貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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 世界観なんてものはとある三姉妹のホラゲー実況でも聞きながら後付けで考えりゃ充分ですよ。真面目なヒトにはわからんのです。

 ところでぱかチューブ見てて気づいたんですがシーザリオって中の人たぶん3人ぐらい? いますよね。



☆生存報告用のオマケ☆

 凱旋門賞。

 

 それは世界中の人々が認める夢の舞台。そのレースを走るウマ娘にとっても、そのウマ娘を送り出すトレーナーにとっても、彼女たちの真剣勝負を見守る観客たちにとっても。あるいは、レース業界そのものに関わりが無い者や特別興味を持たない者にすら認知されている最高の名誉。

 ならば、だ。その名誉ある夢の舞台で世界中から集うライバルたちを蹴散らし見事一着となったウマ娘に贈られる称賛はどれほどのモノになるだろうか。その素晴らしき走りを世界中に魅せたウマ娘を育て上げたトレーナーに与えられる称賛はどれほどのモノになるだろうか。少なくとも【世界最強】のひと言で終わるほど単純ではないのだろう。

 

 当然、それだけ注目されるということは()()()()()()()()()も大きくなる。本人が望まなくても大衆とは英雄は常に常人とは異なる存在であることを求める。

 猛獣殺しの義務、ほど物騒な話にならないのはウマ娘たちにはウイニングライブという誰でも楽しめるアピールの機会が設けられているからに過ぎない。手段が違うだけで目的は変わらないのだ。

 

 だからこそ。困難と、義務と、責任と。単純な名誉だけで終わらないからこそ凱旋門ウマ娘と凱旋門トレーナーという存在は同業者たちもまた、彼ら彼女らは特別な存在であると認めるし……多少の優遇にも不満を漏らすようなことはしない。文句があるならお前も凱旋門賞で勝てばいい、と反論されればそれで終わりなのだから。もちろん日陰でグチグチと腐る者がいたとしても勝負の世界ならば仕方のないことではあるのだが。

 

 ともあれ。

 

 現在の凱旋門トレーナーと、彼が担当するウマ娘たち。その実力を疑う者、表立って不平不満をぶつける者はまずいない。マスコミも面白おかしくその活躍を報道するし、本場フランスの中央トレセン学園にてそのチームに与えられた広いルームでは後輩トレーナーたちに熱心に指導しているに違いない……と。一般のファンだけでなくトレーナーやウマ娘を含む多くの関係者たちは想像していた。

 

 そんな羨望を多方向から向けられている男はいま────。

 

 

 

 

 

 

「……………………チッ!」

 

 

 

 

 

 

 忌々しい、という感情を欠片も隠そうとせずダイエットコーラをがぶ飲みしながら自分を褒め称える内容が書かれた雑誌を握り潰していた。

 

 

 気まずい、などというレベルではない。凱旋門賞で華々しい結果を残し続けているトレーナーというだけでも周囲は良くも悪くも気を遣うことになる。

 まして、それが自分の所属するチームのチーフトレーナーであれば尚更のこと。後輩のトレーナーたちはもちろん、所属しているウマ娘たちも忌々しいと言わんばかりにコーラをがぶ飲みしている凱旋門トレーナーの行動を恐る恐るといった様子で見守っていた。

 

 いや、正確には彼の相棒である凱旋門ウマ娘だけは平常運転である。握り潰された雑誌をゴミ箱に投げ入れようとして失敗しても咎めるようなこともせず、黙って拾って処理してそのままテーブルに戻り不機嫌極まりない担当トレーナーの隣でも涼しい顔でミルクティーを味わっている。

 それだけが、せめてもの救い。長年の付き合いである彼女が普段と変わらぬ様子であることが、ルームに集うトレーナーたちウマ娘たちにとって凱旋門トレーナーになにかこう……トラブル的な? とにかく困った事態になっているワケではないことの証明なのだ。それはそれとして平時の彼が紳士的であるからこそ、こうして人目を気にせず荒れている姿が割増しで恐ろしいのであるが。

 

 

「……以前」

 

 

 ビクリッ! と皆の肩が跳ね上がる。

 

 

「随分と前のこと、そう……亡くなった私の(センセイ)にどうにか教えを、と頼み込んでいたときのことだ。かつて、凱旋門賞に殴り込んできた一組のトレーナーとウマ娘が……日本からやってきたときの話を聞かせてもらったことがある。ウマ娘のほうは……ともかく。トレーナーのほうはいまも現役で、日本では最高評価のトレーナーとして活動している男性の老トレーナーの話をな」

 

「皆も知っているだろうが……私も話に聞くだけではなく映像で確認したが、その年は勝者がふたりいると言われるほどの接戦だった。それまで入着すら叶わなかった日本のウマ娘がギリギリまで我がフランスの精鋭を追い詰めたのだからな。日本のウマ娘でも世界の頂点に挑めるのだと証明したのだ、日本中が彼等の功績を褒め称えたのも当然だろう」

