貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
答えへ向かう時間。
「今回の交流会はアタリとハズレ、どっちだと思う?」
「さぁ〜? どっちだとしてもウチらにはそんな関係ないっしょ。そーゆーのはやる気が売れ残ってるヤツらだけガンバってりゃいいでしょそんなん」
「ははっ、ホントそれな。どーせ私らみたいなソロ組に割り当てられるトレーナーなんて余り物もいいとこでしょ」
「そ〜だろ〜けどさ〜、もっとこう前向きな意見出ないんかアンタらは。トレーナーがアレでもウマ娘がアタリの可能性だってあるでしょ?」
「つまりどっちもハズレの可能性だって高いってことですよね? それ。適当に身構えてたほうが気楽ですよ、どうせ大した意味なんて無いんですから」
中央トレセン学園の関係者との交流会に対するモチベーションは立場によって様々であるが、少なくとも────空き部屋が沢山あるから、という理由だけで自分たちのルームが充てがわれていることを自覚しているウマ娘たちにとってはこの程度のイベントであった。
無意味、とは言わない。真面目に地方ウマ娘たちの能力向上について考えてくれるトレーナーが先輩たちを熱心に指導している姿は何度も見たことがあるし、模擬レースの内容はともかくとして……まぁ、純粋に友好的に仲を深めようと歩み寄ってくれる中央のウマ娘たちと話したことだってある。
だが、彼女たちは世の中というものが、社会というものがそこまで綺麗な出来事だけではないことも知っているのだ。
自分の育成プランは完璧なのだから結果が出ないのはお前たちのせいだと怒鳴り散らすエリートと呼ばれる中央のトレーナーと、相手の肩書きに対して一生懸命に頭を下げてご機嫌伺いばかりの地方トレーナーという構図も見慣れたもの。
あるいは、重賞レースで活躍していることが御自慢の自称スターウマ娘とやらがGⅠレースで入着すらできずにいる苛立ちを解消するために格下狩りを楽しんで自尊心を満たそうとする姿なども含めて。
そのことに憤りを感じるほど、このルームに集まっているウマ娘たちの心には熱量など残っていない。少なくとも本人たちはそう信じている。
なるほど、才能に恵まれたウマ娘だけを集めても結局はそこから何割かのダメな奴が出てくるのかと感心する余裕すらあるぐらいだ。
あるいは……そうした性根が見透かされて担当トレーナーが見つからない可能性もあるのだろう。人手不足、トレーナー不足はそれはそれとして、誰だってやる気の見えない相手のために時間を使いたくない。
と、まぁ。これだけマイナス方向にメンタルが傾いている彼女たちが中央トレセン学園との交流会に対して積極的になれないのは当然と言えば当然であるし、いくら中央所属のトレーナーが面倒を見てくれると言われたところで期待などするワケがないのだが。
「────オイお前らッ! いますぐ部屋ァ片付けろッ!!」
「ちょ、どうしたん急に」
「あー、なんか教官とか教師から言われたか?」
「ハイハイ、お客様にシツレ〜のないようにってね」
「別にアタシらの評価とかさぁ……そもそも担当ナシで出走してるウマ娘に割り当てられるトレーナーとかそんな……ねぇ?」
大慌てで飛び込んできたウマ娘の焦っているような物言いに対して返ってくるのは冷ややかな、あるいは自虐的な言葉ばかり。
だが。
「ほーん? お前らが俺の指導を割り当てられたウマ娘どもか。なんだ、そこそこちゃんとした部屋じゃねぇの。しかし結構な人数いるなぁ〜こりゃまた。ハハッ!」
「「「「…………は?」」」」
理解が遅れ、反応が遅れた地方ウマ娘たちをいったい誰が責めることができるのだろうか?
