナーのことを考えていました。

 

 丁寧な育成プランもそうですが、どうやら悪役トレーナーである貴方に対して物怖じすることなく意見をぶつけてきたところにも将来性が抜群であると期待している様子。

 取引ウマ娘の引き抜きが増えたのは喜ばしいことなのですが、どうにもスカウトに来るトレーナーたちの態度がまるで畏まっているかのようなことに貴方は不満を感じていたからです。

 

 以前トウカイテイオーとマヤノトップガンをスカウトするべく挑んできたトレーナーにも期待していたのですが、いまはまだ牙を隠す充電期間なのか丁寧な態度で第9レース場のトレーニングを観察しているばかり。

 ほかのトレーナーたちや整備スタッフの皆さんと盛んに交流しているのは良いのですが、あのときのようにギラギラとした気迫を見せて欲しいと思っていたところに今回の名門ルーキーの出現です。期待するなというほうが無理でしょう。

 

 さぁ、次のスカウトはいつになるのだろうかと貴方がワクワクしていると。

 

 

「おん? ……ほー。おいトレーナー、アレ見てみ? あそこ、ダートで中等部のウマ娘を熱心に指導してるヤツ。アイツこの前ブッ込んできたお坊ちゃんじゃねーの?」

 

 

 

 

「だから、何回同じことを言わせるんだよキミはッ!! 本当にボクの指示を理解しているのかッ!?」

 

「いや聞いてる、聞いてるってば。つーか結構イイ感じに出来てると思うんだけどな〜。ほら、実際タイムも縮まってんじゃ〜ん?」

 

「ちゃんとボクの言った通りに走ればもっと縮まるんだよ! あ〜、もうッ! 言葉だけでわからないなら……ちょっとこっちに来てッ!」

 

「ほいほーい。お隣失礼しますね〜」

 

「いいか、キミはコーナーに入るときの歩幅の変化にクセがあって──」

 

 

 

 

 どうしてそうなった? というのが貴方の素直な感想です。エリート新人トレーナーが指導しているウマ娘の能力は当然しっかり把握していますが、彼女はサイレンススズカの適性とは違い短距離のダートに可能性を秘めたウマ娘なのです。

 耳を澄ませば聞こえてくる指導内容、もちろんそれはウマ娘の適性に合わせたものであってサイレンススズカのための予行練習などではありません。完全にダートの短距離で勝たせるための指導でありターフでもなければマイルや中距離でもないのです。

 

 さらには新人トレーナーの服装などもいつの間にか変化しています。白シャツにネクタイはそのままですが、ビジネスマンのようにスマートだった格好は動きやすそうなデニムとジャージの上着に変更され、タブレット端末ではなくクリップボードとボールペンを使いウマ娘に走り方を説明しているではありませんか。

 

 本当にどうしてそうなった? 

 

 サイレンススズカのスカウトは? 

 

 期待していた新人トレーナーが迷走している姿を目撃してしまった貴方は珍しく混乱してしまいましたが────。

 

 

 

 

「……よし、今度こそ理解したな? それじゃさっそく確認するからもう一本、計測するぞ」

 

「あいよ〜。まぁバッチリ決めちゃるから安心しなさいな、トレーナーちゃん♪」

 

「本当かよ……? まぁいい、とにかく始めるからなッ!」

 

 

 

 

 とりあえず楽しそうだし、あれだけ熱心に指導したいと思えるようなウマ娘と出会えたのであれば勝手に成長して一人前のトレーナーになるだろうから別にいいか……と、キコキコ自転車のペダルを踏み込むのでした。





 次回はがんばれ名門トレセン新人ボクがダートウマ娘の担当になった理由です。
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