 

「喜んだのは日本人だけではない。師もだ。人格的には多少、問題があるお方ではあったが……特にタバコに関しては、完全に禁煙するまでずいぶんと口うるさく……いま、思えば。弟子の分際でもう少し言い方がとも思うが……とにかく、本当に優秀な人だった。だからこそ師は喜んだそうだ。自分と対等に競え合えるライバルが遠く異国の地に居たのだと知って」

 

「しかし……その日本人の老トレーナーが再び凱旋門賞に乗り込んでくることは無かったそうだ。日本からの挑戦者がいなくなったワケではない。ただ、その老トレーナーだけが2度とロンシャンレース場にやってくることはなかったのだ」

 

「もちろん、ようやく巡り合えたライバルが腑抜けたのでは師とて面白くない。なにかと理由をつけて日本に渡り、今度は自分が逆に老トレーナーのところへ殴り込んだ形だな。そういう行動力だけは本当に尊敬しているよ。そして……どのような会話をしたのかまでは教えてくれなかったが、ひとつだけ。日本人の称賛が、彼の心を折ってしまったのだと、それだけは教えてくれた」

 

「正直、当時の私は……いや、つい最近までか。私には全く意味がわからなかった。その老トレーナーは可能性を見せたのだ。日本のウマ娘も世界の頂点を掴めるかもしれないという可能性を。それは日本中のレースを愛する者たちにとって希望だったのは簡単に想像できる。だからこそ日本人たちは老トレーナーを称賛したのだ。それを誇るならまだしも、それを理由に勝負から逃げ出すなど……理解できるはずがない。だが」

 

 

 トスン……とペットボトルを静かに置いたのは多少の冷静さを取り戻したからか。しかし声は相変わらず不機嫌なまま。

 生前の師が弟子である凱旋門トレーナー以外の誰からも喫煙を咎められなかったように、ルームにいる者たちは誰もなにも言えない。

 

 そんな栄光と呼ばれる強制力を発揮していることを察せぬまま、凱旋門トレーナーは雑誌が捨てられたゴミ箱を軽く睨んでから言葉を続ける。

 

 

「師と老トレーナーがどのような会話をしたのかはわからない。老トレーナーの本心も想像できない。それでもひとつだけ私にも理解できることがある。()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだということがな。健闘を称える行為を否定するつもりはないのだが……それでも、だ。本気で挑んだ勝負で敗北を祝福されることが、これほどまで忌々しく感じることがあるのだなと……ハハッ、まだまだ世の中には新しい発見があるものだな?」

 

 

 凱旋門トレーナー、現在ジャパンカップで連敗中。しかしメディアがそれを批判することはない。国際G1として認められているが所詮はレース後進国が開催しているお祭りのお遊びなのだ、それで敗北したところで凱旋門賞の英雄としての名誉にはなんの影響もないと信じている。

 社会人としての立場がある。教育者としての立場がある。レースの世界で頂点に立った者として求められる相応の振る舞いがある。その程度のことは理屈として理性として頭では理解している。それでも、それでも凱旋門トレーナーとて感情を持つ人間なのだ。本気で勝つつもりで本気で挑んだ勝負をお遊び扱いされた怒りまで取り繕うことは難しい。

 

 実際のところジャパンカップというレースに対する評価はビックリするほどバラバラである。メディアだけが我々はレース先進国なのだからと侮ってるかと言えばそんなことはない。そもそも大衆の多くは他国のレースやウマ娘にそこまで関心がないのだから侮る以前の問題であった。

 日本とて例外ではない。凱旋門賞というレースの存在を認知しているからといって興味はまた別の話。ヒトでもウマ娘でも「凱旋門賞? 知ってる知ってる、なんか世界でやるレースのすごくすごいヤツでしょ? でもそんなことより中央のトレセンのチャンネルで配信される“仁義なきスプラッシュサバイバル”の逃げ切りシスターズ対ゴールドラッシュ一族が見たいからまた今度ね」といった考えを持つ者も少なくない。

 

 事実。この凱旋門トレーナーとて自分自身で情報を集めるまではそうだった。他人の評価を鵜呑みにして“日本はレース後進国”という言葉を真実として受け止めることに疑問を抱いたことなど無い。

 

 

(幸運だった。もしもジャパンカップに興味を示さなければ。日本のウマ娘たちの走りが変化しているという話を聞き流していたら。オレは箱庭の中で王様気分に浸るだけの存在として……置き去りにされていた。マジで笑い話にもならねぇ)

 

 

 トレーナーとして高い能力を持つが故に視野が狭くなっていた男は、トレーナーとして高い能力を持つが故に日本のウマ娘たちの新たな走りを面白いと理解して、そして────彼女たちを変えた【Ghost】を打倒しなければトレーナーという存在そのものが脅かされると確信した。

 

 