有名になり過ぎてメーカーが生産について様々な対応をすることになってしまった黒ジャージ、本来ならば表舞台に出てくるはずがない未契約の証明である育成評価『G』のトレーナーバッジ、そしてトゥインクル・シリーズで活躍するGⅠレースの勝ちウマ娘たち。
噂ではURAも中央トレセン学園も彼に対する取材については遠回しに拒否を続けている、らしい。ネットでは名門を名乗る派閥によるなにやら面倒なアレコレが関わっているのではと賑わっているが、中央トレセン学園の
いやいや、そんなことはどうでもいい。
プライドだけがグランプリ級の連中とキラキラ(物理)の繋がりが強すぎてスターウマ娘たちへの取材が難航しているメディア関係者のアホどものことなんていまはどうでもいいのだ。
駆け足で報せにきたウマ娘が「あちゃ〜……」と額に手をやりダラけていたウマ娘たちが一斉に立ち上がり姿勢を正す。
対称的な心底楽しそうにケラケラと笑っているミスターシービーと、呆れたような困ったようなほほ笑みを浮かべるマルゼンスキーの姿。
疑うまでもなく、本物。
いろんな意味で、本物の、中央トレセン学園のトレーナーだ。
◇◇◇
「……やべぇ。寝不足がやべぇわ」
「ホントそれ。いやぁ……マジで、うん」
交流会最終日の模擬レース開始前。黒ジャージ軍団と一緒にトレーニングに励んでいた地方ウマ娘たちのコンディションはわかりやすく寝不足であった。
走る姿を見せろと言われ、コースの上から戻ってみればひとりひとりに手書きのトレーニングメニューが手渡される。しかも軽く自己紹介したとはいえ、全員の顔と名前を正確に覚えているというオマケつき。
それはまるで予言書のように、メニューに従うだけで成長が実感できるという代物。一日ごとに、いや一回ごとに走りが改善していく魔法のようであり────そこに模擬レースでの走り方まで丁寧に記されているのだ、睡眠時間を削るほど読み返したくなるのも当然である。
勝てる、とは思っていない。
あのトレーナー
そうだ、トレーナーと契約してレースに挑んでも必ず結果が出せるなんて保証はない。まして、交流会という短く限られた時間でのトレーニングで急激に強くなれるはずがない。最初のレースで、ゲートが開かれた瞬間、走り出したその瞬間まで地方ウマ娘はそう諦めていたのに。
(あれ、視界が……広いような……えぇ……?)
一人目。
先行の位置についたウマ娘は、前を走る中央のウマ娘の背中のさらに先までしっかりとコースが見えていることに驚いていた。
いや、それだけではない。自分の後ろを走っているウマ娘たちの様子までなんとなくわかる、ような気がした。見えるはずのない姿も、聞こえるはずのない息遣いも。
(クソッ、クソッ、クソがよ〜ッ! こんなことなら最初っから────全ブッパで走りゃよかったぜクッソォ〜ッ!!)
三人目。
彼女は先に走った仲間のアドバイスを適当に聞き流してしまったことを激しく後悔しながらも、その口元はしっかりと吊り上がっている。
驚くほど脚が動く。謎の重りをつけて延々と走らされていただけの数日間、一緒にトレーニングしていた黒ジャージ組からの「意味が理解できなくても結果が勝手についてくる」という言葉をもっと頭をバカにして素直に聞いていればよかったと後悔しながら。
(違います、ね。気持ちひとつでこうも変わるものですかッ! 勝てるわけない、が……勝てるかどうかわからない、に変わるだけでこうも……ッ!!)
六人目。
可能性を疑うには先に走った仲間たちの表情はあまりにも清々しいものであった。それは勝つことはできずとも、自分らしい走りができた満足感によるもの。
だが地方で、単独出走で燻っていたとしても彼女たちはウマ娘。勝利への道筋を見せられてしまえば、それがどれほどか細くて頼りなかったとしても走らずにはいられない。まして中央トレセン学園側のために用意された席ではなく、自分たちを応援するためにこちら側にトレーナーさんが立っていてくれているのだから。
(スロー、スロー、クイッククイックスロー。あはっ♪ サプライズは喜んでくれているのかな? ねぇ、中央トレセン学園のご友人ッ!!)
十一人目。
差しの位置から前に出る。事前にトレーナーさんから指示された通りの動きで、タイミングで、走りで、普段であれば悠々と遥か前を走る中央トレセン学園のウマ娘たちを追い越して。
それでも先頭を奪うにはまだまだ能力が足りていないのは仕方ないとして、だが一瞬だけ見えた表情────地方ウマ娘程度に追い詰められているという事実を信じられないのか、焦燥感に歪むその顔は背中に張り付く地方ウマ娘の自尊心を大いに満たすものであった。
そして。
◇◇◇
「大丈夫? 驚き過ぎていきなり気ィ失ってたりしない? タバスコ飲む?」
「いや、いらないって……そりゃね、まだ信じられないけど……でも、さすがにね、少しは気分も落ち着いたっていうか……たぶん」
しばらくは周囲が賑やかになりそうだと、中央トレセン学園のウマ娘に一矢報いることに成功した地方ウマ娘は他人事のように考えていた。
