貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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こりゃま。

「いや、わりと本気で参りましたよ……。月刊トゥインクルの人たちはともかく、ほかの連中は本当に……オグリのことを値踏みするかのような視線が気に入らないからって、雑な対応をするワケにもいかないし、そのせいでグイグイ鬱陶しいったらそれはもう。ついでにベテランチームを名乗ってるところからの上から目線のスカウトも断るのが面倒でしたけれどね。ま、不幸中の幸いなのはたづなさんや理事長とか、良くして貰ってるトレーナーの皆さんはその辺りの事情を察してくれていることですかねぇ。あ、先輩、自分メロンソーダでいいっすよ。ペットボトルのままでも全然いいんでよ〜く冷えてるヤツをよろしくお願いだだだだだだだッ!? サーセンッ! 調子乗りましたッ! ハイッ! 自分でちゃんと、もちろん先輩のぶんもご用意させていただきます本当スンマセンでしぃだだだだだぁッ!?」

 

 

 セクハラやパワハラが問題視されていたとしても追放が目的の貴方は後輩トレーナーを遠慮なく可愛がることが可能です。

 

 ですが、いくら追放のためにヘイトを稼ぐことに余念の無い貴方といえど、わざわざストロングハラスメントを実行するためにオグリトレーナーをルームに呼んだりはしません。

 どうやらオグリキャップが活躍した影響によるもので、あまり歓迎できないような出来事が続いたため、その手の人種が近寄ることのできない貴方のルームに避難してきたようです。

 

 もちろん特別な測定具を使わずとも自前の判断力でシャトルバスとブラックバスを見分けることができる貴方はオグリトレーナーが苦渋の決断で自分のルームに逃げてきたことなどバッチリお見通しの様子。

 このわざとらしい騒がしさは、自分のような悪役トレーナーの支配する空間でオグリキャップに襲い掛かるストレスを少しでも減らすために道化を演じているのでしょう。

 

 なお、オグリキャップ本人はルーム内の畳エリアにてシンボリルドルフほか有マ記念で競い合ったライバルたちと一緒にこたつでタマモクロスが仕切る年越し前の在庫処分鉄板焼きを楽しんでいますが担当でもなければ取引ウマ娘でもないので貴方はまったく興味を示していません。

 

 

「おぉう……いや、これ頭蓋骨が凹んでるんじゃないかコレ……? あー、まぁ。もちろんオグリが注目されることは嬉しいですけれどね。だからこそ有マ記念を走れて、そして勝てたワケですから。でも、俺としては……贅沢で生意気ではありますけど、どこどこの有名チームに所属したとか、なんとかって有名な雑誌で紹介されたとか、そんなことよりファンの記憶に残ってくれれば充分なんですよ。って、いうか。先輩だからぶっちゃけますけどイロイロ面倒臭いからってA評価への昇格を断ってるのにチーム作ることになっちゃって取材とかやってる余裕ないんですよ……地方からの転入予定の子たちを頼みますってたづなさんの笑顔もなんというか、その、妙に迫力あったしで……」

 

 

 なるほど、オグリキャップを育てた実績を見込まれて地方からの転入組を中心としたチームを任されるのか。

 

 その理屈は貴方にも理解できますが、オグリトレーナーの口ぶりからして本来であれば正式なチーム結成にはA評価のトレーナーである必要があるはず。

 その道理を捻じ曲げるような真似を理事長秘書である駿川たづな女史が認めるとは何故なのか? 前例の無い事柄への挑戦はリスクが付き物であることを思えば、その判断は吉と出るか凶と出るかは怪しいところ。

 

 その違和感について貴方もほんの数瞬ほど考えはしましたが、悪役トレーナーである貴方は中央トレセン学園としての方針について口出しする権利もなければ必要もありませんのでそういうこともあるだろうと納得することにしました。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 宴も終わり、片付けもひと通り完了すれば、ルームに残っているのは今回の有マ記念を引退レースとした取引ウマ娘たちばかり。

 

 貴方のルームには取り引きで活用する様々なデータが大量にありますが、それらは貴重なレースの資料であると同時に彼女たちの個人情報でもあります。

 引退したからといって今日明日にいきなり中央トレセン学園から去っていくワケではありませんが、取り引きが完了した以上はこれらの取り扱いについてはしっかりと本人たちの意見を聞かなければなりません。

 

 貴方の考えとしては希望するのであれば全てまとめて処分する、あるいはウマ娘たちへ返却するつもりでしたが────どうやら貴方に個人情報を握られるリスクよりも後輩たちのトレーニングが充実することを選んだようです。

 

 その先輩ウマ娘として後輩ウマ娘たちの活躍を願う心は称賛に値する、で終わるようでは悪役トレーナーとしては二流以下でしょう。

 その気高き精神を逆撫でするために、いつものようにヘイトを稼ぐべく余計なひと言を添えるのを忘れる貴方ではありません! 

 

 あれやこれやと長々語るようでは野暮ったくなってしまいますし、なにより今回のレースでアスリートとして区切りがついた取引ウマ娘たちも今日までに蓄積された疲労が全身を蝕んでいるはずです。

 ならば言葉は限界まで無駄を削り取ってシンプルにしたほうが効果的だろう。そう考えた貴方はルームから立ち去ろうとする取引ウマ娘たちへ、これまでの努力や真剣勝負を台無しにするためにたったひと言「楽しかったか?」とほくそ笑むのでした。




 次回は有マ記念視点です。
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