 日本のURAが公表する情報では未だにGhostは担当契約をしていない、ということになっていた。しかし少し情報を集めれば、日本のレースの記録を確認すれば、彼がミスターシービーの事実上の担当トレーナーであることは明らかである。

 そのミスターシービーの走りこそが問題だった。彼女の走りは素晴らしいモノである、そこに異論はない。だが彼女の走りは、長いレースの歴史の中で培われてきた知識や経験とは全く異なる価値観で鍛えられた走りは……そのあまりにも自由で、あまりにもミスターシービーらしい走りは、トレーナーという存在を否定する走り方なのだ。

 

 ウマ娘の走り方について質問すれば、大抵の場合は前から順番に【逃げ】から始まり王道の【先行】と【差し】がきてから【追込】もあるなと答えが返ってくるだろう。レースではその4種の作戦の中から、ウマ娘の能力や性格に合わせて選ぶことなど素人でも知っている。

 ならば、レースの序盤中盤と後ろで脚をためて終盤で一気に追い抜くスタイルのミスターシービーは追込を得意とするウマ娘であると、普通に考えれば、普通のトレーナーであればそう結論付ける。否、そうでなければならない。バ場と距離の脚質、そして作戦。それらはウマ娘を安全に活躍させるためトレーナーたちが過去から現在に継ぎ渡してきたのだから。

 

 だがミスターシービーの走りはそうではない。それに当てはまらない。既存の知識には、トレーナーの常識では彼女の走りを定義することはできない。ミスターシービーの走りは追込ではなくどこまでも【ミスターシービー】という世界で唯一無二の彼女だけに許されたスタイルなのだ。

 

 

 そのウマ娘が、自分らしく走る。そしてレースに勝つ。それはとても魅力的で、とても理想的で、とても────とても、恐ろしい光景。

 

 

 ミスターシービーが彼女らしく走れば走るほど、その向こう側に存在するはずの、存在しなければならないはずのトレーナーの姿は霞んでゆく。ミスターシービーが活躍すればするほどトレーナーの使命と誇りが否定されてしまう。

 これなら最初の大逃げウマ娘のほうがまだ許容できた。彼女の引退を惜しむ声は多かったし、担当トレーナーさえいれば適切なケアを受けていまも走り続けることができたはず、などという的外れな意見もあるが……彼女の走りにはまだ、彼女の夢を叶えるためにGhostが大逃げを教えたのだと理解する余地が残されていた。

 

 ミスターシービーも、あの大逃げウマ娘も、ふたりを支えたGhostの在り方に違いはない。ただウマ娘の希望に寄り添っただけ。だが自分で自分の存在意義を否定するような真似は凱旋門トレーナーには不可能だ。

 

 だからこそ、彼はGhostの育てたウマ娘に勝たねばならない。これは理屈ではなく感情の問題。目的のためなら当たり前のように常識に喧嘩を売るのがGhostのやり方ならば、先人たちが積み重ねてきた知識と経験は無駄ではないと証明するのが自分の役目。

 そうまでしてGhostのスタイルを否定したいのか? と問われればそんなつもりは無いのだろう。ただ、認めるのが癪なだけ。つまりは気に入らないから敵対心を燃やしているという、まるで小さな子どもの理屈のような……むしろ完全にガキの喧嘩だという自覚もある。

 

 仕方ないのだ。負けず嫌いでなければトレーナーとして結果を残すことはできない。自分が育てたウマ娘こそが最強だと、ほかのライバルたちよりも唯一抜きん出ているのだと断言できる者でなければトレーナーを長く続けることはできないのだから。

 幸いにして担当しているウマ娘たちともジャパンカップで勝ちたいという思いは共有できている。彼女たちもやはり負けず嫌いのアスリート、スポーツ医学ほか様々な分野からのアプローチで鍛え上げた自慢の脚は誰にも負けないし負けたくない。あんな好き勝手自分勝手にレースを走る野生児のようなウマ娘には特に、だ。

 

 まぁ、つまり……いろいろ御託を並べてはいるが、結局のところ“自分が認めた相手だからこそ負けたのが悔しいのでリベンジをはたしてやらにゃあ気が済まねぇ”という結論に至るだけのことでもあり。

 そんな具合にモチベーションを激しく燃やして本気で勝つために準備して日本に乗り込んで挑んで走って負けて次こそブッちぎってやらぁッ!! と意気込んでいるところに────メディアから「アレはお遊びだから負けてもノーカンでしょ? だってこっちは凱旋門トレーナーに凱旋門賞ウマ娘なんだから」とナメた記事を書かれたワケで。

 

 そりゃあ舌打ちのひとつやふたつ出るだろう。こちとら正真正銘の全身全霊で挑んでいる勝負の結果をお遊び扱いで笑われたのだから。

 故に、件の老トレーナーもまた。敗北を祝福されたことで、例えば“誰も自分たちの勝利を信じていなかった”と受け取ったのかもしれない。

 