爆音としか表現できないような仲間たちの────地方トレセン学園のウマ娘たち、教官たち、トレーナーたちの大歓声を受けてもなお実感の薄い勝利。
確かに、そう……確かに。手渡されたトレーニングプランを確認したときはメイクデビューでスタートダッシュを失敗した記憶が蘇って苦虫を噛み潰したような気分であったが、少しだけ癖のある手書きで丁寧に丁寧に書き込まれたそれは読んでいるうちに追い込みでコースの上を走る自分の姿を想像できるようになってはいた。
だがどうしても現実味が無い。そりゃそうだ、地方と中央は違いを考えるだけ時間のムダだと誰もが言っていた。自分たちを不憫に思ってか、それとも単純に一生懸命なのかはわからないが、ともかくそうした教官やトレーナーでさえも言葉を選びはするがその事実を覆してまで地方トレセン学園のウマ娘たちを励ますようなことはしなかった。いや、したくてもできなかったというのが正しいのかもしれないけれど。
ただ、そんなぼんやりとした頭でも「ザマァ見ろ」という感情だけはしっかりと働いていた。
中央の名門トレーナーども。
中央のエリートウマ娘ども。
地方の媚びる連中も含めて。
結局、誰が一番スッキリしたのだろうか? 自分の勝利に喜んでくれたのは友人たちだけでもなく教官やトレーナーだってそうだ。
それに中央トレセン学園からやってきた人たちだってそう、黒ジャージ軍団以外も地方側のエリアで盛り上がっていた。
うん、まぁ……とにかく勝てたんだな、と。地方ウマ娘がぼんやりしているところに。
「メイクデビューから随分と久しぶりだな、追い込みでお前がレースに勝つのを見るのは」
「……はい?」
「なにを考えて前のほうでイロイロと試行錯誤を繰り返していたのかは知らねぇし興味もねぇ。俺には関係のないことだしな」
「えっと……」
「だが間違いなく追い込みのウマ娘だよ、お前は。信じるかどうかは勝手だが……なんなら賭けてやってもいいぞ。このトレーナーバッジをなぁ?」
「……えぇ?」
「オイ、シリウスとの退学を賭けたギャンブルで思いっきりゲンコツをくれやがったクセになんてこと言ってやがるんだアンタは」
「お前らの“お遊び”と一緒にするんじゃねぇよ。それによぉ?
「
「オウ、なんだ?」
「何故、私たちのために真剣に時間を使ってくれたのでしょうか? トレーナーさんもご存知のはずです、中央トレセン学園と地方トレセン学園のウマ娘の走りは雲泥の差があって、真面目に比較することすら意味がないと言われているほど」
「知らねぇよ、そんなこと」
「そんなことって」
「中央だろうと地方だろうと相手がウマ娘なら俺のやることは変わらないし、変える気もねぇし、変える必要すらねぇ。やりたいことも、やるべきことも決まってんだからな。そもそもの話、だ。仮に中央と地方を明確に差別する天秤があったとして、日本中のトレーナーとウマ娘がそれを正しいものだと納得していたとして────俺がそれに大人しく従わなきゃいけねぇ理由ってナニよ?」
誰も言葉が出てこない。
勝利の余韻を数秒で消し飛ばされたウマ娘も、なぜ地方のウマ娘のために本気でトレーニングを考えてくれたのか質問したウマ娘も、そんなふたりの様子を周囲で見ていたウマ娘も、少し離れたところでこのやり取りを見守っていた地方トレセン学園の教官やトレーナーたちも。
ただ、彼と同じ黒ジャージを着たウマ娘たちだけが当たり前のようにトレーナーさんの言葉を受け入れている。常識なんて関係ないと、そんなものは自分の信念の前ではなんの意味もないと言い切るトレーナーさんの姿を、まるでなんということはない日常会話の一部であるかのように。
◇◇◇
「……帰っちゃったねぇ。どうする? メイクデビューから見てくれてたってさ。涙出そうならみんなで後ろ向いておくけど」
「ん、いい。私は後で泣く」
「そうかよ。しかし、なんつーか……コイツは困ったっつーか。こりゃ今度から言い訳できねぇぞコレはよ」
誰にも期待されていないからこそ、理由をつけて自分たちを納得させて諦めることができた。
だが、よりにもよって……だ。全員の顔と名前が一致していたのも、あっという間にトレーニングプランを書き上げていたのも、決して偶然ではなかった。仮に偶然だったとしても充分おかしいのだが。
「ま、頑張るしかないでしょ……地方のウマ娘でも、中央のウマ娘に勝てるって証明しちゃったし。それに、次は勝負しようってGⅠウマ娘さま直々に挑戦状を手渡されちゃったしね 。さてさて、トゥインクル・シリーズに嵐を呼んだトレーナーさんが組んだ距離やら作戦やらの全ての組み合わせで作られたって話のトレーニングプランとやらを向こうの副会長サンから頂いたワケだけど……こりゃまた、しばらく寝不足になりそうってハナシだよ」
なんとなく地方ウマ娘たちに火がついた気がしますが追放RTA的には誤差だよ誤差。
続きは年末年始の休み中にコアラのマーチでも食べながら、次は有マ記念でネームドウマ娘たちに敗北して引退していくモブ取引ウマ娘たちの物語になります。
そのあとにオマケをひとつ、もしくは複数投稿してから中等部メインのストーリーが開始する予定です。