 少なくとも凱旋門トレーナーは自分を持ち上げる記事を読んでそのように感じてキレている。世界最高峰の名誉あるレースで勝利しておきながら、レース後進国である日本を相手に敗北するなどッ!! みたいに罵られたほうが何倍もマシだった。

 

 

「……少し、頭を冷やす必要があるな。皆、トレーニングはスケジュール通りに行うように。あぁ、なにかトラブルが起きたらすぐに連絡を。それぐらいの分別はついている、つもりだ」

 

 いくらか普段通りの調子を取り戻したことに安堵しつつ、トレーナーとウマ娘たちが退出してトレーニングに向かう。

 ルームに残っているのは凱旋門トレーナーと、これから彼がなにを始めるのかを知っている担当ウマ娘たちだけとなる。

 

 

「いつでも、どこでも。それこそ世界中の人間とパソコンひとつで簡単に会話ができる、って便利な世の中になったもんだよなぁ。……よし。こんにちは、世界のトレーナー諸君。このオンライン会議に参加してくれているということは、オレの提案について前向きな返答をもらえるってことでいいのかな?」

 

『その確認、必要かい? そうでなければこんな夜中にわざわざ時間を作るものかね』

『ハハッ。便利な機能が手軽に使えても、時差の問題だけはどうにもならないさ』

『おかげで日程の調整に苦労したわよ。と、いってもワタシのところはほんの数時間ほどでしかないけれど』

『なぁに、いざとなればURAのバックアップでウマ娘ごと移動しちまえばいいのさ』

『それはそれで面倒ですが。少なくとも各自の所属するトレセン学園にも許可を求める必要がありますので』

『まぁ……具体的なスケジュールが決定するまではオンライン会議で充分でしょう。それで? 大枠の部分についてはメールの通りであると?』

『打倒Ghostのために国境を越えて協力する。なかなか壮大な計画じゃないか』

 

「そうでもしなければヤツには勝てん。アンタたちも気づいているハズだ。ヤツが育てたウマ娘は、いまの日本のウマ娘たちは古い常識に囚われていては絶対に勝てない……ってコトにな。だが大人しく泣き寝入りなんてしてられない、となれば。やるしかないだろう? どんな手段でも、ライバル同士で手を組むことも」

 

『言葉遣いが荒いね。我々とて外の人間だよ? もう少し取り繕い給えよ』

 

「ちゃんと後輩の前では凱旋門トレーナーとして振る舞ってるからいいんだよ。もちろんメディア関係者にもな」

 

『それは、それで。こういうイタズラを企むには、注目され過ぎているのも考えものね? みんなで並走しましょ、な〜んてことになったらマスコミも確実に動くわよ?』

 

「そのときは知らぬ存ぜぬで貫き通せばいい。いくらでもやりようはある。幸いにしてURAはこちら側の味方だ、トレセン学園では対処できない状況や相手でもある程度までは……誠意ある態度で粘られたら根負けする可能性もあるが、そういう記者はそもそも秘密の約束をしっかり守ってくれるさ」

 

『それな〜! このヒトなら大丈夫でしょ、って思うとついつい余計なことまで喋りそうになるのわかりみが深ぇわ。ま、ウマ娘のプライバシーにも関わるから本当には喋らんけど』

 

「いずれ記者たちにも堂々と話すことになるさ。隠し事ってのは暴きたくなるものだからな、だったらこちらの都合の良いタイミングでしれっと公開してやればいい。なぁに、きっとメディア関係者は笑って許してくれるさ。なにせオレたちの真剣勝負を散々にお祭り扱いしてくれたんだから。さて、余計な前置きが長くなってしまったが本題に入るとしよう。────打倒日本を目的とした【世界連合】の結成についてな?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 日本 中央トレセン学園

 

 第9レース場

 

 設定【東京レース場】

 

 想定 芝 距離2400 左周り

 

 

 蹄鉄シューズがターフを蹴る音に混じり、じゃらり……と。不快な金属音がシリウスシンボリの耳に届く。

 

 それは現実には存在しない幻聴であることを彼女は知っている。

 

 それが確実に存在している脅威であることを彼女は知っている。

 

 誰が呼び始めたか【黄金不沈艦】という二つ名を、その破天荒なウマ娘を誰よりも完璧に制御しているあの男は楽しそうに笑っていた。後方でバ群に沈んでいたかと思えば、いつの間にか先頭争いをしている。なるほど、名前に因んで不沈艦とは悪くない例えなのだろう。

 その強烈なキャラクター性と合わせて話題になると飛び付いたメディア関係者は、結局レースのことなど理解していない。少なくともシリウスシンボリはそう確信していた。あるいは、ターフの上を走りながらも“持たざる者”には決して聞こえないのだろう。これは抜錨の合図であると同時に処刑人が静かに近付いてくる足音なのだ。

 

 2度目の直線、距離にして1000。すでにそのウマ娘は、ゴールドシップは()()()()()()()()()()()。それはひとりの悪魔のような男によって引き出された、本人すら知らずにいた勝札・超ロングスパート走法。

 

 相変わらずデタラメなヤツだな、と。別に今回が初めての勝負ではないのにシリウスシンボリの口元は楽しそうに歪んでいた。

 本人曰く「ゴルゴル星の住人は心臓のほかに予備としてハートとハツと核がある」とのことだが、案外まったくのウソではないのかもしれない。

 

 冷静に。

 

 勝負を楽しむのは良し、だが判断は冷えた頭で下す。

 

 闘争本能を刺激されてしまえば脚が騒ぎ出すのはウマ娘として、アスリートとして切り捨てることのできない性分である。それはシリウスシンボリとて同じ。

 日頃の巫山戯た態度だけで判断し、甘い見積もりで勝負を仕掛けたバカのように恐怖で急かされるワケではない。が、本気で自分を潰しにくる者を相手に心を昂らせるなというのは難しい注文だった。

 

 事実、ジリジリと追い上げてくるゴールドシップの気配とは別にもうひとり。ターフの上を縦横無尽に駆け抜ける黄金の鎖に混じって、鈍色にギラつくナイフの破片が降り注ぎシリウスシンボリの頬を掠めた。

 

 生粋のギャンブラーを自称する彼女にとって、仕掛けられた勝負から逃げるという選択肢は無い。選ばないのではなく、始めからそのような選択肢など存在しないのだ。

 なぜなら彼女は、ナカヤマフェスタは“勝利”に餓えているのではなく“勝負”に餓えているから。相手の実力がどうであろうと勝負を挑まれれば受けて立つ、売られた喧嘩は大喜びで高値で買う。勝つための駆け引きも心得てはいるが、その上で分の悪い賭けに際限なく上乗せしてくる。

 

 その悪癖は担当(仮)トレーナーが見つかっても治らない。むしろ、より悪化している。一応、ではあるが。あの男に吠えヅラを……という気持ちはシリウスシンボリにも理解できないことはない。ルールに護られたお遊びでのイカサマは反則だがルールの無い真剣勝負ではイカサマを見破れないほうが間抜けだ、とニヤニヤ笑うトレーナーを叩きのめすのはそれはもう爽快だろう。

 残念ながら今日まで一度も胸がすく思いなど彼女たちは得られたことはない。フジキセキほか手先が器用なウマ娘たちでも見破れないイカサマに負けては様々なペナルティを受けていた。おかげさまで地域交流の一環という名目で各地の幼稚園や保育所で完璧な【歌のお姉さん】を演じたシリウスシンボリとナカヤマフェスタはレース時のクールなギャップも含めてチビっ子たちに大人気である。尊厳破壊すべり台だって子どもたちと一緒なら怖くねぇなのだ。

 

 そんなおもしれーウマ娘エピソードは本当に真実なのか? と疑われるほど鋭い気配でナカヤマフェスタがギアを上げて迫ってくる。彼女が得意とする差しの組み立てにしては早すぎる仕掛け。

 迎え討つか、否か。誘われているのは承知の上、だが判断は冷静に。勝負そのものを純粋に楽しむという価値観は否定しないが、それは勝者と敗者がハッキリと二分されるレースの世界で敢闘賞などという妥協を受け入れる理由にはならない。

 

 加速する。

 

 前に出る。

 

 蹄鉄シューズ越しに伝わってくるターフの感触が脚の筋肉を伝わり全身に広がる。コンディションは良好、蟻一匹ですら識別して避けることができそうなほどコンセントレーションが高まっていた。

 

 ならば問題ない。

 

 中距離であれば、この程度の競り合いであれば問題なく蹴散らせる。

 

 

 ────漆黒の影さえ張り付いていなければ。

 

 

 冷たい指先が、人ならざるモノのように全く体温を感じさせない陶器のような感触が、ヌルリと首筋を撫でる感触。

 音も気配も無く静かに“ソレ”はそこにいた。一瞬だけ視線を動かせば、感情の読めない無機質な金色の瞳がそこにある。

 

 互いに、互いを()()()()

 

 微かに動く唇。

 

 それはまるで「ようやく自分の存在に気がついたのか」と笑っているようでもあり。

 

 それはまるで「ようやく自分の存在に気がつけたのか」と嗤っているようでもあり。

 

 普段の彼女を知る者であれば、シリウスシンボリも含め挑発的な言動を嗜む姿など想像したことすらないだろう。物静かでちょっと変わり者なところがあるコーヒー好きなマンハッタンカフェのイメージにはそぐわない。

 そもそも彼女のレースに対するモチベーションがどこにあるのかすら不明であった。なんならルームにいつの間にか設営されていたコーヒー用のエリアで作業をしているときのほうが気力に満ちているんじゃないかとさえ思っている。

 

 なにも印刷されていない紙袋を持ってオルゴールのギミックのように上機嫌でくるくる回っているところへ「なんか知らんケドとりまウェーイ☆」とダイタクヘリオスが差し出した手にニコニコ笑顔で「うぇーい……」とハイタッチを返した姿を目撃したときなど何人ものウマ娘たちが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたものだ。

 

 油断したつもりは、なかった。

 

 油断していないつもりでしか、なかった。

 

 マンハッタンカフェの脚質は長距離を得意とするステイヤー、ならばゴールドシップほどではなくとも早めに仕掛けてくるのは予想していたはずなのに。想像以上にナカヤマフェスタの熱気はメンタルに食い込んでいたらしい。

 分析はする。反省もする。己の過失を認めず停滞するようなウマ娘は中央トレセン学園で生き残れないのだから。とはいえ、さすがにレース中に課題点をリアルタイムで修正するのは難しい。そうした作業は勝負に勝ってからでも遅くないだろう。

 

 頭を切り替える。

 

 加速。

 

 加速。

 

 想定よりタイミングが早いが問題はない。

 

 これは練習なのだからと甘えた走りではなく、誰も彼も本番のレースと変わらず本気で潰しにきているのだ。そこまで情熱的なお誘いをいただいたのでは脚の具合だってすっかりその気になってしまう。トップギアを入れる? いいや、そんな妥協などしている場合ではない。オーバードライブまで一気に駆け上がれ。そうでなければ()()()()()()

 

 サイレンススズカやダイタクヘリオスとも違う。ただただフィジカル任せに先頭を走りきるスタイルではない。

 

 マルゼンスキーやアイネスフウジンとも違う。勝負と勝敗を区別して純粋にレースだけを楽しんでいるワケでもない。

 

 育成評価が高くエリートを自称するトレーナーたちにとっての不幸は、彼女の言動を中央トレセン学園に所属するウマ娘としてはあまりにも俗物的であり不適格ではないかと侮ったこと。

 自らの野望を一切隠すことなかったそのウマ娘にとっての幸運は、あらゆるモノを欲して伸ばしたその手を掴み抱き寄せてくれる────と思わせて星々の大海に容赦無くブン投げるようなトレーナーと出会ってしまったこと。

 

 圧倒的なスピードで序盤から後続を引き離しにかかる大逃げ。逃げウマ娘が自分のペースで好き勝手に加速するというだけでも面倒なのだが、タップダンスシチーの厄介なところはそれに加えて“勝つための駆け引き”も抜かりないところにある。

 かつては仕方なく選ばれた逃げの戦法も、日本のレース界隈ではウマ娘の気質と脚質に合わせた勝つための立派な作戦として認められていた。フィジカルに任せて速度と持久力で押し潰す走り方ができないウマ娘は、位置取りやフェイントを利用して自分に有利な状況を作るためのテクニックを磨いているのだ。

 

 それではタップダンスシチーはどちらのタイプなのかと言えば、彼女はフィジカルとタクティカルの二刀流で暴れまくる大変危険なウマ娘。栄光への渇望と、純粋な好奇心と、テンションに任せて行動できるポジティブさ。それら全てが完全に噛み合った結果逃げウマ娘として無事完成した、あるいは……完成させられた? とも言えるかもしれない。

 

 始めは蹄鉄シューズに触れる程度。

 

 次第に足首まで浸るように。

 

 やがて下半身すら覆われスタミナを奪われ。

 

 ついには大波にのまれ完全に流される。

 

 この厄介極まりないウマ娘を追い越すためには数多の駆け引きを制するだけの冷静さと判断力に加えて、まるで財宝を求め荒れ狂う海も恐れず進む海賊のような度胸が無ければ勝負すら成立しない。勇気と無謀は違うと賢しい者は得意気に語りたがるが、ならば冒険とはいつの時代も愚者でなければ最初の一歩目を踏み出せないのだろう。

 もちろん、それは思考放棄を肯定するという意味ではない。そのルートが危険であると理解した上で、その先に抜け出すための実力が自分にはあるのだと信じることができるか否か。リスクとリターンを天秤にかけて安全策を選ぶことは決して悪いことではない。ただ、それはシリウスシンボリの好みには合わないというだけの話でしかない。

 

 大航海時代を描いた冒険譚のように、巨大なクラーケンや大海竜を思わせるように、タップダンスシチーの巧みなフェイントがシリウスシンボリのルートを次々に潰してくる。

 好戦的にしても極端が過ぎる逃げウマ娘に呆れつつ……可能性を手繰り寄せた。内ラチ沿いに視えた確かな勝ち筋。僅かでも気圧されて一歩でも踏み違えば敗北どころか大怪我すらもあり得ると理解しつつ。

 

 ならば、と。

 

 勝利を確信し、迷わず踏み込む。

 

 自分の脚がターフを叩く小気味良い音が耳に届いたような気がして。真剣勝負の真っ最中であるにも関わらず、シリウスシンボリは口元の笑みを抑えることができなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……いつからトレセンはファンタジー世界の冒険者ギルドになったんだ?」

 

「あら、退屈しなくていいじゃない。それだけ貴女の感受性が高いということだし、質の高いトレーニングになったという証明でもあるでしょう?」

 

「それについては、まぁ、否定はしない……いや、否定しなくていいのかコレは?」

 

 

 担当トレーナーである老婦人から渡された甘さひかえめの特製ドリンクで喉を潤しながら、勝利の余韻に浸ることもなく複雑な心境で黒ジャージ姿のライバルたちのほうを眺めていた。

 本当に魔法のようなオカルト的な現象が起きていたワケではない。彼女たちの走りがそれだけ完成しているということ。たまたまシリウスシンボリには先ほどのようなイメージとして感じたというだけであり、見る者の感性次第でいくらでもヴィジョンは変化するだろう。

 

 なんだか簡単に納得してはいけないような気もするが、それでも充実したトレーニングかどうかという問い掛けには肯定するしかない。自分の勝利を疑わないことと、相手が本気で挑んでくるかは別の話。

 私とは違う、彼女は特別なんだ……と、妥協しながら走るぐらいなら最初からターフに立つなと言いたい。言いたいだけで言わないが。教師でも教官でもなければ母親でもないのに飢えることさえできない者を気にかける理由などないのだ。

 

 まぁ。それを言ってしまうと────担当トレーナーでもないのに当たり前のように4人のウマ娘たちに指導している黒ジャージ軍団、非公式チーム【ポラリス】のトレーナーはなんなんだという話になってしまうのだが。 

 

 好きか嫌いかでいえば嫌いではない。まぁ、そう。別に嫌いでは、ない。あそこまで人生を楽しんでそうなヤツは見たことがないし、問題児と言われていたはずのウマ娘たちさえも「あぁ、アイツら思ってたよりまともだったんだな」と教官たちの評価を変えたのはある意味で尊敬してやってもいいぐらいには嫌いではない。

 相変わらず名門だのエリートだの肩書きに拘る連中には煙たがられているが、そのトレーナーとしての実力は本物なのだ。ワケのわからない珍妙なトレーニングでも怪我することなくメイクデビューまで走り切り重賞で勝ったり負けたりを繰り返せるレベルまで育てている事実がある以上、誰がなにを言ったところで負け犬の遠吠えにしかならないだろう。

 

 

 だから。元から騒がしいほうではないマンハッタンカフェや普段は静かな立ち振る舞いのナカヤマフェスタだけでなく、お祭り好きで年がら年中ムダに明るいタップダンスシチーやゴールドシップもポラリストレーナーの話は黙って聞く。

 

 能力に対する信用と人物に対する信頼。どんなウマ娘でも長所を見つけ出して才能を開花させるトレーナーとしての能力に対する信用と、どんなウマ娘でも本人が望む限りその背中を支え続けて可能性を追い求め続けてくれる人間性に対する信頼。

 なにかとバカなことをやらかしては呆れられてはいるが……それでも、よほど熱心なスカウトで心を掴まれたりでもしなければポラリスからウマ娘たちが離れることはない。もしかしたらハプニングに巻き込まれるのを楽しんでいる可能性も否定できないけれど。

 

 

「さて、本当に大変なのは次からよ? なにせ向こうの持久力は全員、誇張表現無しに桁違いだもの。限界ギリギリまで、というオーダーはこちらからお願いしたのだから」

 

「仕方ないだろう。本気で喉笛に噛み付いてくるような相手じゃなけりゃウォーミングアップにもなりはしないんだからな。わざわざ世界各国からお嬢様方が物見遊山にいらっしゃるんだ、ちゃあんと真面目にオモテナシしてやらないと日本の評判に関わるから仕方ない。アンタもその辺り、イロイロ言われていたようだが」

 

「あぁ、アレはタダの雑音だから気にしなくていいわ」

 

「でも煽り散らしてきたジジィには張り手カマしてたじゃないか」

 

「たまたま虫が頬にとまっていたから親切心で追い払ってあげただけよ? でもブライアンの走りは確かに見事だったわよね〜。クラシック路線でまともに戦績を残せていないトレーナーが、これが日本の三冠ウマ娘だ〜って誇らしげにしてる姿はとても滑稽で面白かったわ」

 

「おかしいな、どちらかと言えばコッチが小言を頂戴する側だったはずなのになんでトレーナーに対して説教しなきゃならない気分にさせられてるんだ?」

 

「常識は、敵よ!」

 

「きっと常識のほうもアンタを敵だと認識して頭抱えてるよ。まさしく相思相愛だな。さぁて、それじゃあもう1本勝ってくるとするか」

 

 

 特別な指導などはない。シリウスシンボリの調整は完璧であり、コンディションも絶好調である。それを本人も自覚しているのだから、分かりきっているような指示をいちいち出す必要などないのだ。

 こうした雑談も老婦人トレーナーなりに信頼しているからこその軽口である。それに毎度付き合わされているシリウスシンボリにしてみればたまには慎めと言いたくなるのも当然だが、余計な干渉を好まない彼女にとって心地良い距離感と言えなくもない。たまにトウカイテイオーにも負けないぐらいウザ絡みしてくるのが難点だが。

 

 下手にクソ真面目で融通の利かないトレーナーに捕まるよりはマシだと自分に言い聞かせながら、すでに他の4人が待ち構えているターフに戻る。

 

 

「よぅシリウス! もう休憩はいいのか? 言っとくけどゴルシちゃんたちは夏の合宿でエジプトのトレセン学園と合同練習で砂漠を激走しまくってきたからな、プラナリアも驚いてウーパールーパーになるレベルの回復力あっから超余裕だぜ!」

 

「ダートコースや日本の砂浜とは別モノだったな。ちょっとでも油断したら砂の底まで飲み込まれそうになる感覚はなかなか面白かった。ああいうトレーニングやレースなら大歓迎だぜ」

 

「確かに、対戦相手の過去から甦った亡霊ウマ娘たちとはもっと勝負してみたかったかもな! レースが終わってから友好の証に黄金細工のスカラベをPresentされたが、次があるなら日本からお土産のひとつでも持って行きたいところだ!」

 

「さぁ……どうでしょう? だいぶ満足して消えていきましたから……。もっとも、今回の勝負がまた……現世への未練となっているのであれば……もしかしたら、とは思いますが……」

 

「そうか、わかった。後半は聞かなかったことにしてやる。だからさっさと準備しろ。こっちはようやく脚の機嫌が良くなってきたんだ、何度でも遊んでやるよ」

 

「なんだよオメー、イヤそうな素振りしてたけどノリノリじゃね〜か。いよッ! さすがは今年の日本総大将ッ! パリコレも柏手を打つぐらい活きのいい勝負服を仕入れてくれよッ!!」

 

「……チッ。言っておくが仕方なく引き受けてやっただけだからな、勘違いするなよ? ったく、なんでこんな面倒な扱いを受けなきゃならないんだか」

 

「そりゃあ、アレだ。お前さん以外」

 

「担当契約してねーし」

「担当契約してないからな」

「担当契約をしていないからだ!」

「担当契約、してませんので」

 

「あぁそうだな知ってるよそのせいで無意味に持ち上げられて優等生扱いされてマスコミの相手が鬱陶しいことになってるんだからなァ!?」

 

 

 日本のウマ娘が活躍するようになり、もとから海外のスターウマ娘が集まることでお祭り騒ぎであったジャパンカップの注目度はとても高い。ならば日本側のウマ娘たちのリーダー的存在には育成評価の高いトレーナーが担当しているウマ娘にお願いしたくなるのが大人の事情というもの。

 そうした厄介で面倒な政治的駆け引きを無視するにはシリウスシンボリはクレバーが過ぎるウマ娘である。たとえ不本意だろうと自分の言動次第でトゥインクル・シリーズに対する風評に影響が出るのだと理解してしまえば、少しぐらいは道化を演じてやる必要もあるだろうと諦めるしかない。なんだかんだ面倒見が良く責任感があるところは彼女の長所でもあり弱点でもあるのだろう。

 

 冗談ではなく心の底から面倒だという感情が溢れているのか、わかりやすく忌々しいという表情で首の後ろに手を当てながらターフに入るシリウスシンボリだったが────。

 

 

「……なぁ、アイツ。やっぱ楽しんでるよな?」

 

「ククク……ッ! 素直じゃないほうがシリウスらしくて結構なことじゃねェか」

 

「ハッハァッ! そうでなくっちゃ張り合いがない! 次こそ置き去りにしてやるさ!」

 

 

 

 

 

 

 見る者の感性次第で、そのウマ娘の在り方を示すヴィジョンは様々なイメージとなって伝わるのだ。それは、或いは。荒れ狂う氷嵐の中を威風堂々と駆け抜ける天狼の姿であるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「……ところで、シリウスさん」

 

「どうしたカフェ。手加減して欲しいなら、上手におねだりできれば考えてやっても」

 

「いえ、それは心底どうでもいいのですが……向こうの、集団が」

 

「ちょっとなんのこと言ってるのかわからないな」

 

「ですが、会長……ルドルフさんを先頭に、法被に鉢巻きに……応援の練習、でしょうか……? あ、ルドルフさんが両手に持ってる団扇でアピールしてますけど……」

 

「知らねぇ見えねぇ聞こえねぇ。目を合わせるな、認識するんじゃねぇ」




 連載再開は、まだだよ。

 だってグラスワンダーのターンが残ってるから。
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